The Primery Take
第3話 Fastest Communicator Ⅰ
目の前にあるのは
床と壁、壁と天井の境界すらボヤケて見えてしまうほどに無垢な白色。
これでもかと言う程にシミ1つない清廉潔白な白。
そこに「カラフルなペンキでもぶちまけたら気分爽快になるかしら?」などと下らない事を考えている少女が1人。
少女は自分の視界の端に映る「
「影は全部で5つ。これならラクショーねッ!」
「さてと、どうやって処理しようかしら?」
少女の左手のデバイスには
ウージーのマガジン内には9mmフルメタルジャケット弾が既に装填してある。
少女は身体を中腰にし
更に自分の前方・左方・右方で素早く蠢く影を眼だけで追い掛けながら「どうやって効率よく
幾つもの戦術を頭の中に描き、それらを頭の中にある幾つもの思考回路で並列処理しながら的確な戦略を導き、最善且つ効率よく敵を
少女にハンターとしての「いろは」を教えてくれた師匠が行っていた事を自分なりにアレンジして生まれたスタイルだ。
特に複数の対象がいる場合は効率良く
少女の纏う空気が変わり脱力していた腕の筋肉に電気信号が流れていく。
少女はウージーを持つ右手を素早く肩の高さまで上げると、右方で蠢く影を
タラララララララッ
銃口から紡がれた連続した軽い破裂音と共に弾丸が影に向かって空気を引き裂き疾走り抜けていく。しかし少女は着弾を見届ける事なく正面に向かって駆け出し速攻を仕掛けていった。
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「ちっ」
正面の影に向かって脱力状態で下がったままの左手の
風切り音すらさせずに
「そこッ!!」
「動かないッ!!」
タラララララララッ
「デバイスオープン、9mm弾リロードッ!」
速攻に手応えを感じなかった少女は、身体を右回りに半回転させ自分の後ろに銃口を向けるとウージーを斉射していく。
ウージーのマガジン内の残弾で残りの影に対して牽制の為の弾幕を張る。弾切れになった所でデバイスに命令を飛ばし、デバイスはマガジン内の弾薬を満たしていく。
こうして少女のハツラツとした声が白い空間内に響いていった。
少女の最初の斉射と2回目の斉射の先にいた影は音も残さずに霧散していた。牽制射撃で成果が出た事に多少驚いたが逆風斬りで倒すハズだった事も鑑みれば倒せた数に計算違いは無かった。
ただ違うのは敵との距離だけだ。
「残り3つねッ!」
たったた
「次はどうしようかな?」
少女は次の戦術の為に後ろ向きに飛ぶと影から一度距離を取る。ウージーには既に新たな弾薬がリロード済み。
だが今度は先に少女に対して先制する1つの影が動いていた。
動いた影は一目散に少女へと向かっていく。その手には斧の様な
グガガガっ
ぎぃんっ
パラララッ
しゅたっ
「着地成功!」
「残念でしたッ。えへ」
先制した影は手に持っている斧を少女に対して振り下した。だが斧が振り下ろされた場所に
敵の速攻を察知した少女はその場で飛び上がる事で速攻からの回避行動を取っていたからだ。
更に
そして、床へと向けて数発の9mm弾が降り注ぎ、影は霧散していった。
「残りは2つね?」
「さて、お次はどう料理しようかな?」
「でも位置的にウージーでのハントは難しいわよね」
影は少女の正面に1つ。少女の左方に1つずつありそれぞれが
右手にウージーを持っている少女は正面は狙えても左方の敵は狙い難い。正面にも意識を向けている以上、動きが効率化出来ないからだ。
しかし影達は時間を
拠って少女が考えている
ググッグガガっ
ががぎぃぃん
ほぼ同時に少女に向かって正面と左方から2本の斧が振り下ろされていく。だが当然の事ながらそれらの斧は少女に当たる事無く
斧は重量級の武器になる為に
拠って二振りの斧が地面に突き刺さったのは至極当然と言える。
何よりも影の武器が斧である事に設定ミスがあるとも言えるがそれは余談だ。
しゅたッ
「再び着地大成功!」
「で、惜しかったわね」
しゅぱんッ
少女は先程同様に斧が振り下ろされ始めた直後に宙を舞って2つの影の背後へと降り立っていた。しかし今回はウージーの銃口からではなく少女の口から言の葉が紡がれていく。
少女は影に対して一切の感情を込めず一言だけ呟いていた。
張りのある小さな愛らしい唇から出た少女の小さな呟きは、瞬く間に
少女は影が振り返り体制を整える前に
その一閃に拠って2つの影は余韻も残さずに霧散して消えていった。
「さっすが!!あの程度なら秒殺だなんて星持ちはやっぱり違うねぇ!!」
「リップサービスなんて、アタシはいらないわよ?どうせそんなコト思ってないのは分かってるんだからッ」
「あははのは。バレてるし」
白い立方体の中に不釣り合いな感じの声が不自然に響き渡っていく。
少女はその声の主の姿形は知っているが少女の今いる場所からだとその者の姿を視認する事は出来ない。
一方で全ての影が霧散したコトで白い壁に囲まれた空間はブラックアウトしていく。そして再び明かりが灯ると先程までの立方体状の空間の様相は見る影も無い程に様変わりしていた。
床には白いタイルが敷き詰められており天井までの高さは4mくらいある。背が比較的小さい少女からすれば4m上の天井は手が届く気配がしない。
するワケもない。えぇモチロン届くワケもない。
「でも本気を出せば届くかもしれないと言い切る自身はある」と強がった事がいつの日かあった気がしなくもない。
それくらい背が低い事はコンプレックスになってると言えるし
人の尊厳を侮辱するなら、血を見る覚悟があってこそと思っているフシすらあるからだ。
先程まで50mはあった部屋の奥行きは今では10mくらいになっている。更に横幅はその半分程度の直方体で、何も置かれていない殺伐とした部屋だ。
強いて言えば高さだけがあるコンテナボックスか小会議室と言えなくはない。
然しながら床にも周囲の壁にも何も無いが、正面の壁の上方にだけはスピーカが1つだけ申し訳無さ気な様子で
その点はコンテナボックスや小会議室とは違うかもしれない。
兎にも角にも先程の音声はそこから響いていた。拠って先程まではスピーカは
「ウィル、さっき秒殺って言ってたけど何秒掛かってたの?」
「えっとねぇ、じゃらららららん、だらんッ!」
「いいから早く答えてもらえる?」
「はい、42秒でした」
「そっか、ちょっと遊び過ぎたかしらね」
部屋の中で少女はスピーカに向かって言の葉を紡いでいく。少女の声は高く透き通っていて
だが当然の事ながらスピーカは音を拾わない。
然しながら少女が発した問いに対してスピーカからウィルの声が聞こえてきたので、部屋のどこかにマイクがあるのかもしれない。だが少女はそんな事を気にはしていない。
だから声の聞こえた方に言の葉を紡いでいく。
「あぁ、そう言えばさっき、マムが呼んでたよ」
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