第3話


説明はこうだ。


まず、第一に『地球』を直轄しているミルルという子が確認ミスをしていて、私の記憶をそのままにしてしまった事。

そして、この世界の神である”エルダーン”が無類の『地球』の乙女ゲーム好きだという事。

普通だったら記憶を持って生まれてしまった者、で終わるはずだったのだが、エルダーンが好きな乙女ゲームを作った世界の記憶を持ってしまった為にその効果が遺憾なく発揮されてしまい、私の周りでだけだがこの世界に乙女ゲームの様な断罪やイベントが発生してしまっているのだとか。

つまりは、どんな悪役への断罪も罷り通ってしまっているこの世界は”私がこの地に生まれてしまった為”だと言うのだ。

私のチートは『この世界を乙女ゲームの様にするという強制力』だったとでも言うのか。


私のせいで、私自身が苦しめられていたなんて。


愕然とする私に、二人は平謝りをする。

ミルルはその後、事後処理が有るというのでペコペコと頭を下げながら退出して行ってしまった。

神に謝られるなんて意味が分からないが、謝られたとて私の時間は帰っては来ない。


「君が教会に足を運び、伝えてくれなければ分からない事だった。本当に申し訳ない。

完全に強制力を無くすには、君の前世の記憶を消す必要が有る。残念ながら、僕は忘れる事が出来ないからね。

君の強制力は貴族間で起こるものだ。君がこうして貴族から離れた今、周りがそれに強制される事もほぼ無くなるだろう。

君は、どうしたい?

生まれた時から有った前世の記憶を消して強制力を無くしたい?強制力が何処まで届くか分からないけど、もうこのままでいい?」


最初の時とは違い、優しい口調のエルダーンの声がスっと入ってくる。

彼は神だ。世界は広い、そんな中の一部の事だけ特別扱いは出来ないし、分からない事も多いだろう。

そんな中で、私に選ばせてくれるらしい。


この強制力は有ってはならないものだ。

今は考えられないが、普通の恋だってしたい。それに、周りにだってもう迷惑はかけたくない。

だが、幼少期より有る前世の記憶をいざ”消せ”と言われると二の足を踏んでしまう。



「あの、少しずつ記憶を消す事は出来ますか?」


「出来るが、どうしてだ?」


「気付いた時には前世の記憶が有りました。なので、私の中の一部といっても良いでしょう。いきなり無くなると、どうして一人で隣国に居るのか分からなくなりそうで…。それと…私、ずっと誰かに前世の記憶がある事を知って欲しかったのかもしれません。」


今まで誰にも前世の記憶がある事を言った事は無かった。仲の良かった友達や、大好きだった家族にさえも。

言った所で頭のおかしい奴だと思われるだろうし、別に言わなくても生きていけたから。

だが、今となってはその誰とも交流をせずに生きていかなければならない。隣国という私を誰も知らないこの地で。

言いたくても、言えなくなってしまった。


「なるほど。記憶の操作はさせて貰うつもりだが、色々不都合が有るかもしれないな。

…では、これはどうだろうか。少しずつ、違和感無く消していく為に、期限付きで僕が話し相手になるというのは。」


「え?」


予想外の事を言われてポカンと口を開けると、少し恥ずかしそうにエルダーンは肌をポリポリと掻く。


「君の世界への強制力は僕のせいでも有る。まさか僕の趣味のせいでこんな事になっていたとは…。君の周りだけで起きていた事とはいえ、せめてもの罪滅ぼしだ。君の前世の記憶、僕に教えて欲しい。

…だが、これでは僕が得しているのかも…「お願いします!」


何だかエルダーンは段々ボソボソと声のトーンが小さくなってしまったのだが、私は被せ気味に彼の提案を受けた。


聞いていて思ったのだ。話し相手すら今の私には居ない事に。

寂しい時間を過ごすよりは、ちょっと知り合いくらいでも話せる人が居た方が良い。

人ではないけれど。それも、良い気がした。


前の人生では異世界系の小説を語れる友達は居なかった。そちらも嬉しい。

期間が過ぎてしまえば忘れてしまうだろうが、彼は神だ。忘れる事は無いと言っていたので、私の事を覚えていてくれるだろう。


「では、時間を決めよう。」


エルダーンは食い気味の私に対して、少し驚いた様だがフッと笑うと私との予定を立ててくれる。

少し笑っただけだが、美形の笑顔の破壊力は凄い。


なんとか平静を保ち、夜の一時間だけ彼と話す時間を決めた。

期間は三ヶ月。前世の薄い記憶から順にゆっくりと消していく事が決まった。

そして、こちらの世界と繋がる鏡を渡してくれるらしくそれで話すのだという。テレビ電話の様なものか。


一通り説明を受け、目を瞑れと言われたので言う通りにすると元居た祭壇の前へと戻って来ていた。


色々有り過ぎて頭の整理が追い付かないままで、私は大きな鏡を抱えて誰も待たない家へと帰って行った。


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