第21話 Hectic Searcher Ⅱ
コンコン
乾いたノックの音が誰もいない廊下に2回響いていく。そんなノックの音に反応するように、中から「入っておいで」といつもの声高なしゃがれ声が返って来ていた。
少女はその声を聞き付けると、部屋の中に獣人達を連れて入っていった。
「その子達が一昨日の
「えぇ、そうよ」
「そうかいそうかい」
『ようこそ、神奈川国へ。と言いたい所だけど、密猟の被害者であるアンタ達へそれを言っちゃあいけないね。ふぅ』
『先ずはアンタ達に報告だ。アンタ達を手に入れようとしていたヤツらはこの国の人間だった』
『この国の元首として、本当にアンタ達には申し訳無い事をしたと思う。許して欲しい。後でアンタ達を手に入れようとしてた、ソイツらにはキツーいお灸を据えてやるから、アンタ達も
マムは言の葉を2人に投げながら頭を下げていた。2人はこの部屋に入る直前から凄く緊張していた様子が少女には伝わってきていたが、部屋に入るとマムの(特に顔面の)迫力は尚一層の事2人に
然しながら国家元首から頭を直接下げられたサラとレミは、どうやら緊張を通り越して恐縮してしまった様子で表情も行動もあたふたとしていた。
そんな2人を見た少女はなんか微笑ましく思っていたが、流石に表情には出せなかった。
『所で、アンタ達はその娘の所で働くって事で良いのかい?望むなら他に職を
『大丈夫です』 / 『大丈夫よ。じゃなかった、大丈夫です』
『この方の所が良いんです』 / 『メイド服も可愛いからお屋敷がいい。…です』
「ふぅモテモテだな。それにアンタの所でそんな服を用意してるとはね」
「もううっさいわね。茶化さないでよ」
「メイド服は爺のお手製よ。2人が着たらすっっっっっっっごく可愛いんだからッ!!」
「へぇ、それじゃあ今度見にいかないとだな」
「マムは忙しいでしょ?だから来なくていいわよッ」
「へっ、言ってくれるね?それじゃ言わせてもらうがアンタが真面目に報告書を上げてくれれば、ちったぁ、あたしゃラクになるんだけどねぇ?」
「うっ……。そ、それは言わないで…」
舌戦はマムの勝利に終わった。マムは終始
ただし、マムはバイザーを外して少女と話していた事から、少女以外にその会話の内容を理解出来た者はおらず、その場にいた3人の獣人は頭に「?」を浮かべていた。
『さてそれじゃあ、決まりだ!アンタ達2人を、この国の住人として受け入れる。2人の戸籍を作るから、
『ありがとうございます』 / 『ありがとう。あっ!』
『っと言ったところで、そっちの2人にはこれから話しがあるからね、来たばっかりの子達じゃ勝手が分からないだろうし、どうしようかね…』
マムは困ったような口振りで
それから少しの時間が起ちマムの部屋の扉が再びノックされた。
こんこんこん
「マムお呼びですか?」
「あぁ呼び付けてすまないね。今日から新しくこの国の住人になった2人だ。戸籍を作って欲しいから案内を頼むよ」
「先程、ミトラから連絡のあった獣人達ですね?かしこまりました、マム」
「この2人の現住所は貴女の所でいいのかしら?」
「ええ、アタシの屋敷で構わないわ」
「分かったわ」
『2人ともこっちへいらっしゃい』
「それではマム失礼致します」
サラとレミは、マムが呼び付けた女性に付いて部屋を出ていった。サラは部屋を出ていく際に、女性の見様見真似でお辞儀してから出たのに対してレミは普通に部屋を出ていった。
然しながらサラがお辞儀をしていた事に気付くと、引き返してサラと同じ様にお辞儀をしていた。
その光景が部屋に残された者達に何か「ほんわか」とした余韻を残したが、それはまぁ余談である。
『さて、アンタ達は炎龍の件だ。そっちの
マムの眼光はいつの間にか
クリスは、
クリスの長い長い話しが終わりマムの口が開いていく。
『うむ、大体の内容は理解出来た。大変だったようだね。さてとここで、こっちも近隣の国と話しをした結果を話すとしようか』
『実際に事が起きているのは、静岡国の様だね。だが、今のところ静岡国は何も手は打っていない様子だ。実際に炎龍は発見されているが、静岡国側に「
『なッ!?』
『あたしゃ思うんだが
『恐らくその通りだと思う。村の周囲には
『そうかやっぱりね。それなら静岡国は「被害が無い」と言い張る訳だ。そんな感じだからね、被害は無い以上、国益の為に
『でもま、静岡国単体で炎龍ディオルギアを討伐出来るたぁ思わないからこのまま自分達の市街地を炎龍が襲わなければ見てみぬフリかもしれんがね』
マムは静岡国との話し合いの結果を伝えた。「
それは即ち神奈川国からハンターを送り込めないという結論を
クリスは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んでしまっていた。
マムはその姿に、
少女はクリスの姿を見て、
だからこそ少女は「国が動かないのなら、自分が国を敵に回してでも動く」と、極論とも言える解答に達していた。マムは少女がそんな考えに辿り着きそうな事は熟知していた。
拠って少女の思考の変化を敏感に察知し、少女が今この場を飛び出していかないように制止をかけたのである。
「まぁ、人の話しは最後まで聞きな」
『何も絶対に
『条件?』
『ああ。条件は、討伐に関わる全ての費用を神奈川国が持つ事。討伐成功時にはハンターの取り分以外の素材の全てを静岡国が接収する事。後、討伐失敗時には
『ちょっと何その条件!!マム、それじゃあッ!』
『この国を代表して
『それにもし
『だが、この国は、この国に住む者達は苦しむ事になる。それだけを忘れなければ、後はアンタが決める事さね』
『アタシにこの国の国民の生活を背負えと?』
『この国、最高峰のハンターのアンタが討伐出来るって言うならこんなアホな条件でも笑って飲んでやる!』
『アンタが
『マム……』
『だから背負う背負わないじゃなくて、アンタの横で泣き崩れている姿を痛ましく思えるかどうかじゃないか?手を差し伸ばしてあげたいと思えるかどうかじゃないかい?』
恐らく提示された賠償金額は天文学的な数字なのだろう。それこそ
拠って確かに背負わされる責任は重い。「背負う背負わないじゃない」と言われても意識せずにはいられない。
然しながらマムの紡いだ言の葉は、少女に深く突き刺さりながらも奮い立たせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます