第2話
この世界は不条理だ。
何もかも狂っている。
「浮気を正当化されただけでは?」と思い出し、益々腹が立つ。
普段は平和主義者の為に腹が立つ事さえも無いので、どこでどう自分の気持ちを整理したら良いのか加減が分からなかった。
すっかり空は暗くなり、今日から住む事になる家に着いた頃には星が瞬いていた。
道の整備がされている所であれば、隣国迄三日はかかるのだが、今回の秘密ルートは云わば整備前の道なので数刻有れば着いてしまうのだ。
悪路続きで死ぬかと思ったが。
従者に礼を言うと、彼は「また後日荷物をお届けに参ります」と帰っていった。
あの道を平然と帰っていけるのは凄いなと思う。
私は家の鍵を開け、トランクを投げ込むとまた扉を閉めて鍵をかけた。
そして、ズンズンと馬車の中で考えていた事を実行する事にした。
徒歩数分の所にそれがある事を知っているのだ。
小さいがステンドグラスが綺麗で一目惚れした教会。
ここで密やかな式を挙げる事をどれだけ楽しみにしていた事か。
遅い時間に一人で来た女性に、ここの管理をしている神父は驚いていたが「犯した罪を償う為、一人で祈りを捧げたい」とかなんとか涙目で訴えると快く一人にしてくれた。
こんな地味顔の女が、神に何かをするとは思わないだろう。
私は祭壇へと迷いなく進み、仁王立ちですぅと息を吸った。
こうでもしないと腹の虫が収まらない。
「近くに越してきたアズノエル男爵が娘、サラと申します!今日こそは一言物申させて頂きます!
乙ゲー乱立し過ぎて世の中おかしな事になってるんですけど!??一番お気に入りのヒロイン見つけ出して、その悪役令嬢に忠告しまくってフラグ全折りするぞ、出て来いや!!」
鬼の様な形相で一息に捲し立てたが、私の声が響いただけでシーンとしていた。
神にお願い事をする時は自分の名前と住所を言うんだったか、と転生前の記憶とごっちゃになっているが変に冷静になりながらも最後の方は言いたい放題言ってしまった。
まだフツフツとマグマの様な怒りは有るが、当たり前に何も起きる訳が無いのでくるりと踵を返し、誰も待たない家へと帰る為に一歩踏み出した。
『………その話、聞かせてもらおう。』
その時だ。頭の中に響く声と同時に、祭壇に祀られた鏡から夜とは思えぬ様な光が差し、私を包み込んだ。
眩しくて目を瞑り、恐る恐る開くと目の前にこの世のものとは思えない程の美形の顔が目の前にあってギョッと目を見開いてしまう。
だが、身動きは取れない。
まさか、私、今、神(仮)に両腕を掴まれている?
「き、き、き、き、君!!何故”乙ゲー”という言葉を知っている!??」
その言葉を聞いた瞬間、スンッと冷静になる。
どうしたものか、先程までの異様な恐怖が何処かに飛んでいってしまった。限界点を超えると人はこうなるのか。
「…先ずは、この手を離して下さいませんか?お話し致しますわ。」
自分のしている事に気付いてグッと苦虫を噛み潰したような顔をした神(仮)は、私を掴んでいた手をゆっくりと下ろした。
苦い顔をしているが、金に輝く髪がさらりと揺れ、宇宙のような紫色の瞳に吸い込まれそうになる。
そちらを見ないように辺りを見渡すと、以外にもスッキリとした白を基調とした洋風の部屋で、ソファや机も完備されて居た。
私の想像の天界とは違うようだ。
もっと、こうお花畑みたいな感じだと思っていた。
「…動揺していないのだな。」
「いいえ、十分動揺しています。本当に神にお話が通るとは思いませんでしたので、逆に冷静になっていますわ。…神で宜しいのですかね?」
「…あぁ。人間は我らの事をそう呼ぶ。君の住んでいる所の直轄は僕だ。それよりも僕の質問に答えるんだ。」
ギッと睨み付けてくるが、以外にも恐怖は感じられない。私の心は今無敵だからかもしれない、ここからは事実を述べるだけなのだから。
「わたくしは異世界転生者です。前世の記憶が有ります。乙女ゲームは嗜んでおりませんが、小説の方を少々…。何処の世界かは、良くご存知でしょう?」
私の返答を聞いた彼は、項を垂らして抱えると机に有った呼び鈴を力一杯叩いた。
いきなり、リーーン!と大きく鳴った音にびっくりして、私は少し飛び上がってしまう。
「はい、は~い、エルダーン様お呼びですか~?って、あれ???生きた人間?」
すると、ポンッと一つの光の玉が弾けて可愛らしい女の子が出て来た。くりくりのお目目をぱちくりと瞬き、私を見て小首を傾げた。
「み、る、る????最近ヘマしないと思っていたが…、『地球』はお前の直轄だよなぁ?」
ゴゴゴと効果音が聞こえるくらい笑顔で青筋を立てている神に、ミルルと呼ばれた少女は首根っこを掴まれ、ピェッと震え上がり瞳を潤わせる。
「わわわ、私、またやっちゃいましたかね?」
「それを今から調べるんだ!」
「は、はいー!!今すぐにー!!!」
そう言ってピューッと小さな羽で部屋から物凄いスピードで飛んでいった。
そして、一瞬にして帰ってきた。
私は唖然とその光景を見守る。いや、見守るしか無かった。
「この方の資料、こちらになりますっ!」
ペラペラと私の資料であろう分厚いそれが捲られ、神が目を通す。
そして一通り見終えると、再度頭を抱えてそれはもう盛大な溜息を落とした。
「すまなかった!!!!!!」
ガバリ!と私に向かい頭を下げる神。
いや、もしかしなくても私、今、神に頭下げられてます?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます