時には昔の話を

ケー/恵陽

時には昔の話を


「れーちゃん、きょうこそかくご!」

「あまいよ、たっくん」

 ヒーローものの影響か、最近娘とその従兄弟は会うたびに戦っている。普段は聞き分けのよい礼の子どもらしい様子に和む。

「竜己は礼ちゃんが本当好きね。あんなに素早く動くのは礼ちゃんと会うときだけなのよ?」

 隣でほわほわ和んでいるのは従兄弟の竜己くんのお母さんだ。親子で並ぶといつもマイナスイオンを放っているのだが、何故か礼に会うときだけは違うらしい。

「うちのも竜己くんと会うときは楽しそうなのよ」

 見ていると、娘は足を引っ掻けようとする竜己を跳んで交わす。逆に隙のできた竜己の脇腹に拳を叩き込んでいる。蹲る竜己。腰に手を当て勝利を告げる礼。

「ふん、われがなゆうしゃなんぞにまけるものか。おとなしく、わがぐんだんにくだるがよい」

「ぐうぅ、まだまけてない。まおうをたおすのはわたしのめいだいだ。つぎはたおす」

 娘が魔王なのか?

 竜己は勇者なのか?

 子どもらしい舌っ足らずな口調で難しい言葉を吐く二人。引っ掛かりがないわけではないが、初めての子どもだ。不思議なことがあるものだろう。子どもっていろいろなことを吸収しているな。

「竜己、礼ちゃん、ケーキを切るわよ〜。手を洗って来なさい」

「「はーい!」」

 のほほんとした竜己母の科白にお子様たちは、さっきの戦いを気にした様子もない。

「なんのけーきかなあ」

「いちごののったやつだよ。まえにれーちゃんがおいしいっていってたから」

「え、やったー! たっくん、おぼえてたんだ。ありがとー」

「べ、べつに。ぼくもすきだからいいの!」

 はしゃぐ二人を席に着かせ、皆でケーキを頬張った。



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