第39話 Rudest Attacker Ⅲ
放たれた光の矢は「殺傷能力に特化した概念」を持ち合わせている為に、その「概念」は疾走り向かっていく最中に具現化されていった。光の矢はその身の内から、幾何学的な形に棘を展開し広がりをみせていく。そして更にはそのまま炎龍ディオルギアの首の付け根から、左前脚→腹→左後脚の順に棘でその付近をも切り裂きながら貫通していったのである。
一方で炎龍ディオルギアは矢で貫かれながらも叫び声を上げなかった。その口の中に溜めていた炎を諦めていなかった。
根性論で耐えた炎龍ディオルギアは、
ゴガアァァァァァァァアッ
「えっ!?ウソでしょッ!!アタシの概念魔術に耐えたの?!」
超高温の炎が少女に向かって吐き出されていく。だが今の少女はこの炎を避ける術はない。身を隠す事が出来る岩は近くにあるが隠せるだけのそんなモノでは身を護るのは不可能だ。
スグに焼け焦げてしまうだろう。
少女の目論見では概念魔術で、
だから予想外であり想定外であり大誤算であり万事休すとしか言えない状況になっているのた。
「仕方無いわねッ。かなり勿体無い贅沢な使い方だけど……。背に腹は変えられない!!こんなところで死にたくないしねッ!!」
「デバイスオープン、精霊石ウンディーネ、フルオープン、フルバーストッ!続いて精霊石スカディ、バーストッ!!」
少女はデバイスに収納してあった下位の「水の精霊石」を全て放出しバーストさせていく。更にそこにスカディの精霊石をバーストさせる事で水の精霊石から噴き出した大量の水を瞬間的に凍らせ、自分の目の前に分厚い氷の壁を構築させていったのだった。
炎龍ディオルギアと自分との間に分厚い氷の壁を張った少女は、氷の壁が
少なくとも後ろからいずれ迫ってくる
少女が張った氷の壁は超高温の炎に晒され急速に溶かされていった。然しながら膨大な水量に拠って作られた氷の壁が溶けた事で、濃密な水蒸気がその場に発生する事になる。
更にその濃密な水蒸気は局地的に数m先も見えない程の濃霧を展開させていったのだ。結果として濃霧によって目標を見失った炎龍ディオルギアは、
もし仮に
クリスは少女に言われた通りにLAMを準備している。プローブを伸長させ照準器を覗き込み、いつでも撃てる体勢を取っていた。
一方でガルム達は残り2匹まで数を減らした上に、そのどちらもが負傷している
-・-・-・-・-・-・-
少女は洞窟を必死に駆け抜け、危機一髪のところだったクリスを助けた。流石に少女としては、クリスが
それに、「魔獣が現れるかもしれない」というイヤな予感が当たった事に対して嫌気が指していたのもまた、事実だった。
クリスに対して指示を出した後で、少女は炎龍ディオルギアとの最終決戦に臨むべくクリスのいる場所からは離れた位置に陣取った。だが身体はあちこち酷く痛む。
爆発に因って壁に叩きつけられた際に負った裂傷と、
更には
魔力に拠って傷の治癒を行えるのは特殊な専門職である
それくらい天性の才能が問われる専門職であり、現時点で
従って錬金術で作れるポーション類はハンターの頼みの綱なのだ。だが自前で用意出来るポーションはローポーションが関の山なのもまた事実であり、大怪我を負えば
そしてローポーションより効果が高いモノであれば多少の治癒が期待出来る物もあるが、それは
よって、それくらい怪我に対してはシビアなのである。
「嫁入り前の乙女の身体になんてコトしてくれるのかしらッ!」
「まぁ、カレシなんていないけど。はぁ……」
直接的に炎龍ディオルギアが付けた傷は軽度の火傷くらいだから、炎龍からしたらとばっちりとしか言いようのない文句だ。そしてその後の自虐は身体以上に心に傷を負わせていた。
「でも、冗談を言ってる時間があるなら少しでも体力を回復しておかないとッ」
少女はローポーションをデバイスから取り出すと、既に切れていた鎮痛効果を上書きしていった。更に申し訳程度の
装備スロットに入っている
拠って洞窟内で討伐完了する事が理想的な戦略だったと言える。が、今回は時の運が味方しなかったようだった。
炎龍ディオルギアは洞窟の出入り口に向かって、洞窟を自力で
身体の至る所が破壊され、引き
『同朋達の仇を討たせてもらうッ!!』
『炎龍覚悟ッ!!』
クリスの見詰める照準器の中に、炎龍ディオルギアの姿が薄っすらと映り込んできていた。クリスはそれを見ると1回だけ深呼吸をして、強く歯を噛み締めるとLAMのトリガーを引いたのだった。
「ぼしゅうッ」という破裂音を立てて暗闇の中を一瞬だけ光が照らしていく。
ドガアァァァァァァン
ズギャアァァァァァァァアス
『あ、当たった!!』
『やった!!これで同朋達の無念に一矢報いる事が出来たッ!!』
クリスがトリガーを引いた数秒後にLAMの弾頭は盛大な爆発音を奏で、それに追走するように盛大な雄叫びが上がっていく。然しながらLAMの威力を全く知らなかったクリスは、一矢報いられた感動と共にその威力に驚きその場にへたり込む形で放心していたのだった。
炎龍は自分に向かって来る何かが見えていた。然しながら破壊しなければ進めない程狭い洞窟内では、ほとんど身動きが取れなかったのである。
そんな中で頭だけは本能的に守ろうとした事から、
クリスが放ったLAMの弾頭は、炎龍ディオルギアの首の付け根の更に下の部分にある上腹部に突き刺さり爆発していた。
そこは硬い鱗の生えていない部分であって、翼膜の次に柔らかい腹に対して貫通する形で突き刺さり、体内で爆発したLAMは炎龍の腹に文字通り大穴を開けたのである。
度重なる攻撃に晒され深く傷を負いダメージは蓄積していた。更には腹に大穴まで開けられた炎龍は既に息も絶え絶えになっていた。
この状況で少女が目の前にいたら、迷わずに止めを刺して炎龍ディオルギアの討伐は成功し
だがそんな炎龍の前に現れたのは少女でもクリスでもない。フードを目深に被った得体の知れない男だった。
その男は何も言わず、瀕死の炎龍ディオルギアに対して1つの光玉を投げたのだ。
その光玉は炎龍に対しては奇跡を
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