第4話 Fastest Communicator Ⅱ

 少女はB2Fにあるトレーニングルームを後にしてエレベータに乗り込むと最上階へと向かっていく。その足取りは多少重たくてその表情には「?」が浮かび上がっていた。


 少女がマムからちょくで呼び出されるような心当たりは無いと思い(いな」)ながらも部屋の前に辿り着くまで色々悶々と考えを巡らせていた。


 少女はアレコレと考えを色々と巡らせながらも部屋の前に着くとそれまでの思考を一度リセットし軽くドアを2回ノックした。「こんこんッ」と軽快な音が廊下に響いていく。

 恐らく部屋の中にも当然のように響いている事だろう。

 これが少女のいつもの行動パターンなのだ。



「入っておいで」


 少女がドアを軽く叩いた事を起因として声高こわだかなしゃがれ声が中から返って来ていた。

 その声に誘われるように少女は部屋に入っていく。



 ドアを開けると少女の視界に正面の椅子の上にいる存在感のある女性の姿が飛び込んで来る。後ろには大きな窓ガラス。

 その向こうには高い建造物等は無く青く雲1つない空が広がっていた。

 窓の向こうは晴れている様子だが太陽は高い位置にあるらしく見る事は叶わない。


 ここが権力者の部屋なら大きな窓ガラスは本来ならばダメかもしれないが、窓の向こう側に同等の高さの建造物が無い事から狙撃スナイプの危険性は考えていないのかもしれない。




 座っている女性は「マム」と呼ばれている。この国の公安のトップでありこの国の最高権力者でもある。

 本名は誰も知らないとされており、皆が呼ぶ時は必ず通称(愛称?)の「マム」だ。


 最高権力者でありながら敬称をつけさせない事をモットーにしていると、過去に誰からか聞いたことがあるような気がするが

 更には肩書きで呼ぶ事も認められていないから「マム」の事を呼ぶ時は「マム」としか言いようがない。


 まぁどっちみち初対面の時から「マム」と呼ばされているので、今となっても相変わらず「マム」と呼ぶようにしている。

 拠って「マム」と言う名前だと思えば抵抗などあるハズもない。



「アタシのコトを呼んでたって聞いたけど?」

「何か厄介な依頼クエストでも舞い込んで来たのかしら?」


 少女はの影響から表情こそ緊張していたが、それを悟られまいと親しみのある声で気さくに言の葉を紡いでいく。

 だがやっぱり内心はドギマギしているのは言うまでもない。

 しかし、先に何かを指摘されるよりは自分から話題を振って話しが逸れれば儲けモンなので適当な話題を振ってみた。


 一方でマムはその声に反応する様に顔をゆっくりと



「ああ、アンタかい。早かったね。公安にいるのが分かってたから、この依頼クエストをアンタに任せたかったのさ。今そっちに投げるから確認してくれるかい?」


「えっ?ナニコレ?ケンカの仲裁?それをアタシに任せたかったの?他に依頼クエストを受けられるハンターはいないの?」

「この国ってそんなに人手不足だったかしら?新人とかいたと思ったけど?」


「まぁまぁ、そう言いなさんな。あたしゃ別に特段、アンタでなくても構わないが、アンタの方が適任って事さね。詳細の下の方をよく読んでみな」


「下?うーんと、下の方、下の方っと…。あぁ、なるほどね」

「この内容じゃ、新人には難しいかもね」


 少女はマムからデバイスを通して渡された依頼クエストに対してご立腹気味だった。

 こんな内容は、誰でもこなせるような内容だったからだ。


 だが少女はマムに言われた通り視線をずらしていった。するとすぐに納得した様子になった。

 下の注意書きに目が止まったからだった。


「注︰対象は独特の言語を有する獣人種が絡んでいる恐れアリ。拠って対応出来る者を求ム」




「そしたら、他に依頼クエストは無いの?あればそれも併せて受けるけど?」


「そうだねぇ。アンタ向きの依頼クエストとなると、こんな感じかねぇ?」


「えっとどれどれ?うんうん。りょーかい」

「おっけぇ!じゃあ、これもアタシがついでに受けるわねッ!」

「じゃ、行ってくるねぇ」


 少女が言の葉を紡ぐとマムから依頼クエストがもう1つ投げ返って来た。もう1つの依頼クエストもその詳細に一通り目を通すと少女は2つ返事で快諾かいだくした。

 こうして目的を終えた少女は最上階の部屋を後にしていった。




「爺、クエストを受けたから適当に銃火器をセブンティーンに積んで送ってもらえるかしら?」

「えっ?うん、そうそう。クエストの内容はそっちに送信したから他に役立ちそうなのもあったらお願いねッ」

「それじゃ、宜しくッ」


 少女はデバイスを通信モードにすると屋敷にいる爺に向かって話していた。話している声はいつもよりワントーン高くほがらかにハキハキとしていたと言える。

 先程までの緊張していた表情とは打って変わって落ち着いた様子だった。


 少女は爺と話しながら公安の1Fまで向かって降りていく。落ち着いているからこそ、その足取りはとても軽やかだ。



 「爺」は少女の亡き両親に代わり少女の住む屋敷の家事全般・武防具装備品・その他資材類の管理を1人で全て行っている非常に優秀な執事だ。

 ちなみに「爺」は当然の事ながらそんな名前ではない。少女は過去に本名を聞いた事がある気がするがよく覚えていない。

 要するに「マム」同様に「爺」もまた「爺」なのだ。


 更に付け加えると「セブンティーン」は少女の愛車の事を指している。少女が17歳の誕生日に買った為にその愛称が付けられた。

 従ってその愛称に特に意味は無い。



 だが車としての性能は非常に優秀である。高度な自立型人工知能を搭載しており、相互通行型の意思疎通が出来る上に無人で自動走行が可能なのだ。

 またトランク部分には虚理きょりんだ空間アイテムボックスを備えており、無制限に銃火器類などを積む事が可能となっている。

 尚、トランク内の管理は人工精霊が行っている。


 ただし欠点として挙げるとすれば乗車定員は3人なので、モノは積めても人を積むのは苦手といった所であろう。



 少女は車の運転を苦にしない。むしろそれは好きな部類であると言えるから、基本的には自分で運転している。


 オンロードの状態を機敏に察知するステアリングの感覚をその手に受け取り、エンジンの奏でるビートとアクセルを踏み込む事で盛大に放たれる、エグゾーストノートで刻まれるリズムを運転している。


 逆にセブンティーンに自動走行をさせる時は、少女が疲れていたり眠かったり考え事をしている時であったりと、にしていた。

 それともう1つ、少女を迎えに来る時は当然の事ながら自動走行である。




 少女が公安の中で他にも諸用を済ませてから外に出たのとほぼ同時刻に、セブンティーンが見計らったかのようなタイミングで公安のゲートから入場し、少女の前に停車していった。


 少女は積載済みの銃火器リストをセブンティーンから受け取り軽く目を通すと依頼クエストの内容をセブンティーンに投げていく。

 然しながら少女はセブンティーンに乗り込もうとした直後に何か忘れていた事を思い出し、公安の中に駆け足で戻っていくのだった。




「ミトラ、イグスタ市の保護施設に連絡して、1部屋開けておいてもらえるように伝えてくれる?」

「じゃ、宜しくッ!」


たったっ


「分かったにゃって、あれれ?」


 少女は公安の2Fまで階段を一段飛ばしで一気に駆け上がっていく。そして受付にいるミトラに対して、まくし立てる様な

 言い終わると返答も聞かずにきびすを返し、駆け足で階段を降りセブンティーンに戻っていく。


 捲し立てられたミトラからの返答は、その時には既にエントランスにいた少女の背中が、微かに聞いていたハズである。




「オ帰リナサイマセ。イグスタ市ノ目的地マデ最短ルートデ約20分デス。運転モードニ切リ替エマスノデ運転中ニ何カ必要ナ場合ハ仰ッテ下サイ、マスター」


「うん、ありがとう。セブンティーン」


 少女は愛車に返答するとそのままアクセルをふかし、重低音のエグゾーストノートを響かせ公安の敷地を後にしていくのだった。

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