第40話 Rudest Attacker Ⅳ

 少女は遠目にクリスの放ったLAMが直撃したのを確認していた。そして断末魔の叫びにも似た炎龍の雄叫びが、炎龍ディオルギアに与えたダメージが大きい事を悟らせてくれた。



 だが次の瞬間自分の目を疑う事になる。洞窟の入り口から空に向けて息吹ドラゴンブレスが放たれたからだ。



グルルルルォォオオオッ

グガァァアアッス


 先程の断末魔の叫びとは打って変わった炎龍の雄々しい雄叫びが、辺りに木霊していく。炎龍ディオルギアはその雄叫びと共に、洞窟を完全破壊しながら出て来ようとしていたのだ。

 そして更に少女は目を疑う光景を見る事になる。何故ならば炎龍ディオルギアの身体には、少女達が必死になって負わせたハズののだから。

 剥がれた鱗も折れた角も破れた翼ですらも、「そんな事は始めから起きていなかった」と言わんばかりの完全体で炎龍ディオルギアは洞窟から外に出て来たのだ。



-・-・-・-・-・-・-



 クリスは2本目のLAMを手にして構えていた。クリスは自分が撃った1本目が直撃し、その威力の高さに放心していたがクリスの動物的な「勘」は2本目のLAMをスグに持つ事を告げたのだ。


 クリスはその「勘」に従いプローブを伸長させ肩に担ぐと、照準器の中を見た。



『まだ生きているのかッ!』

『今度こそ、同朋達の仇討ちだッ!喰らええぇぇぇぇぇッ!!』


ぼしゅうッ


 そこ照準器に映し出されていたのは、まだ息がある炎龍ディオルギアの姿だった。

 だからクリスは洞窟から出て来ようとしている炎龍に対し、雄叫びを上げながらLAMのトリガーに再び指を掛けその弾頭を放ったのである。


 合計で三度みたび炎龍目掛けてLAMは飛翔した事になるが、2度ある事は3度目で選ばなかった。

 言い換えるならば「3度目の正直」が近いが、討伐戦に参戦している少女とクリスからしたら「正直」ではなくて「嘘」であって欲しかったに違いない。

 そんな「3度目に起こった嘘」とはLAMの命中ではなく、LAMの消滅だった。




 炎龍は自身が何故生きているのか分からなかった。だが生きているのは事実だ。

 身体を襲っていた激痛は感じられないばかりか、その原因たる傷すらも無くなっていた。然しながらその反面、自身が負った恥辱や傷付けられた誇りは無くなってなどいなかった。否、むしろ全てがどうでも良くなるくらい、憎くて憎くて憎悪の炎にその身を焦がしていたのだった。



 炎龍ディオルギアは全てを焼き尽くす事にした。見境なく自分の炎を振り撒き燃やす事にした。

 そこに丁度飛来してきたLAMの弾頭を見たのだ。それは先程見た敵の攻撃。自身を死のふちに追いやった憎っくき敵の攻撃に対して、何1つ躊躇せず溜める事なくノーモーションで息吹ドラゴンブレスを吐いたのである。


 憎い憎い敵の攻撃は「じゅっ」とだけ音を立てると何もする事なく消滅した。

 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

 足りない足りない足りない足りない足りない足りない。

 まだ燃やし足りない。全てが憎い、全てを燃やす、全てを憎み、全てを燃やし続けてやる。

 こうして炎龍ディオルギアは復讐を遂げる為に暴れる事にしたのである。



 息吹ドラゴンブレスによりLAMの弾頭を融解させ、爆発させる事なく消滅させた炎龍ディオルギアは雄叫びを上げた。傷も無く完全に力を取り戻した炎龍は、そのまま狭い洞窟を破壊し無理矢理抉じ開け外に出たのだった。




「ちょっとちょっとッ!一体どういう事?なんで、あんなにピンピンしてるワケ?」

「ついさっきまで瀕死だったでしょう?古龍種エンシェントドラゴンが超回復以上の回復力を持ってるなんて聞いたコトがないわよッ!!」

「どんなカラクリ?どんなチートを使ったっていうの?!」

「チートダメ!絶対反対ッ!!」


 少女は正直なところテンパっていた。あれだけ攻撃してあれだけダメージを与えて、瀕死にまで追いやった相手が元気に飛び出してきたらテンパるのも無理はない。そして出来る事なら炎龍に対して「ツッコミ」を入れずにはいられなかった。

 無論のこと漫才をしているワケではないので、炎龍に対して「ツッコミ」なんぞ入れる事は出来ないのだが……。



「あぁもぅッ!良くわからないけど、こうなった以上ヤバ過ぎる。距離を取れば取るだけ危険性リスクも跳ね上がる」

「またイチからやり直しだけど……って武器弾薬に精霊石を減らした状態からじゃイチからとは言えないわね」

「ゼロから、いえ、マイナスからでもやり切ってやるわッ!」


 少女は投げやりになりながらもブーツに火を点すと、急いで空を駆けて炎龍の元に向かっていく。

 それは限りなく絶望的で、限りなく無策に近い状態である。だが今の状況で策を考えるなんて、そんな余裕はとっくのとうに失くなっているのもまた事実だった。




 炎龍は洞窟から外に出て辺りを見回していく。近くにはギャーギャー騒ぐ小虫がいる程度で、自身に攻撃をしていたヒト種の姿は見えなかった。だが今はギャーギャー騒ぐ小虫ですら憎い。全ての事象が現象が現状が実情が憎い。

 拠って憎しみという激情に支配された炎龍ディオルギアは、本能憎しみのままに周囲の全てを焼き払う事にしたのである。

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