第2話 2nd prologue

「そもそも、「蒼い惑星」とは何なのか?」


「その命題に関する明確な結論は得られていない…が、我々の研究チームが至った結論に拠れば並行世界上の「地球」ではないだろうか?」


 そういった結論が最も信頼性の置けるモノだった。


 然しながら何故「上書き融合」が起きたのかは不明だった。



 何故「今」なのか?その当時その時代に生きていた2つの惑星に住まう真の被害者達はそう思っていた事だろう。



 「何故、自分達がこんなに苦労をしなければならないのだ?」と。

 「戦争がやっと終わり、平和な時代が来たというのに、何故?」と。



 「命題に対する見解」の発表が為されたのは「上書き融合」が起きた数年後の事だ。



 その数年の間に起こった大きな事件を列挙していくと……。


・第3次世界大戦

・各国独立戦争

・人種間闘争

・真理と虚理の融合

・魔導工学の発明

・第2次産業革命

・技術革新


 といった流れとなる。



 元々「地球」は「科学技術」を主軸として文明を発展させていった惑星と言える。


 生態系は言語体系を持つ人類と言われる「ヒト種」と、そして多種多様な言語体系を持たない動植物である。



 「蒼い惑星」は「テルース」という名の惑星だった。

 惑星全体を覆う豊潤な「マナ」をエネルギー源とした「魔術」を主軸に文明を発展させていった惑星とも言える。


 生態系は、言語体系を持つ人類と言われる「ヒト種」と、言語体系を持ちヒト種と似ているがヒト種ではない「亜人種」……更には独特の言語体系を持ち、ヒト種のように2足歩行をするが獣の血を引く「獣人種」……といったように、「言語体系」を持つ種だけでも地球の種とは異なっている。

 また、言語体系を持たない種においても地球の種とは大いに異なる生態系を持つ惑星だった。



 そんな2つの異なる生態系をもつ惑星が融合した事に拠って、世界は2年にも及ぶ戦争状態になっていった。


 然しながら戦争は本来の定義で言えばを主たる目的とする。

 しかし第3次世界大戦においてはそもそもの定義が崩れる「戦争」であったとも言える。


 拠って正確に言うならばが本来の定義の意味合いとしては正しいだろうが世界的規模で同時多発した事から便宜上「戦争」という位置付けになっている。



 要するに各国の侵略対象である「敵」は他国ではなく同国内にいた。それは敵からしても同じ理屈であってお互いがお互いを一方的に虐殺ぎゃくさつし虐殺され…を繰り返す形となった。


 さながら下克上上等の群雄割拠の戦国時代に似ているかもしれない。



 世界各地で戦争が勃発していき融合後の世界の全人口が融合前の3分の1程度まで減った頃になると情勢は変わりだしていく。(融合時の被害で2つの惑星人口約45億人が半減し約22億人程になったと推測される。また同戦争で約7億人が犠牲となる)

 銃火器を主力兵装に採用していた科学技術をベースに持つ「地球」サイドは、マナをエネルギー変換して魔術を駆使する「テルース」サイドに徐々に押され出していったのだ。



 地球サイドは惑星融合に因ってライフラインは途絶え、物資及び資源は枯渇状態にあり新たな武器弾薬の生産も出来無くなっていた。だから弾薬類が底をついた段階で「地球」サイドの敗北が確定しそうなものだが「地球」サイドの人類はそれを「善し」と当然の如く思う事はなかった。


 拠って「テルース」サイドの武器とも言える「魔術」を自分達の扱える武器にしようと考えていったのだ。


 こうして戦争は泥沼どろぬま化していく。地球上に於ける過去からの歴史は、融合後も再び繰り返されたと言える。


 血で血を洗う凄惨な歴史の上に成り立った地球圏の文明が下した選択は、時を超えて文明が栄えた後でも、と言う事実に対する証明とも言えた。



 そんな戦争の最中さなかに於いて、財力や権力を持っていた一部の人類達は、各地で独立国家を提唱していった。

 それによって第3次世界大戦は急速に戦線が失速していく。


 かくして各地で独立国家が文字通り群雄割拠ぐんゆうかっきょしていった。

 それは法治に拠る民主主義国家と言うよりは専制君主制が支配する戦国時代へと逆行していったとも言い換えられる。



 然しながら大小様々な国家が乱立するにあたり、1つの国家に属する民衆が単一の種族だけで成立している国家は非常に少なかった。それは即ち多種族からなる国家に於いては種族間の闘争・紛争が絶えなかった事を意味している。


 その末路は言わなくても分かりきっているだろう。

 新しくおこった国家が崩壊・滅亡し、また新たな国家が興るか周辺各国の餌食になるか…といった具合で統廃合は徐々に進んでいった。

 それはやはり戦国時代のと言わざるを得ない。




「何故、戦争に至ったのか?」

「何故、突如現れた隣人を殺すに至ったのか?」


 当時その質問に対して正確に答えられる人間は誰1人としていなかった事だろう。



 惑星同士の突然の融合。ライフラインの断絶。水食料の枯渇こかつ


 そこに暮らしていても人間としての尊厳は無い。雨露を凌げても今日を生きる為の水も食料も無い。

 そんな状況下に於いて生き残った人類は、とても冷静に考える事は出来なかったコトだろう。


 冷静に考えられなければ「何故?」などと考える余裕すらなくなってしまう。



 死と隣り合わせの絶望。狂ってしまいそうな程の恐怖。


 果てしない絶望。正気を保てなくなる程の恐怖。


 先の見えない絶望。自我を保てなくなる程の恐怖。



 それでも尚、身体を襲う生への渇望。



 初めは1発の銃声だった。その銃声が引き金トリガーとなった。

 幾つもの絶望は、幾重もの恐怖は、人間を人間足らしめる理性のタガを外し狂わせた。

 拠って絶望は殺戮さつりくに至り、恐怖は戦争に至ったのだ。




「言葉が通じていれば、こんな結果を招かなかったのか?」

「話し合う事が出来ていれば、戦争は回避出来ていたのか?」



 それらの問いに対する解答が実用化され用意された事により種族間による闘争は終結していく事になる。

 こうしてようやく融合から始まる戦争や諍いなどは一旦終わりを告げ「仮初かりそめの平和」が顔をチラつかせるようになっていった。




「科学技術の原理を「真理しんり」と呼び、魔術の原理を「虚理きょり」と呼ぶ」


「科学技術の発展した「地球」に於いてはマナの存在はなく、「虚理」の原則に至るのは不可能」


「だが、上書き融合されたことで地球にマナが満ちた今の状態であれば「虚理」の原則を用いることは可能」



 その論文を発表した1人の天才がいた。彼は論文に記した結論に至る事でたった1人で真理の原則を虚理に置き換える事に成功した。

 更には虚理の原則を真理に置き換えるという今まで誰しもが考えも付かなかったとある実験を成功させたのだ。


 それが、後の「魔導工学」という新たなジャンルの学問が成立した瞬間と言える。



 その新たな学問である「魔導工学」により最初に生み出されたモノが、後に「デバイス」と呼ばれる物の原型であった。

 こうして「魔導工学」は人種間に於ける言葉の壁を取り払ったのである。



 「仮初めの平和」により人々は生活の向上を願った。それによりほぼほぼ機能していなかったライフラインは心機一転新たに整備し直されていく。

 こうして魔導工学を主軸とする新技術の発展と共に産業革命が起きていった。


 技術革新が起きた事は各国で生産ラインを次々と樹立させる事になる。それらは群雄割拠した小国ながら軍事力・国力を増大させていく事に繋がっていく。


 軍事力を増大させた事により国の指導者たちは戦国時代さながら周辺各国に対して軍事介入を始めていった。

 一旦は退いていた戦争と言う名の武力衝突が再び目を冷ましたのだ。


 そんな矢先に再び地球は事変に巻き込まれていく。



 世界各地で「魔獣」と呼ばれる獣たちが猛威を振るったのである。



 突如として押し寄せた「魔獣」達の脅威に対して高めた軍事力は削がれていった。国は周辺各国に対する軍事介入どころではなくなり、新たな脅威に対して対策を講じなければならなくなった。


 そこで台頭してきたのが、「テルース」に元からあった「ギルド」である。



 「ギルド」は発足当初は鍛冶などを行う職人の集団だった。だが「テルース」における国家の成り立ちに於いて、人類以外の種からの侵略に伴う対抗手段を取る必要性が生まれた。

 拠って「ギルド」は職人集団から傭兵ようへい集団へと変遷へんせんを遂げていく事になった。


 そしてその傭兵集団は先の戦争の際にも「テルース」の先兵として「地球」サイドを大いに苦しめていた。


 それが魔獣の台頭によって力を付けたのである。



 「ギルド」は魔獣狩りの報酬として各国家における独立機関として地位を確立していく。



 かくして魔獣の猛威が一時的に終息を見せた頃になると各国家の元首や指導者といった者達は増長する「ギルド」勢力に頭を抱える事になった。

 そこで「ギルド」に対抗する手段として「公安こうあん」という機関が設立される事になっていく。



 「公安」は「地球」における警察機構と軍隊が統合されたモノだと考えれば1番手っ取り早い。拠って国家における治安維持を主たる目的としており「対魔獣」というよりは、「対ギルド」という色合いが非常に濃厚だった。


 こうして時は流れ各国家における指導者達は決断を迫られていく。

 その国の武力を「ギルド」と「公安」にそれぞれ分散させてしまったが故に、その国に於ける支配権を徐々に失っていく事になったからだ。



 結果としては紆余曲折うよきょくせつの末に、「公安」のトップがその国家に於ける決定権を持つ最高権力者になっていった。


 また「ギルド」「公安」共に所属する傭兵達の事は「ハンター」と呼ばれるようになった。その「ハンター」は所属先から依頼クエストを受注し、請け負った依頼クエストを解決する事で報酬を得る「職業」として成立していく事になる。


 繰り返された歴史の果てに人類史はそんな時代へと移り変わっていったのだった。

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