不思議なカレラ ～Became a shooting star～

第37話 Rudest Attacker Ⅰ

　赤く光る目は全部で8つ頭数（あたまかず）で考えれば4体。どうやら爆発音を聞き付け少数の群れで向かって来たようだ。

　それに対する少女のガルム（使い魔）達は全部で4体。それとクリスを合わせて数だけで言えば4対5。

　クリスは目を凝らし暗がりの向こうに朧気（おぼろげ）ながら「敵」の正体を見た。それは「小竜種（ラプトリウス）」だった。

　複数種いる「小竜種（ラプトリウス）」の内の、どの種の「小竜種（ラプトリウス）」かまでは分からなかった。

　「地球」に於いて過去に絶滅した種である「恐竜種（サウルシウス）」は、テルースに於いては独自の進化を遂げ「魔獣」として生態系上に存在している。拠って生態系上の龍種（ドラゴン）とは全く異なる種族だ。

　更に付け加えると「恐竜種（サウルシウス）」の名称は、生態系上に於いて大分類でも使われている事から広義の意味では「小竜種（ラプトリウス）」も「恐竜種（サウルシウス）」となる。然しながら狭義の意味での「恐竜種（サウルシウス）」と言う名の魔獣は存在するのでややこしいと言えばややこしい。

　これと同じ現象は「鬼種（オーガ）」でも同じ事が起きているのでま（・）ま（・）あ（・）る（・）と（・）言（・）え（・）ば（・）ま（・）ま（・）あ（・）る（・）のだ。

　小竜種（ラプトリウス）は種族としては「小竜」になるが体高は2m以上あり全長は5mを超える。そして歩行形態は2足歩行だが腕の部分は短く、それほど発達はしていない。性質は狡猾（こうかつ）で用心深く性格は残忍である。決して単体で行動せず少数から多数の群れで行動し獲物を狩る（ハントする）。

　鋭い爪と牙を有し脚力は強靭（きょうじん）で、その脚力を使った跳躍（ちょうやく）で相手に飛び付き、爪と牙で切り裂いて捕食するのだ。

　それらの事から新米ハンターでは手に負えず、狩る（ハントする）ハズが狩られる（ハントされる）側に回る事も少なくない。中堅ハンターでも多数の群れでは為す術もなく撤退させられる事から、群れの頭数に拠っては脅威度は比較的高くなったりもする。

　小竜種（ラプトリウス）は進化の過程で少なくとも現在では9種類確認されており、どの種類かによって討伐難易度には振り幅がある厄介と言えば厄介な魔獣と言えるだろう。

　現状では魔獣の個体に於ける討伐難易度は8種類ある。

　拠ってD-C（簡単　←）-B-A（普通）-S-SS（難しい）-SSS-UK（→　非常に難しい）の順に難易度が変わる。

　ちなみに討伐難易度の「振り幅」とは小竜種（ラプトリウス）であれば、Cランク相当の種類やAランク相当の小竜種（ラプトリウス）の種類がある事を示している。

　これは個体の討伐難易度であって、難易度が低い種でも群れる事によって脅威度は格段に上がるので飽くまでも目安でしかない。

　ちなみに魔犬種（ガルム）はBランク相当であり、炎龍ディオルギアはSランク相当になる。

　ただしこれらの討伐難易度はハンターを有する「公安」と「ギルド」が定めたものなので、クリスは目の前の小竜種（ラプトリウス）の討伐難易度なんぞ知る由もないがそれは当然である。

　クリスは正直迷っていた。ここで小竜種（ラプトリウス）を相手にすれば、その最中に炎龍が出てくるかもしれない。「その時に自分はどうするべきか……」「どうしているべきか……」

　然しながら「小竜種（ラプトリウス）であれば此の身に倒せない魔獣では無い」とも言い切れた。

　倒せない相手ではないが多少の時間はイヤでも掛かる。要は「どの程度の時間までなら掛かる事が許されるのか？」が問われていたと言えるだろう。

　クリスは迷っていたが、小竜種（ラプトリウス）達は迷いなく近寄ってきている。だがその歩みは途中で止まり、一定の距離を保ってこちらの様子を窺っている様子だ。

　そしてガルムもまた、直ぐには襲い掛かる事をせず睨み合いが続いていく。

　様子を窺っていた小竜種（ラプトリウス）達は前触れもなく、突如として攻勢に転じた。

　拠って先制を仕掛けたのは小竜種（ラプトリウス）の方だ。

　（クリスを含めた）数では負けている小竜種（ラプトリウス）達は、ガルム達を各個撃破しようと攻撃（跳躍からの踏み付け）を同時に開始したのだ。

　小竜種（ラプトリウス）からの不意打ちにガルム達は、一瞬たじろいだ様子だったが、小竜種（ラプトリウス）の攻撃を躱すと各個撃破で襲ってきた小竜種（ラプトリウス）の脚に、それぞれが噛み付いていった。

　魔犬種（ガルム）はペットとして飼われている大型犬を、2周りくらい大きくしたサイズの魔獣である。

　仲間意識が強く集団戦術を採用し、自分達よりも大きい相手にも物怖じせずに立ち向かっていく事が出来る。拠って体格差がある小竜種（ラプトリウス）に対しても、怖気づく事なく向かっていく事が出来ていた。

　一方で魔犬種（ガルム）は本来の棲息域が、「冥界」と言われている事から魔術特性を有している。従ってマナを集める事で強力な魔力弾を放つ事も出来る。

　ただし人間界は本来の棲息地と比べると、マナが薄い為に放つまでには時間が掛かる。拠って人間界で魔力弾を放つ場合は、1匹がマナを集めているその間は、他の仲間達が敵から身を挺（てい）して守るという戦術を採用する事もある。

　強襲し各個撃破するハズが躱（かわ）され、逆に噛み付かれる事になった小竜種（ラプトリウス）達は錯乱状態に陥っていた。

　小竜種（ラプトリウス）達はガルムに噛まれた脚を振り回し、必死に振り払うと再度様子を窺ったのである。

　噛まれた小竜種（ラプトリウス）達の脚からは血が滴っている。それは従来からの脚力を失った可能性を意味する。脚に傷を負った小竜種（ラプトリウス）達は、声で合図を送り合っている様子だ。

　拠って周囲に「ギャーッギャーッ」と甲高い鳴き声が響いていた。

　対するガルム達は1ヶ所に固まり、防御陣形を形成していた。結果として戦況は膠着（こうちゃく）していったのである。

　そんな時に1匹のガルムがクリスを見た。

『此の身にこの膠着を破る契機（きっかけ）を作れと言っているのか？』

グルっ

『うむッ！承知した！』

　ガルムと意思疎通が取れたかは分からないが、そのように考えたクリスは翼をはためかせると上空へと舞い上がっていく。そしてある程度の高さまで飛び上がると、今度はそのまま小竜種（ラプトリウス）達目掛けて急降下していったのだ。

『墜閃（舞い落ちるモノ）！』

『凪閃（静かに払うモノ）！』

どごぉッ

しゅしゅぱッ

　クリスは自分の龍征波動（ドラゴニック・オーラ）を長剣（ロングソード）の1点に集中させると、小竜種（ラプトリウス）達目掛けて突撃し、技を放ちそのまま横に薙いだ。

　結果として小竜種（ラプトリウス）達のいた大地はその一撃で、鈍い爆発音と共に抉（えぐ）り取られていった。

　小竜種（ラプトリウス）達は予想外の強襲に、慌てて回避行動を取る事しか出来ないでいた。然しながら脚に傷を負っていた事が災いしていたようだ。

　拠ってクリスの攻撃を避け切れず墜閃（舞い落ちるモノ）をまともに受けた1匹は、息も絶え絶えになったところに追撃を受けたのだ。

　こうして生命を絶やしていった。

　その光景を見ていたガルム達は一斉に動いていく。しかしガルム達は数を分散させず、4対1（数の暴力）で確実に1匹ずつ仕留める事にした様子だった。

　拠ってガルム達は得意の集団戦法で小竜種（ラプトリウス）1匹を仕留めに向かっていった事になる。

　逆にクリスの前には2匹の小竜種（ラプトリウス）がいるが、やはり意思疎通は取れていなかった様子と言えるかもしれない。いや、「きっかけを作る」と言う意思疎通だ（・）け（・）は（・）取（・）れ（・）て（・）い（・）た（・）が正解だろう。

『おいおいお前達』

『こっちの2匹を此の身に任せるという事か？』

『まぁいい。勝てない相手ではない』

『手短に相手をしよう！』

ギャーギャッ　／　ギャギャッ

　小竜種（ラプトリウス）は2匹がかりで鋭い爪を使った蹴撃と、牙に拠る噛み付きをクリスに向かって繰り出していく。だが鋭い牙に怖じ気る事無くクリスはそれらを紙一重で躱すと、すれ違いざまに一太刀。

『浅いかッ！』

『くっ。カウンターでは分が悪いな』

　この場合小竜種（ラプトリウス）は数による優位性（アドバンテージ）を持っており、ガルム同様に集団戦法を好む為に時間差を使った攻撃を仕掛けていた。

　拠って次の攻撃までのスパンは短く、カウンターを入れても非常に浅い（かすり傷程度）。

　クリスは有効打を与えられないまま、それを繰り返していくが効率は途轍（とてつ）もなく悪いと言える。

　小さな子供の様に無限の体力を持っていればいずれ倒せるかもしれないが、そんなモノを持っていないクリスは徐々に疲労を積み重ねていったのだった。

『あッ、しまっ！』

ドしんっ

『痛たたたた』

『あっ。やばばばば』

　クリスはあろう事か戦闘中に脚が縺（もつ）れたのだ。更に運が悪い事に縺れた足は、地面の石に引っ掛かりクリスは盛大に尻餅を付いた。天性の運の悪さが見事に牙を向いた瞬間だった。

　しかしその瞬間を小竜種（ラプトリウス）達が見逃さなかったのは、当然のコトだ。

　拠ってクリスが気付いた時には、小竜種（ラプトリウス）の頭がクリスの眼前に迫っていた。

グアアァァァァ

　小竜種（ラプトリウス）の顎が大きく開かれ、クリスの眼前にある。そしてその口元からはよ（・）だ（・）れ（・）が滴っていた。

『くっ、ころ…さないでッ！痛くしないでッ！』

　クリスは声に出す事なく固く瞳を閉じて心の中で何かに祈る事しか出来ないのだった。