第22話 Hectic Searcher Ⅲ

 だが一方でクリスは迷っていた。


 クリスがここで少女に救いを求める事は簡単に出来る。そうすれば少女は無碍むげに断らず、手を差し伸べてくれるだろう。

 だがもし失敗に終われば少女だけでは飽き足らず、この国の全ての人々に苦渋の決断を強いる事になるかもしれない。

 それくらい炎龍討伐は簡単なモノとは言えない。



 更には先程のサラとレミもこの国の一員になったのだから、もしも仮にそうなった時にあの2人サラとレミから、あの可愛らしい笑顔を奪う事になるかもしれない。


 そう考えた時にクリスはどうしても踏み切れなかった。「助けてくれ」という一言を発する事に、躊躇ためらいを覚えてしまった。



『クリスどうしたの?そんな怖い顔をして?』


『頼む!此の身と闘ってくれないか?』


『えっ?!なんでそうなるの?』


 少女はクリスの意見を聞きたかった。もう既に自分の心は決まっている。


 だがこれはハンターに対する依頼クエストなのだ。だから依頼クエストがなければハンターは受注が出来ない。

 依頼クエストの無い依頼クエストは受ける事が出来ないからだ。


 従ってクリスの口から正式に「頼む」と聞きたかったのだが、クリスの口から紡がれた言の葉は少女の予想の


 しかしそれはクリスなりの「けじめ」だったと言える。もしも連れて帰るハンターが自分より弱ければ、あの炎龍ディオルギアには到底勝てないだろう。

 もしも自分といい勝負になる程度だとしても、あの炎龍ディオルギアには勝てないだろう。

 もしもあの炎龍ディオルギアを、自分なんて余裕で倒せるくらいの実力が必要だ…と。


 自分と同朋達のいや龍人族ドラゴニアという種族の我儘わがままで、この国の全員の生命を生活を危険にさらす事は許されない。


 だからその為にも「自身も生命を掛けて、この少女の力を見極めなければなるまい」とクリスは考え、その考えに則った上で少女に決闘を申し込んだのであった。


 マムはクリスの「けじめ」に対し何かを察した様子で、少しばかり口角を上げていた。



『なんでそうなったのか全く分からないんだけど、それが龍人族ドラゴニアの何かしらの儀式的なモノなら、いいわってあげる!!』

『それでクリスが覚悟を決められるなら…ね』


『い、いや、そんな儀式はないが、言うなれば此の身の「けじめ」みたいなモノだ』


『なんだ、根っからの戦闘種族なのかと思ったわ…なんてねッ』


『下らない事を言ってないでいいからるならるで、とっとっといで!!』

『下のトレーニングルームを手配しといてやるから』


『分かったわ、マム』 / 『忝ない』


『それが終わったら互いの結論を聞かせてもらうよ』


 マムは終始口角を上げながら言の葉を紡いでいた。そしてマムに催促される様に2人は部屋を出ていった。



「全く、困った連中だねぇ。人の気も知らないで」



 2人はエレベーターでB2Fに降りていった。その間2人の間に一切の会話も無く、それはトレーニングルームに入るまで続いた。

 トレーニングルームに入ると少女は、スピーカの先にいるであろうウィルに向かって話し掛けていく。



「ウィル、防壁は真理虚理共に最大で。室内の大きさサイズは50✕50✕50。障害物は無し、背景色は任せた」


「りょーかい」


 ウィルの一言を境にトレーニングルームはブラックアウトしていった。そして灯りがいた時には、少女の注文通りの形となって現れたのである。

 ただ壁の色は何故か真っ青だった。



『さてとクリス!ここでなら思いっきりれるわ!覚悟はいい?アタシは本気でいくから、アナタも手を抜いたら承知しないからねッ!』


『無論だ。その言葉そっくりそのまま返す!』

『此の身も、生命を掛ける!!』


『なるほどね』


 少女はクリスの「けじめ」をここで漸く理解出来た。こうして2人の決闘が始まるのである。


 クリスは腰に掛けている長剣ロングソードを抜くと、少女に対し速攻を仕掛けていった。クリスの剣撃が空をぐ。その剣閃は鋭く速い。


 然しながら少女はその剣筋を見極めると、「たったっ」と踊るように最小限の体術ステップで躱していった。

 クリスはその少女の動きに負けじと連撃を繰り出し手数を増やしていく。



ひゅんッひゅんッひゅひゅひゅんッ


たったた たたたった たたったた


『くっ!』


 クリスが放つ剣撃は速さも威力も申し分の無いものだったが、そのことごとくは空を切るばかりで少女には当たる事は無かったのである。

 クリスは多少なりとも苛立いらだち始めていた。



「自分とて村の中では誰にも負けない自負がある。なのに何故?1度たりとも掠りもしない!どれだけ速く撃ち込んでも掠りもしない。そして何故、全て躱すだけで、撃ち返して来ない?これでは、貴殿の実力が計れないではないか!」


 クリスは声には出さずとも心の中では盛大に叫んでいた。そして「何故?何故?何故?」と。


 少女はクリスの表情から察した。だけど敢えて武器を展開せず躱すだけにしていた。



『何故、避けるだけなのだ?何故、躱すだけなのだ?』


『だってクリス、それ本気じゃないでしょ?』

『最初に言ったけど、クリスがアタシだって本気でれないわ』

『それとも遊びのクリスを相手にして、それでアタシがクリスに勝ったところでクリスは納得出来るの?それが「けじめ」になるの?』


 少女はクリスから放たれた疑問を受け取った上でクリスの事を誘った。クリスの本気を。

 龍人族ドラゴニアだけが持つと言われる固有能力ユニークスキルを。



 少女から投げられた言の葉にクリスは、本当は少女の事を傷付けまいと考えたが為に力を使わずに闘っていた事を恥じた。そしてそれに拠って、踏ん切りが付いたと言える。



『死んでも恨んでくれるなよ』


『本気のクリスをさくっと倒して、炎龍ディオルギアも討伐出来るってコトを証明してあげる!』

『さっ、掛かってらっしゃい!』


 クリスは自分が後悔しない為に、龍人族ドラゴニア固有能力ユニークスキルを展開していくのだった。

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