第23話 Hectic Searcher Ⅳ

 獣人種の持つ固有能力ユニークスキルは、その力がある事で魔術特性を持つヒト種と対等の関係が保たれているとも言われている。


 また固有能力ユニークスキルは必ずしも戦闘系の能力スキルとは限らないが、獣人種のどの種族もその獣の力を最大限引き出せる固有能力ユニークスキルを持っている。然しながら爪・牙・脚力・ジャンプ力といったものは、そのほとんどが通常能力コモンスキルである事が多い。



 従って龍人族ドラゴニア通常能力コモンスキルを持っているが、今まさにクリスが展開しているのはそれらとは全く異なっている上に、他の獣人種の持つ固有能力ユニークスキルとも一線を画す程に強力と言える。


 それは即ち龍人族ドラゴニア龍種ドラゴンから派生した獣人種である事にも関係しているのだろう。「龍」と名の付くモノは獣としても魔獣としても強力無比な存在なのだから。


 龍人族ドラゴニア固有能力ユニークスキル龍種ドラゴンの血を起源としている。龍種ドラゴンの持つ最大火力である「息吹ドラゴンブレス」と同じモノをその身に宿し力を得るとされる。



龍征波動ドラゴニックオーラアァァァァァァァアァァ!!』


 クリスの雄叫びと共にその周りに光が集まっていった。集まったその光はクリスに宿ると、クリスを黄金色に染め上げていく。


 クリスのその身体が上から下まで、つま先から髪の毛の1本に至るまでその全てが黄金色に染まった時、クリスの身体が持つ全ての能力値ステータスが爆発的に高まっていった。



 クリスは剣を構え地面を蹴った。正面の少女に向かって速攻を仕掛けていく。



「速いッ!」

「でもっ!!」


 少女はクリスから放たれた左からの横薙ぎを紙一重で躱していた。だが続け様に放たれるクリスの剣撃を躱している余裕は無いと悟った事から、「デバイスオン、ソードモード」とマナの刃を展開していく。



ぎんッ


『へぇ、なかなか優秀な固有能力ユニークスキルじゃない!』


 クリスの長剣ロングソードと少女のソードが触れ合い甲高い音を立てていた。

 ここで初めて少女はクリスの剣を受けたのである。



『やっと抜いたな。ならば、次だ』

『参るッ!』


 更にクリスの剣撃は続く。速さは龍征波動ドラゴニックオーラを展開し、発動させる前までの比ではなく剣撃の重さも段違いなのだろう。


 だが少女はクリスの高速剣撃を、いなし・躱し・避け・受け・捌き、その悉くをソードに当てる事はあってもその身に貰うことはなかった。



『これで終わりかしら?クリス、アナタの剣はその程度だったの?』

『結局アタシの身体に当てる事は出来なかったわね』

『じゃあ、次はアタシからいくわ…よッ!』


『受けて立とうッ』


『豪炎の……型あぁぁ!』

『うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあッ!』


 少女はその動きから全ての「虚」を捨て「実」のみで攻撃を繰り出していった。剣撃の全てが本物の斬撃。

 その全てがまごう事無き斬撃。


 クリスは自身の固有能力ユニークスキルを以って、ベースとなる筋力値STR体力値VIT敏捷性AGI命中率DEX物理防御力DEF魔術抵抗力RESといった全ての能力値ステータスに対して大幅にバフを入れて底上げしていたが、少女の放った「型」の全てを受け切る事は叶わなかった。



『うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!』


ざんざんざんざんざんざんざんッ

ギンギンギンギンギンギンギンッ


『くッ。なんだこの攻撃はッ!』


 少女の放つ「実」の斬撃はクリスがいかに防御に徹しようと、弾幕のように迫るその全てを捌き切れるハズもなかった。

 クリスは腕に脚に腹に肩に少女の放つ度重なる斬撃を受けた。結果度重なる衝撃は、身体から生命力HPを奪っていく。


 結論としてそれは、いかに龍征波動ドラゴニックオーラでモリモリのバフを入れようとクリスは削りダメージの多さに耐えられなかったと言える。



『これで、少しは認めて貰えたかしら?』


『まだ、だ、まだだ、まだだ、まだだ、まだまだまだまぁあぁぁぁ!こんなものでは炎龍ディオルギアは倒せない。炎龍アイツを倒せる力を此の身に見せてくれえぇぇぇぇぇぇ!』


「力の高まり方が異常だわ!龍征波動ドラゴニックオーラを暴走させる気なの?でもマズいわね、このままだとクリスが死んじゃう!」

「全く仕方無いわね。それじゃあ、やりますかッ!」


 クリスは生命を燃やして更なるバフをその身に宿そうとしている。クリスの身体を包む黄金色のその輝きは更に色味を強めていくが、少女は痛々しいまでのクリスの姿に対して呟くと詠唱を始めていった。



「我が手に集え、紅き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、翠緑すいりょくの大樹よ。我が手に集え、鮮黄せんおうの大地よ。我が手に集え、金色なる果実よ。我が内なる全ての力よ、1つに混じりて我が敵を討たん」



「ちょ、ちょ、ちょ、待ってくれよ、そんなモンここでぶっ放したら公安の建物ごとふっ飛んじまう。防壁の最大展開って、こういう事だったのかよ!最大で展開させても、ソレには効かないだろうがぁぁあああぁぁ!」


 ウィルはモニタールームで2人の決闘を覗き見ていた。そして少女の詠唱に対して全力でツッコミを入れていた。

 然しながらマイクはオフになっている為に、トレーニングルーム内の2人に声は届いていない。

 要は盛大なノリツッコミであった。



「そうだ、マムッ!マムに連絡を入れなくちゃ。マムに止めてもらわないとッ!!」

「2人の闘いっぷりは既にこっちでも見てる。大丈夫だ、問題ないよ!安心おし」


 パニックを起こしかけていたウィルは、マムの言葉で落ち着きを取り戻していった。

 然しながらマムがウィルに対して言葉を投げた直後に、公安の建物全域に館内放送のチャイムが鳴り響いていく。

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