第32話 Humble Battler Ⅳ

 少女は急いでセブンティーンを迎えにいった。デバイスでセブンティーンと連絡を取り、認識阻害インヒビションを抜けて入って来るように指示を出していく。


 セブンティーンは少女の持つデバイスの位置情報を頼りに道無き道を進み、村近くまで進んだところで少女と無事に合流出来たのだった。然しながらオフロードで険しい森の中を進むのは限界があった事から、少女は森を少しばかり切り拓き環境破壊してそこにセブンティーンを待機させる事にした。

 その後、少女が持てるだけ荷物を取り出し龍人族ドラゴニアの村へと向かったのである。

 残りの荷物は後で取りに来るとセブンティーンに伝えて。



 少女が到着した事で宴は漸く始まった。



『クリスから聞いたが、不思議な魔術を使うそうだな?一体どんな魔術なんだ?』


『別に不思議でも何でも無いわよ?ただマナを編んで放つだけの魔術よ。何か特殊な力を使っているワケじゃないもの』

『だけど逆にアタシからすれば、アナタ達の「固有能力ユニークスキル」の方がよっぽど不思議よ?』


『わっはっは。確かにその通りだ。自分で使えない力の事は不思議な力に見えるモンだな』


『そう言えば獣人種は魔術特性が無い種族が多いって聞いてるけど龍人族ドラゴニアもやっぱり魔術を使えないの?』


『オレ達は他の獣人種達と比べると魔術特性が全く無いワケじゃない。だが、マナを練るのがどうも苦手だ。だから、今までに龍人族ドラゴニアの中で魔術を使えたって話しはほとんど聞いた事がない』

『だから魔術よりは能力スキル頼みの闘い方に片寄っちまう』


 少女達は宴の席の上座に座りその前にはたくさんのご馳走と酒が並んでいた。少女は流石に酒は遠慮して果実水を飲みながら食事をした。並べられているご馳走は野性味のある味でなかなかオツだった。

 一方でダフドとクリスの2人は酒をぐびぐびと飲んでいるが、酔っている素振りなどは見えなかった。



 こうして宴はその後も続いていく。少女は終始酒こそ飲まなかったが、この場の雰囲気に少し酔った気がしていた。

 だから夜風に当たる為に少し場所を変える事にしたのだった。



 空には星がきらめいている。白い星、赤い星、黄色い星、青い星、それら全てが輝く事を競い合っている様だった。

 街中と違って人工的な灯りは何1つ見えず、今日は月も出ていない。新月なのだろう。

 だからこそより一層、星明りがその儚さを強調しているように思えるのだった。



 夜のとばりが降りてからは大分時間が経っているが、そこまで冷えては来ていない。これならば寒さで闘いにくいなんて事は無いだろう。

 少女は夜風に当たりながら色々な事を考えていた。色々な事を考えていく内に夜は更にけていくのだった。




 翌日、龍人族ドラゴニア達は会議から朝が始まった。



『さて、皆、よく集まってくれた。これからあの憎っくき炎龍ディオルギアの討伐作戦会議を開始する』


『『『『『おぅッ!!』』』』』


 ダフドが残された数少ない龍人族ドラゴニアの、戦士ウォリア階級クラス達を集めて会議をする様子だった。

 ちなみにダフドは重戦士ヘビーウォリア階級クラスであり、クリスは軽戦士ライトウォリア階級クラスに該当する。


 ちなみに少女は、その光景を尻目に黙々と出掛ける準備をしていく。


 クリスは別々の行動を取っている父親と少女の間でオロオロとしていた。



『では、改めて皆に紹介しよう!』


『『『『『おうッ!!』』』』』


 ダフドは皆に改めて少女の事を紹介する予定だった。しかし、そこには既に少女の姿は無かった。

 拠ってクリスが「もう、どこかに行きました」とだけ申し訳無さそうに言の葉を紡いでいた。



 それから約1時間が経った。



『ダフド、話しをしましょう!』


『お、おう?』

『ってか嬢ちゃん今までどこに行ってた?』


『取り敢えず付いてきて』


 ダフドは自由気ままな少女の行動に対して呆気あっけに取られていた。そして少女はダフドを連れてどこかへ行こうとしている。

 クリスは声を掛けられなかったが、非常に気になっていた為に後からこっそりと付いていく事にしたのだった。



 少女とダフドの2人と(後から付いて来た)クリスは見晴らしのいい小高い山の上に来ていた。



『で、話しとは何だ?』


『単刀直入に言わせてもらうわね。龍人族ドラゴニアの皆が炎龍ディオルギアに対して恨みを持っているのは分かっているわ』

『でも、この討伐戦には参加しないで欲しいの』


『なん……だと?』

『何故だ!何故参加するなと言うッ!』


『実際に対峙したアナタ達なら炎龍ディオルギアの恐ろしさが分かるでしょう?だからよ。生命を無駄にして欲しくないの』

『もしも共に来たとしたら、アタシはアナタ達の事が見捨てられないと思う。でも、そうなると判断を見誤るかもしれない。だから、共には闘えない』

『これはお互いの為の提案よ』


 少女は「邪魔だから」と率直に言えなかった。だから敢えてオブラートに包んだ表現をしていたが、ダフドは到底納得出来てなどいない。



『オレ達だって、死ぬ覚悟はある。同朋の敵が討てるなら喜んで死ねる!だから共に行かせてくれ!もし、オレ達が邪魔ならば見捨てても構わない。見殺しにしてくれて構わない』

『それで死んでも恨みはしない』


『そう』


『それじゃ、一緒に?』


『今の段階ではやっぱりダメよ。だけどそれじゃ折れてくれないんでしょ?』

『だったら条件があるわッ』


『条件?』


 ダフドは必死だった。その「必死さ」が目に宿っていた。


 何故ならばダフドは「族長なのだから」と闘わせてもらえなかったのだ。拠って同朋達が喰い殺されていくのを、指をくわえて見ているだけだった。


 それは偏に炎龍ディオルギアに立ち向かう事が出来無かった自分に対する負い目になっていた。そして「今度こそは同朋達の為に一矢報いっしむくいる」という己に対しての決意に切り替わっていた。



『条件を飲めれば討伐戦に参加させてもらえるのか?』


『えぇ、そうね。飲めればね』


 少女は口角を上げて不敵に微笑んでいた。



 少女が出した条件は3つ。


・1つ、臨戦するにあたり、少女が用いる戦術及び戦略上にある行動をする事


・1つ、自身の生命の危険が迫った際には、生命を無駄にせず速やかに撤退する事


・1つ、「固有能力ユニークスキル」は、知らせるまで使わない事



 少女が提示した3つの条件を言い渡されたダフドは悩んでいた。炎龍討伐戦の臨戦を希望する戦士達は、ダフドとクリスを含めて全部で11人いる。

 だがその全員が条件の2つ目をこばむと考えたからだ。全員の総意は「刺し違えてでも一矢報いる」事にあったのだ。


 ダフドは正直にその旨を少女に伝えた。その言の葉を受けた少女は深い溜め息を付き少し悩んだ結果、ダフドに対して提案する事にした。



『それならば、テストをしましょう』

『もしテストをしてアタシが実力があると思えれば連れていくわ』

『だからアタシに実力を示してねッ』


 少女はダフドにウインクをしながら紡ぎ、臨戦希望者を集めるように指示したのである。

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