第17話 Reckless Adventurer Ⅰ

『あれは今から20年、30年、いえ、もっと前の事であったかもしれません』


『当時はまだハンターの制度も曖昧で、今みたいに報酬も確定されていなかった時分の話しで御座います』


『とあるところに1人のハンターがおりました。その者は勇猛で計算高く野心を持ちながらも人の涙に弱い。そんな弱く強いヒト種の良い部分と悪い部分を兼ね備えたハンターで御座いました』


『そのハンターは「公安」と「ギルド」の両方に所属し、2つの組織はその強さ故にそれを黙認致しておりました』


『ですが、出る杭は打たれると申します。そして過ぎたる功名こうみょうは人を狂わせるもので御座います。そのハンターが狂わなくても周りの者達は妬み、そしり、さげすみ、それだけでは飽き足らず、ついには生命まで狙い出したので御座います』


『そのハンターは同僚から、仲間から、そして、上司からも生命を狙われる事になったので御座いました』


『生命を狙った者達は、直接襲っても、寝込みを襲っても、それこそ悪手を使っても返り討ちに遭い、そのハンターの前には屍の山が築かれていきました』


『そのハンターには野心という名の夢が、その計算高さの先には未来を見据えておりましたが、その夢も、未来も、保身にはしる者達には目障りだったので御座いましょう』


『どうやっても、どう足掻いても、死に至らしめる事の叶わなかった者達は考えたので御座います。どうすれば、その夢を、その未来をついばむ事が出来るのかを』


『そして、1匹の龍種に白羽の矢を立てたので御座います。それは古龍種エンシェントドラゴンと呼ばれる1匹の龍で御座いました。その龍種に彼のハンターを狙わせたので御座います』


『彼の古龍種エンシェントドラゴンは惑わされ、操られ、ハンターと対峙致します。ですが、その牙も爪もそして最大の火力を誇る息吹ドラゴンブレスですらも、そのハンターを仕留める事は叶わず、そのハンターに因って返り討ちに遭ったので御座いました』


『ハンターはその古龍種エンシェントドラゴンが操られている事を知り、涙を流しながらも討伐した様に御座います』


『ハンターを仕留める事が叶わなかった者達は、「次は自分の番」だと考える様になり、更に強力な力を持つ者、更に強大な権力を持つ者を探し出しては、次々にハンターに対して敵対する様に仕向けていきました』


『ハンターはその事を知りながらも、心を痛めながらも、時に涙を流しながらも、夢と未来を掴む為に必死に闘ったので御座います。その勇姿に、その心意気に彼の周りには新たに人が集まり、そのハンターにも心を許せる仲間が出来ていったので御座います』


『ハンターの夢を叶える為に、ハンターの未来を守る為に、心を打たれた者達が徐々に集まっていき、その歯車は加速していくので御座いました』


『然しながら時は流れある時、ハンターは当初から敵対していた者達が全てむくろになり果て、事に気付いたので御座います』


『そして、それは夢と未来を実現する事が難しくなった事を意味しておりました』


『結果として夢と未来を実現する為には何よりも他の者と協力、共存する事が1番だと考える様になり、彼のハンターは自らが闘う事を辞めたので御座います』


『彼のハンターの勇姿に心を打たれた者達は、彼のハンターの夢と未来を実現させようと集まった者達は、その姿に絶望致しました』


『絶望はあざけりに変わり、絶望は恨みに変わり、そして、絶望はハンターの死を望む結果と相成あいなりました』


『かつて信頼を寄せた者達から生命を狙われ、人を信じる喜びも、人を信じる楽しみも全てが狂ってしまったので御座います』


『それでもハンターは剣を取る事を拒みました。かつての仲間の剣が、爪が、牙が、自身の身体に突き刺さっても剣を取る事を拒んだので御座いました』


『人々は、そのハンターから興味を失いました。夢と未来を失ったハンターに興味を抱かなくなり、結果として生命を狙う事を止めたので御座います』


『そのハンターは剣を失い、戦う術を失い、友と仲間と、夢と未来を全て失ったので御座います』


『しかしある時、1つの陳情ちんじょうがハンターの元に届きました』


『その陳情をハンターにした者は、そのハンターが闘う術を、剣を、友を、仲間を、総てを失った事を知らずにただただ「窮状きゅうじょうから助かりたい」その一心でハンターの元を訪れたので御座います』


『ですが、ハンターはその陳情を拒みました。既に自身の剣は無いと、闘う術は無くなったと、仲間も友もいなくなったのだと、夢も希望も未来も既に無いのだと。だから頼まれても救う事は出来ないのだと』


『ですが、拒まれても拒まれても、その者はハンターに陳情したので御座います』


『何故そこまで拒まれながらも熱心に頼むのかがハンターには分かりませんでした。何故ならば彼のハンターはとうに心をてつかせていたからで御座いました』


『ハンターの前に転がる躯が増えれば増える程、嘲りが、蔑みが、恨みが、憎しみが増えれば増える程、友を失えば失う程に彼のハンターは心を閉ざし、熱意も情熱も無くなっていったので御座います』


『ですが、闘う術が無いと分かって居ても、闘う力も気力も残って無いと分かっていても、そして、人が信用に足る者では無いと分かっていても、彼のハンターにすがり付き、泣き叫び救いを求めたので御座います』


『彼のハンターでなくても方法はあるのではないか?そう提案しても、受け入れる事はせず、最終的にその者は涙を流したので御座います』


『彼のハンターは、涙を見ていられませんでした。仲間を、恋人を、親を、兄弟を、その為に闘って欲しいと願う涙には何1つ動かなかった心が、自分の為に流された涙には心が、凍てついていた心が震え、ふるったので御座います』


『その結果、ハンターは立ち上がりました。自分の為に流してくれた涙に報いようとしたので御座います』


『陳情を受け取ると、その手に、脚に、身体に、武器を持てるだけ持ち、その涙に報いる為に敵の元に向かったので御座います』


『その闘いはかつての面影も無い程の有様で御座いました。無様で醜く、勇猛さは微塵も無く、ですが諦める事は決して致しませんでした』


『泥にまみれても尚、先に進もうとする、その姿に人々は次第に心を打たれ、ハンターと共に歩もうとする者が現れ始めたので御座います』


『ハンターは苦難の末に、その敵を倒す事が叶いました。ですが、その後ろには既に、付いてきている者は誰1人として、いなかったので御座います』


『ハンターは悩みました』


『ハンターは苦しみました』


『また、「自分のせいで大勢の人が亡くなってしまった」と』


『ハンターは心に深い傷を負いました。ですが、心に深い傷を負いながらも、2度と折れる事は無かったので御座います』


『そして、彼のハンターは新たな夢を叶える為に立ち上がり、仕組みを徐々に変えて行ったので御座います』


 爺の語りはうれいを帯びていた。その表情、話し方、言葉の端々はしばしに宿る切なさ。


 少女もクリスも爺の語りを黙って聞いていた。気付けばその話しに引き込まれてすらいた。



『この刀には、そんなハンターの思いが、願いが、そして過去が詰まっておいでです』

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