第33話 Humble Battler Ⅴ

『これで全員みたいね』


 少女の前に11人の龍人族ドラゴニアがいる。決死の覚悟を持った戦士ウォリア達だ。

 だが逆を言えば龍人族ドラゴニアの中で闘える者達は、「これしかいない」という事にもなる。それ程までに龍人族ドラゴニアが負った傷は大きい。



 今回の炎龍ディオルギア討伐戦の、周辺各国が龍人族ドラゴニアの存在自体に勘付くかもしれない。(少女の直感的にマムは恐らく静岡国と交渉してると感じていた)

 だからこそ、危険に晒されるのは言わずもがな龍人族ドラゴニアなのだ。


 それに付け加え、情報はどっかからか必ずと言っていい程に漏れる。そうなれば密猟者が戦力の乏しくなった龍人族ドラゴニアに、手を出さない保証はどこにもない。


 だから少女の中にある考えでは、のだ。

 その為にてい良く闘わせない方法を少女は選んだのだった。



『じゃあ、これからテストをするわね』

『テストの内容は「鬼ごっこ」よ!』


『『『『『鬼ごっこ?!』』』』』


『詳細を説明するわねッ。まぁこれと言って、詳細も何もないんだけど。取り敢えずアタシから一定時間…そうね10分間逃げて頂戴!そうすれば、合格よ』

『だから逃げ切る事が出来ればその人は炎龍討伐戦に連れていくわ。でも逃げ切れなかったり、意識を失えばその人はそこで終わり。その場合はゆっくりと休んでね』

『でもそれじゃだから、もしもアタシに手傷を負わせられれば、その人も合格に!』

アタシを倒せれば全員晴れて合格でもいいわよ?』

『どう?ルールは分かったかしら?』


 少女のルール説明は、その場に集まった龍人族ドラゴニア達をザワ付かせていた。少女が紡いだルールは前半部分と後半部分では、

 だからそれは完全に後付けのルールだった。何故ならば少女は、文言ルールの中に入れておきたかったからだ。


 少女は龍人族ドラゴニアの性質を、「武闘派」という言葉が1番と感じていた。

 だからこそ挑発を含ませた。



 もし仮に全員が全員揃って、龍征波動ドラゴニックオーラのバフ盛り盛りで別々の方向に蜘蛛の子を散らす様に逃げれば、10分間のタイムリミットでは少女の手に捕まらない者が出て来る可能性が非常に高い。

 だからこそルールの中に挑発を織り混ぜて、それを鵜呑うのみにさせ、少女の元に向かって来るならだけの話しになる。


 それは「鬼役少女」の元にわざわざ捕まりに来るようなモノで、その方が取りこぼす可能性は絶対的に少ない。

 更にはその場合は少女が問答無用で意識を飛ばす予定なので、不満が挙がる事なく炎龍討伐戦に来られなくするコトが可能だ。

 要するに「一石二鳥作戦」だった。



 その場で少女の真意悪だくみを見抜いていたのはクリス1人だけだった。

 ダフドはクリスから少女の人となりを聞いていた事から、警戒をするに留めていた。



『それじゃあ、このコインをトスして下に落ちたら開始するわね。アタシを倒すつもりで向かってくる人は今から準備をしておいても構わないわよ?』


『やはり!そうなれば、此の身がやるべき行動は1つ』


 その言葉はクリスが見抜いた真意悪だくみを確信に変わらせた。少女が紡いだ明らかに怪しい挑発。

 そして周りにいる龍人族ドラゴニア達は挑発に乗って、一斉に龍征波動ドラゴニック・オーラを展開していった。クリスは龍征波動ドラゴニック・オーラを展開する事を選ばなかった。

 しかし警戒していたハズのダフドは安い挑発に乗ってしまった様子だった。


 少女は現在の状況を見極めるとデバイスのタイマーをセットし、コイントスをした。



 コインはゆっくり回転しながら少女の直上3mくらいの位置まで上昇し、そのまま回転速度を落とす事無く地面へと垂直落下していく。


 「ちゃりーん」という音が息を飲む音すら聞こえる静寂の中に響き渡る。それと同時に龍人族ドラゴニア達総勢11名は、一斉に行動を開始したのだった。



 真っ先に少女に向かって走った者達は計7名。残りの4名の中で距離を取り様子を窺っている者がダフドを含めて3名。そして残りの1名は一目散に、全力で離脱していった。

 そう、それはクリスだ。


 少女は先ず向かって来た7名に対して問答無用で型を放った。



「豪炎の型ぁ!」

「うりゃりゃりゃりゃりゃおりゃあッ!!」


 少女は武器を取らず拳だけで周囲に向けて実の拳の散弾をばら撒いた。


 開始早々に少女に向かって走り、その身に施したバフに拠って既に少女の目の前まで迫っていた7名は、真っ先にその実の拳の散弾と言う名の連打を全身に浴びた。

 拠って、その多過ぎる削りダメージから抜け出す事が出来ずに轟沈し、皆一様に意識を失って吹き飛ばされていった。

 これが開始から5秒後の事だった。


 更に少女はそのまま様子を窺っていた3名に向かって強襲した。



「流水の型ぁ、駆ける事のさんッ!!!」


しゅぱぱぱんッ


 今度は少女から生まれたきょの拳が、様子を窺っていた3名に襲い掛かっていく。

 ダフドは間一髪の所で躱す事が出来たが、残りの2名は強烈なきょの拳の一撃で吹き飛ばされていった。

 これが開始から7秒後の事だ。


 最終的にこの場に残ったダフドと少女は対峙する事になった。その間にクリスは走るのをやめて、翼を広げると空を飛んで必死に逃げていた。



『流石は族長ね?あれで倒れてくれていれば、直ぐにクリスを捕まえられたんだけど、まぁ、アタシも慢心は駄目って事ね』

『ふふふふふふふふッ』


ぶるるッ


 少女は口角を上げて楽しそうにダフドに近寄っていく。ダフドはその微笑みに妙な寒気を感じていた。

 それは偏に獅子が全力で野ウサギに飛び掛かる寸前の様子にも見えたし、無防備なカエルを狙っているヘビのようでもあった。



 ダフドは少女の力量に驚愕していた。そして自分達の非力さを恥じていた。

 少しでも「勝てる」なんておごりがあった事を、更には少女がその口から紡いだ「慢心」が最初から自分達の中にあった事を恥じたのだった。



 ダフドは龍征波動ドラゴニック・オーラを展開して全ての能力ステータスを爆発的に最大限まで引き上げていた。

 それでも少女が放った「流水の型」は紙一重で躱すのが精一杯だった。


 少女はダフドに近寄ると、ただの徒手空拳としゅくうけんで攻撃をしていく。

 だがそれは目にも速さの拳打や蹴りというだけであって、少女にバフが掛かっていなければ




 少女は朝の会議から抜け出していた時間でセブンティーンの元に行き、そのトランクの中から様々な飾りチャームお守りアミュレットを持ち出したのだ。

 なので今は龍征波動ドラゴニック・オーラ程ではないが、少女もバフが盛り盛りな状態だった。



『最初から逃げたクリスが正解だったのか……』

『全く、なんたる事だ』


 ダフドが完全に少女に対して打ち負け、少女の拳でダフドが吹き飛ばされた事で残りはクリス1人となった。



「後はクリスだけね。デバイスオン、索敵モード」

「さてと、クリスはどこかなー?」


 少女はデバイスを使って逃げたクリスを探す事にした。更にはブーツに火をともし空を駆けていく。

 これが開始から2分後の事であった。



『クーリースーリーデーーーまーーーてーーーーーッ!』

『ふふふふふ、クリスリーデどーーこーーだーーーッ?』


 少女は抑揚を付けずに言の葉を紡ぎながら、笑顔を浮かべたままクリスを追い掛けていた。見ように拠っては正直怖い。いや、見ように拠らなくても正直怖い。



 2人の距離は徐々に縮まりつつあった。それは翼で飛ぶ速さよりも、ブーツで駆ける方が速いので当然と言えば当然だ。


 クリスはこのまま逃げ続けていても早い内に必ず追い付かれ、トレーニングルームで味わったあの「型」が自分に向けて放たれる事を想像し身震いした。

 それ故に空を逃げ切る事は難しいと考え、速度を上げる意味も含めて眼下にある森に向かって自由落下していく。



「へぇ、分かってるじゃない」

「完全にクリスの事をしれないわね」




 森の中で息を潜めてクリスは好機チャンスを窺っていた。だが一方でクリスは勘違いをしていたのだ。

 息をひそめればと考えていた事が……である。


 クリスは少女が持つ……否、「デバイス」について深い見識があったワケではない。

 だからこそ勘違いをしていたと言えよう。



 一方で少女は突如として逃げる事を止めたクリスを怪訝けげんに思い、「何かを狙っている」と考えていた。

 それは結果として追い掛けるコトを止めさせ、様子を窺う事に換えさせた。


 少女が「手傷を負わせられれば」と、少女の行動を制限させたのだった。


 だが幾ら様子を窺っていても時間が流れるばかりで……ん?時間?そう!ここで少女は唐突に思い出したのだった。

 最初に設定した時間の存在を。



 要するに呑気のんきに、「かくれんぼ」をしている時間は無かったのである。



 少女は突如として速攻を仕掛けていく。クリスの居場所は分かっている。だから、そこを目掛けて全力で疾走る。

 残りの時間は30秒も無い。それ故に焦りからの速攻だった。



 クリスは「息を潜めていれば大丈夫だ」という事が、「勘違い」だと気付いてはいなかった。しかし、クリスの行動は少女に様子見をさせる事で時間を無駄に浪費ろうひさせ、最終的には焦りを掻き立てるという「結果」を持った。


 要するに今回はそれが「正解」だったと言えるだろう。



 少女の速攻はクリスに届く直前だった。クリスは少女の速攻に気付き、剣を抜き少女をぐ直前だった。



「た〜いむ・いず・あ〜っぷ」


 そしてそれは、少女の声がデバイスから響いた瞬間だった。

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