無罪なのに断罪されたモブ令嬢ですが、神に物申したら上手くいった話

もわゆぬ

第1話


「コーデリア=アンダーティス!君は我が愛しのマリアを貶めた!婚約を破棄させて貰う!」



今夜の夜会は騒がしかった。

そして、誰もが『またか』と思う。

皆が興味が有るのは、悪役であるご令嬢の振る舞いだ。

本日のご令嬢は泣き叫び自分の無実を主張する。

だが、それも虚しく衛兵によって引き剥がされた。

本当に彼女が悪いのかは神のみぞ知る、といった所だが。



ここは悪役の断罪が流行っている世界だ。


正直、反吐が出る。

婚約者が居る分際で他の女と遊ぶ事に関しては許容範囲かもしれない(私には理解不能だが)。

しかし、家同士が決めた婚約を反故にするのは貴族としてどうなんだ?と思う。恋は盲目とは良く言ったものだ。

それなのに、正義を貫いたヒーローとヒロインにはとことん優しく、悪役にされた人間に対してとても優しくない世界なのだ。

王族からの断罪であれば島流しさえも罷り通る。冤罪の可能性だって高いのに。まるで魔女狩りではないか。

しかし、非力な私ではどうしようも無かった。行動を起こした事も有ったが、ことごとく潰されてしまう。世界からの強制力なのだろう。

まぁ、真実は闇の中なのだが。


夜会に行けば大概このような事件が起きる。

ここは乙女ゲームが何個も何個も集まった世界なのでは無いか、と私は仮定している。

そう、在り来りだが私は異世界転生者だ。気付いた時には前の世界の記憶が有った。

乙女ゲームをプレイした事は無かったが、異世界転生系の小説が好きだったので見た事が有る展開ばかりだからだ。

異世界転生といえども、全部を覚えている訳では無い。そんな事有ったな、と昔の事を懐かしむ程度に覚えているといった感じである。若い内に儚くなったんだろうな、くらいだ。実際の異世界転生なんてそんなものだ。

それでもこの世界に生まれ育ち、学園で初めて悪役の断罪を見た時は驚いた。本当に有るんだ、と。

違和感を覚えたのはその後だ。


何度も何度も違うグループで同じ様な出来事が起きる。学園では卒業までに最低でも五回は断罪が起きていたのだ。聖女的なヒロインはどれだけ居るんだ、とも思った。

何度もその様な事が起きると、悪者らしい悪者なんて表面上は居なくなる。

純粋な正義が一番怖い。

やっと学園を卒業出来たのに、またこの様な場面に出会うとは私はツイてない。


「サラお嬢様、もうお帰りですか?」


何時もより早く戻ってきた私に従者が問う。


「ええ、もう用事は済んだしいいの。」


そう言って、そそくさと馬車に乗り込んだ。

本日の夜会を開催した伯爵に用事が有ったので来ただけだったのだが嫌なものを見た。夜会は一人で来るもんじゃないなとつくづく思う。


私自身、もうすぐ結婚する身だ。

異世界転生だというのにチートなんて備わらなかった。ごく普通である茶色の髪と平々凡々な見た目、学歴は中の上くらいで平々凡々な知能である。貴族とはいえ、新興貴族のちょっとお金持ちの男爵の娘で特に料理が上手いとか、魔法が優れているとかも無い。強いて言えば、瞳の色が色素の薄い茶色で綺麗だと婚約者は言ってくれた事くらいだ。

幼なじみで昔から決められた事とはいえ、家が新興貴族同士で私達は仲が良い。恋愛感情等は良く分からないが、あの人となら楽しく過ごせるだろうと思っている。


とりあえず、家に帰って早く眠りたい。





「サラ。君、平民を虐めているそうじゃないか。そんな君と結婚なんて出来ない。婚約を破棄したいんだ。」


前言撤回。


家に帰るとバタバタと焦っている使用人に連れて行かれ客室に向かうと、私の婚約者であるデルタが何故か庇護欲をそそられる可愛らしい女の子を抱き締めながら格好をつけている。


つらつらと私がしでかしたであろう事を言い連ねると、自分の言い分に言い返されない事に満足したのか「君の親と話は付いてるから。」と言い残し、去っていった。

唖然としていただけだったのだが。


訳も分からないまま傷物になってしまった私は泣いている父と母を宥め、別荘用にと彼に内緒で隣国に買ってあった家に一人で移り住む事が決まった。そんなに広くは無いが、一人で住むには十分過ぎる。少し歩くと美しい海のあるロケーションばっちりの場所なので彼にサプライズで伝える事を楽しみにしていたのだが。

有難い事に家がそこそこお金持ちなので、結婚資金として渡すはずだった資金を丸々くれるという。質素に暮らせば二年はなんとかなるだろう。特に贅沢な暮らしをしていた訳でも無いし、前世でも平凡な人間だったので平民の暮らしにも入っていける。

早々に仕事は見つけなければならないが。

お金が有る貴族で本当に良かった。


この国に居たら悪評が付いて回る可能性が高い。

もう社交界には出られないし、再び婚約者を募るにも19歳では年齢が高すぎる。

一刻も早く、この国から去らねばならない。

それくらいこの世界は断罪された者にとって危険なのだ。


トランク一つに詰め込めるだけ詰め込むと、「手紙を書くわ」と父と母を抱き締めてから馬車に乗り込む。



また馬車に揺られ、しなければならない事が沢山有り過ぎて頭を抱える。

隣国への秘密ルートを使っているので、ガタガタと悪路が続いた。


馬車酔いによる気持ち悪さと、妙に冴えてしまう頭が先程の事を思い出してフツフツと怒りが湧いてくる。





「ていうか、アイツ誰!!!!」



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