第24話 Hectic Searcher Ⅴ

ぴんぽんぱんぽ~ん♪


「館内にいる全職員に通達。これから、緊急に局地的テロを想定した訓練を開始する。実際に爆発、振動、その他諸々の事が起きると思うが、慌てずに速やかに対処行動を採用する事!また、付近への被害を最小限度に抑える為に各防壁及び広域結界の展開を急ぎな!」

「尚、たった今からこの訓練が終わるまで誰一人として公安建物からは出られなくなる。以上だッ!!」


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って下さいよぉ!それじゃ、ここはちっとも安全じゃない事になりますよ!」

「ってかマジでここが爆心地じゃないすか!!」


「アンタも公安の人間だろう?ちったぁ、自分で考えな!」


ぷつッ


「えっ?マム?マムさーん?マムさまぁ?」

「み、見捨てやがった!そ、それなら仕方無い。なるよーになれだ!!モニタールーム内の全防壁全結界、急速展開!」


 マムとウィルの2人の会話の中に、慈悲は無いように見受けられる。拠ってウィルはマムから見放されたと開き直ると、ガタガタと身を震わせ何かにすがる様に祈りながらモニター越しに様子をうかがう事にしたのであった。




 クリスは薄れていく意識の中で、少女の中に膨大なマナが集まっていくのを感じ取っていた。



『これだけの力であれば、きっと。きっと、村を……』


 そんな希望をクリスは持ち始めていたものの、既に自分の力の暴走は止められる状況ではなくなっていた。

 膨れ上がった力はもう既に臨界に達しようとしていたのである。


 その一方で少女は粛々しゅくしゅくと詠唱を続けていった。



「我が手に集いし大いなる力よ、空虚くうきょなる微睡みに揺蕩たゆたう力よ。我は力を開放せし者。我は全ての力を打ち消す者。我が力と成り、我が意を以って、その力を解き放たん」



極大五色アルティメッ・時之逆鉾ト・クロノス!!」



 少女の指先から放たれた虹色のたまは、クリスに向かって一直線に向かっていった。更に虹色の珠はクリスに触れるとクリスの持つ力を、臨界に達し既に爆発寸前まで膨れ上がっていた全ての力を吸収していったのである。



「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!」

「どおおぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 クリスの抱え込んでいた全ての力を吸い終えた虹色の珠を、少女は自分の意思で操作し可能な限り空へと向かって加速させていく。

 時間を操る時之逆鉾クロノスは少女の意のままに時間を巻き戻し、破壊と再生を瞬時に繰り返していく事が出来る。


 要するにトレーニングルームの天井を突き破り……

 その上の階の床を突き破り……

 その階の天井を突き破り……

 それと同じ事を繰り返しては次々に突き破り……

 そして次々に修復しまるで何事もなかったかの様に復旧させた上で……公安の建物からも飛び出して建物の遥か上空まで飛んでいった。



「今だ、やりなッ!」


「ありがと、マム!」

「バーストぉぉぉお!」


 少女は空に向かって虹色の珠を飛ばしたが、それがどの辺りにいるのかは天井が復旧している今となっては知る由もないと言えた。だからこそマムが、少女に指示を出したのだ。



どッごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん


ビリビリビリビリッ


 「珠」は公安の建物の遥か上空で大爆発を起こした。予め展開された防壁と広域結界に拠って、爆発の衝撃波などから建物は守られ周辺の街への被害はなかった。

 然しながら大音量での爆発音は、何も知らされていない住民の不安を駆り立て、それから暫く公安への問い合わせが殺到したという。



「終わったぁ。たーまやーなんちゃって。てへっ」

「あぁ、疲れたなぁ」


「何が、「終わったぁ」だ、こっちは殺されるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぞ!それに、あの時にマムが合図を出さなかったら、どうするつもりだったんだッ?!」

「公安だけじゃなく、アニべ市全域が吹き飛んでたかもしれないじゃないか!」


「あはは、ごめんごめん。でもま、なんとかなったんだから、いいじゃない!」

「男がそんなちっちゃな事を気にしてたらモテないぞッ!」

「あ、そう言えばアンタ、根っからの研究バカだから女に興味無いんだっけ?てへッ」


「な、な、な、これだからガサツな暴力女は、@#$%&*☆¥※〒…」


「あはは、何言ってるか分かんない」


 ウィルは恐らくスピーカ越しに顔を真っ赤にして怒っているだろう。そして少女はそんなウィルを煽るだけ煽っておきながら、途中から何を言っているか分からなくなったので放置全スルーを決めた。



「そうだ、帰りにドクのところに寄って装備を直してもらわないと」

「あと魔犬種ガルムの素材の話しをするのもすっかり忘れてたわ。もう、持ってかれちゃったかな?」


「@#$%&くぁwせdrftgyふじこlp*☆¥※〒、………」


「まだ、ブツブツ言ってるし。あはは」


 ウィルはまだブツブツと何かを言っており、少女は意に介する事なく自分のこれからの予定をざっくりと考えた上で独り言を呟いていた。



 今回の極大五色アルティメッ・時之逆鉾ト・クロノスの被害は本当に何も無かった。

 公安に苦情が殺到したようだが、それは少女にとっては

 まぁ多少は申し訳ないとは思うが仕方がない。



 然しながら危惧する所はある。これから恐らく、炎龍ディオルギアの討伐戦の依頼クエストを少女は受注するだろう。

 だがそれは、少女の最大火力である極大アルティメッ魔術ト・シリーズを無事に当てられなければ倒せない相手だという事と、五大龍ペンタドラゴンの一角が飛んでくる魔術を、


 要は死闘の末にトドメの一撃として使う以外に、当てられる自信がないのだ。



 、少女とクリスの決闘の前にマムは「闘いが終わった後で正式に要請デマンドを受けるかどうか確認する」的な事を言っていたのだが、クリスは決闘で無理をして龍征波動ドラゴニックオーラを暴走させた事が祟り、「丸々3日間寝込んだ」のであった。

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