第15話 Lonely Sufferer Ⅲ

 少女は未だ寝ている兎人族ラビティアの女の子に対して、どうしようか悩んでいた。然しながら声を掛けても揺さぶっても起きない事から、屋敷にこのまま連れ帰るまではと考えるコトにした。

 拠ってセブンティーンに乗せるべく仕方なく袋から出して、両腕で抱きかかえたのだった。


 そしてその時にタイミング悪く、兎人族ラビティアの女の子は「ぱちっ」と目を覚ましたのだ。



『あっ……』


『は、離して!レミから離れて!家に帰して!』


『あっ、ちょっ、暴れると危なッ。あっ』


 目を覚ました兎人族ラビティアの女の子は、現状に混乱している様子で少女の腕の中で暴れた。その結果、兎人族ラビティアの女の子が言った通りに、少女の腕から離れる事に成功したのだった。

 要はお尻から地面に向かって落ちていったとも言い換えられる。



どさッ


『はぐぅっ。いったぁい。なんで本当にレミを離すの?!』


『だ、大丈夫?』


『触らないで。来ないでッ!』


 支離滅裂だった。レミの暴挙ツンツンに少女は、困り果てていた。


 因って少女の額には青筋が浮かんでいたかもしれない。

 因って少女の表情は引き攣った笑みを浮かべていたかもしれない。

 因って少女の掌は握りしめられてプルプルさせられていたかもしれない。


 然しながらここで怒っても意味が無いばかりか、より一層話しがなる。何故なら相手が暴虐なお姫様超絶ワガママ気質だろうと、被害者には変わりないからだ。

 そこで一旦全ての感情を抑え込むと溜め息混じりにハンターライセンスを取り出し、『アナタを保護しない方がいいかしら?』と屈託のない笑みを浮かべて言の葉を紡いだ。

 これが、大人の対応というヤツだ。


 レミは少女から紡がれた言の葉に『えっ?えぇぇっ!?』と驚いた表情になり直ぐに『お願いします』とだけ言葉を紡ぐと、バツが悪そうに俯向うつむいてしまった。




 少女はレミをセブンティーンの助手席に乗せると自分は運転席に入った。(運転席、助手席、後部座席共に定員は1名ずつ)

 そしてセブンティーンに「屋敷までお願い」とだけ伝えた。



 セブンティーンは少女の言の葉を受け取ると「畏マリマシタ、マイ・マスター」と抑揚の無い声で話し、低いエグゾーストノートを響かせながら自動走行で走り出していった。



 魔獣の躯も犯罪者達もまだ現場に置き去りのままだったが、そのうち爺から連絡を貰ったサポーターが。万が一に備えてガルムファミリア達はそのまま警戒に付かせている。

 無事にサポーターが拾い終えたら自力で帰って来るように、ガルムファミリア達には伝えてある。だからアタシの魔力を追い掛けて帰ってくるハズだ。

 それくらいの帰巣本能はあるだろう。



 空はまだ暗いが東の空の方は、うすらぼんやりと紫色に変わりつつある。


 少女の横には兎人族ラビティアのレミが、後ろには猫人族キャティアのサラが、それぞれの座席の上で丸くなって寝息を立てている。


 少女はあどけない2人の寝顔を見て、「くすッ」と微笑わらっていた。



「書類どうしようかなぁ……」

「ふわあぁぁ。もうどぉでもいいや。まぁどうせなんとかなるわよ。ダメなら「ごめんなさい」するだけだもの。アタシは眠いの。だから、おやすみなさい」


 少女はとても小さく小さく聞き取れない程に小さく呟いた。

 同じ空間でスヤスヤと寝ている2人の女の子達につられて眠気に勝てず、運転席で丸くなり微睡まどろみの中に落ちていくのだった。




 少女は着信で起こされた。まだ眠かった。凄く眠かった。



-・-・-・-・-・-・-



 昨夜(?)は日が昇り始めた頃になって漸く屋敷に着いた。


 屋敷に付くと少女は2人を起こし、起こされた2人は屋敷を前にして感嘆の声を上げていた。そしてその声に反応するように玄関の扉が開いていった。



「おかえりなさいませ、お嬢様。そちらが、先程お話しされておりました方々でございますね?」


「ただいま、爺。そうそう、このコ達を宜しくね」


「かしこまりました、お嬢様。さて……」

『当方はこのお屋敷の執事をさせて頂いております。お着替えとお部屋の用意をしてありますので、こちらにどうぞ』


 爺は使バイザーを身に着けていた。

 少女は爺に対して「獣人種を保護した」とは言わなかったが、恐らく少女が発した言葉である「密猟の被害者の女の子」という言葉から被害者が複数の獣人種と考えたのだろう。

 少女はそういった機転の良さに助けられている。


 今回のセブンティーンの積載品の中に入ってた認識阻害インヒビションの羽織りも、爺が機転を利かせてくれて入れておいてくれた物だ。もしもそれが無ければどうなっていた事か。

 闇取引を押さえる以前に魔犬種ガルム達と戦闘になっていたかもしれないし、そうなっていたら闇取引は延期になり依頼クエスト完結コンプリートは出来ていなかったかもしれない。

 要するに少女は見えないところで、爺には助けられっぱなしなのだ。



 バイザーを装着した爺の言葉を2人は理解したと思うが、2人はオドオドとしており少女を盾にするように後ろに隠れてしまった。そこで少女が『大丈夫だから、爺に付いていって』と優しく言の葉を紡いだ事で、2人は少女に頭を下げ爺の後に付いて屋敷の中に入っていった。


 ちなみに爺が装着していたバイザーはデバイスの1種だが、本来のデバイスとは違うモノである。

 だが今はまだこれは余談と言える。




 少女は自室に着くと報告書を書こうかとも思ったが少しばかり悩んだ結果、やはり眠気3大欲求には勝てずに惰眠を貪る事にした。

 そして、着信で起こされたのだった。


 まだ寝てから2時間くらいしか経っていなかった。だがそれでも、外はもう充分明るくなっている。



 少女は寝ボケまなこで急ぎ着信に出ると、聞こえてきた声に拠って言葉を失った。急いで着替えを済ませ、戦闘でボロボロになった装備を着装した上で自分の部屋を飛び出し、階下へと降りていった。



「おはようございます、お嬢様。まだお休みになられているものと思っておりましたが…朝食は如何いかがなさいますか?」


「ごめん、爺。緊急だからこれからスグに出るわ」


 少女は爺の横を通り過ぎながら言の葉を投げると玄関から外に飛び出していく。だが飛び出した直後に玄関の扉が再び開き、少女が何か言い忘れた様に顔をのぞかせていた。



「昨夜保護した2人の件は明日対処するから、今日は屋敷でゆっくりとしてもらってて」


ばたんッ


「かしこまりました」


 爺は了承を少女に伝えていたが恐らく少女は聞いていなかったに違いない。

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