The Surface Take

第13話 Lonely Sufferer Ⅰ

「う、うぅん」

「うぅん、眠いよぉ…まだ、寝てた…いぃッ!?」


 少女は目を覚ました。少女は一方的な虐殺の後で敵性存在がいなくなった事から、その場でバッテリが切れたロボットのように寝ていた。

 そしてそこに広がる魔犬種ガルム達の、いな魔犬種ガルム達を見たのだった。

 拠って、気持ちのいい目覚めとはだろう。



「こ、これは一体?あれ?あれれ?それにアタシ死んだよね?ちゃんと死んでたよね?」

「でもこれは何なの、夢なの??あぁそうか、夢だね。夢に決まってるよね?」

「うん、間違いない!死んでも夢って見……るワケなんかあるワケないッ!!」


 盛大に意味のわからない独り言を呟きながらも、生きている事がにわかに信じられない少女は、自分の身体に開けられた大穴を、まるで怖いモノでも見る様に確認する事にした。

 の・だ・が、その結果は驚愕だった。



「あれッ?あれれ、無い!?確かに爪が刺さったハズよね?でも、傷が…無い。どうしよう?アタシ、本当に生ける屍リビングデッドになったのかしら?」

「明日からアタシ、う〝ーあ〝ーとか言わなきゃいけない系の女子になっちゃったの?こんな可憐でキュートなアタシが?ウソでしょッ!?」


 どうやら少女は錯乱さくらんしている様子だ。そしてあたふたしながら身体中を

 それを誰かが見ていたら、「変わったコ」で済むとは思えないレベルでしていたとも言える。



「よしっ!気にしないッ!!」

「うん、気にしないコトにしたッ!気になるけど気にしたら負けだから気にしない!!気にしない気にしない気にしないッ!!」

「でもそれよりも、今はしなきゃいけないコトがあるわねッ」


 それから少しの時間が経ち、少女は少しばかり落ち着きを取り戻した様子だった。

 そして気持ちと言葉では裏腹なコトをも、何かを思い付いた様子だ。

 拠って気を取り直した様子で、唐突に詠唱を始めていった。



「我、ここに汝と契約を交わす者也。汝、ここに我と契約を成立させん。我が力を寄る辺とし、汝の御霊みたまよ、我が元に来たれ」

従魔アニマ・コン契約トラクトゥス×マルチプライシ16ックスティーン!」


 少女は全部で16個の光の結晶を詠唱に拠って生み出し、それらはその場に残っている魔犬種ガルム達の躯の中に入っていく。



 これは使い魔ファミリアを生み出す魔術。死んでいる、死に瀕している魔獣に対してこの魔術を行う事で、使い魔ファミリアの契約をその魔獣の魂に持ち掛ける事が出来る。


 契約をのであって強制的に隷属させる使役コアクトゥスや、隷属サーヴァス更には死役ネクロマンスとは大いに異なる。

 魔獣の魂は持ち掛けられた契約に対して、履行の是非を問われるとされる。


 拠って魔獣の魂が「是」と応えなければこの契約は成立しない事になる。成立した場合にはその魔獣の魂は、復元された元の身体に戻り晴れて使い魔ファミリアとなるが、従魔アニマによって生み出された使い魔ファミリアは他の方法で生み出された使い魔ファミリアよりも汎用性が高いと言われている。


 ちなみにとは、使い魔ファミリアに対する身体の復元度合いを始め命令の自由度や使い魔ファミリアからの忠誠と言う意味だ。

 だから使役コアクトゥス隷属サーヴァスはそれらが低くなる。


 付け加えると死役ネクロマンスは身体は復元されず、命令の自由度は限り無く低いが忠誠は高い。


 だがこれらの契約魔術コントラクトゥスは、躯が残っている/瀕死状態の魔獣に対して行うものであって、生きている魔獣に対しては使役テイムとなる。




 少女が放った契約コントラクトゥスに対して「是」の反応があった魔犬種ガルムは、全部で5つ。そして反応があった魔犬種ガルムは全て契約が履行され、元通りに復元されていった。

 復元された魔犬種ガルム達は完全に復元が終わると、少女の足元に集結したのだった。



「5匹かぁ。欲を言えばもうちょっと欲しかったけど、まぁ、上出来でしょ!」

「でも、あの魔犬種ガルム達のリーダーは契約に賛同してくれなかったみたいね……。結構残念だわ」



 ハンターは仲間とパーティーを組む事もあるが、素材の取り分などの関係から大体の依頼クエストは単身でのぞむ事が多い。

 その為に支援や攻撃を担当してくれる使い魔は、いた方が依頼クエスト完結コンプリートが楽になる。

 「使い魔ファミリア・コの契約ントラクトゥス」は、人間界で発明された魔術だった。


 そして任意/強制を問わず契約が履行された使い魔ファミリアは、マスターの意思で呼び出す事が出来るようになる。

 生体を使役テイムする場合はマテリアル体がある為に完全アストラル体化は出来ないが、躯を復元した契約魔術コントラクトゥスに於いては、呼び出した上でアストラル体化……即ち霊体として侍らせ必要に応じて実体化させる事も可能になる。


 更にはマスターが使い魔ファミリアを使用しない時は、カードとしてデバイスの中に仕舞しまって置く事が可能である。これは使役テイムであっても同じ事だ。

 拠って戦況に応じて使い分けが出来る使い魔ファミリアは、ハンターにとって重要なパートナーになり得るのだ。



「さてと使い魔ファミリアも手に入れられたし、後は依頼クエスト完結コンプリートさせないと…っと、その前に、忘れる所だったわ!!」

拉致されて来た子被害者達の確認が先決ね」


 少女は付近の警戒をガルムファミリア達に任せると、獣人が持ってきていた「商品」の元へと歩いていく。


 袋の口紐は既に解かれていた事から中の確認は容易に出来た。それらの袋の中には1人ずつ獣人の女の子が入っており、見たところ意識は無く寝ている様子だった。



「見た感じ、兎人族ラビティア猫人族キャティアかな?」

「でもだいぶ幼い気がする。ったく、どこの誰だか知らないけど、何をさせようとしてたのかしら…。やっぱりお仕置きは必要ね」


 少女は袋の中にいた獣人の女の子達の種族を、予想していく。



 兎人族ラビティアはウサギの獣人でありウサギのように耳が長いのが特徴だ。

 聴力や脚力が優れているが、平均的に戦闘能力には長けていないとされる。

 その為に密猟の被害が多い獣人種の一翼だった。



 もう一方の猫人族キャティアはネコの獣人であり、見た目は他の獣人種と似通っている事から大きな特徴は少ない。

 兎人族ラビティアと比べると身体能力は高く、身体全体のバネを使った脅威的なジャンプをする事が出来る。

 種の特徴としては鋭い爪を有しており、自分の好きなように伸ばす事が出来るとされる。


 猫人族キャティアはそのジャンプ力と鋭い爪に拠って、戦闘能力は皆無とは言えないが個体差は大きい。

 然しながらそれ以上の戦闘能力を保有する獣人種が多い為に、獣人種全体で見ると戦闘能力が高いとは一概には言えない。



 結果として猫人族キャティアも「密猟の対象種族」の槍玉に挙げられている事は、兎人族ラビティア同様に過去の調査で明らかにされていた。




 今回の闇取引の「商品」の2人を密猟したのは、狼人族ウォルフィアと呼ばれる獣人種だった。


 狼人族ウォルフィアはオオカミの獣人であり、兎人族ラビティア猫人族キャティアの見た目がヒト種に近い獣人種であるのに対し、狼人族ウォルフィアは見た目が獣に近い獣人種だ。


 その特徴としては猫人族キャティア以上の強度を誇る伸縮自在の爪と、兎人族ラビティア以上の脚力に加えて、獣人種の中でも屈指の身体能力を保有している事が挙げられる。

 それらの事から獣人種全体から見ても戦闘能力は高く、密猟される側というよりは密猟する側である事が多い。



獣人種は獣に近しい姿をもつ種と、ヒト種に近しい姿をもつ種とに分ける事が出来る。

そして大雑把な傾向としては、ヒト種に近い姿をもつ種族は総じて戦闘能力が低い個体が多いと


 それとは逆に獣に近しい姿をもつ種は、総じて戦闘能力が高い個体が多いともされる。

 単に「獣人種」という、生態系の大きなの中だけならば弱肉強食の優劣が非常に激しいコトになる。


 更に付け加えるならば獣人種は総じて魔術特性が無い代わりに、種族専用の能力スキルを持っている事が多い。(種族専用の固有能力ユニークスキルの他に複数の通常能力コモンスキルを有する事が多い)

 結果的に獣人種はマナを使って魔術を使うのではなく、マナを使って能力スキルを使用するのだ。


 拠ってその能力スキルの使い方次第では弱者が必ずしも弱者であるとは限らない。

 従って個体差次第では狩られる側が、必ずしも種族的弱者とは限らないと言える。




「この場で意識があるのは……」

「ありそうなのは…確かいたと思うんだけど……」


「ひィっ」


「あっ!いたいた」


 少女は辺りを見回していく。少女が張った結界は全部で5つ。その結界を順に見渡していくと、少女と目が合った瞬間に声を漏らした結界があった。

 少女はその声に気付くとその声の持ち主に寄っていく。



「あのさぁ、さっきの戦闘なんだけど、ちゃんと見てた?」


「ひっひィィ」

「こっここ、殺さないで下さい、ちゃちゃっちゃ、ちゃんと話しますから」


「何よ?失礼しちゃうわね。こんなに可愛らしいアタシに向かって!」


「ひっひィィィ」


 少女は屈託のない笑みを浮かべ、不審車の男の生き残りに話し掛けていった。そんな少女だが服は血だらけ装備もボロボロで所々肌色が露出しており、一見すると血の気のいい生ける屍リビングデッドに見えなくもない。

 そんな姿の少女が屈託のない笑みを浮かべながら話し掛けて来たのだ。

 不審車の男は身体を震わせ後ずさりし、おびえた目で声も震わせていた。


 だが本当のところは、少女の姿よりも先の戦闘が植え付けたトラウマが原因だったのは言うまでもないだろうが……。

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