#11 寮生活と、謎の男

 校内地図を頼り寮へと辿り着く。この学園はクラス毎に寮が分けられているようで、Sクラスの寮は他クラスと比べても大きく豪勢な作りになっている。


「おぉ…… これは凄い」


 寮に入るとそこにはまるでホテルのフロントのような空間が広がっていた。ここ本当に寮なのか疑わしい。

 ひとまず自分たちの部屋が必要だ、作業をしていたフロントの受付に声をかける。


「あの、僕ら新入生なんですけど」

「お話はお伺いしております。私は『寮長』です、まずはSクラス寮のご説明をさせていただきます」


 寮長と名乗る女性は丁寧にお辞儀をし、寮のシステムについて説明を始めた。


「Sクラスの寮は他クラスとは違い、部屋は完全個室で食堂は営業時間内であれば、必要な時に好きなだけ食べれます。また、衣類や本等の購入に使える金銭も毎月一定額を支給させて頂いてます」


 凄まじい程の高待遇だ、普通に考えて何か裏がありそうで怖いくらいの。


「無論ですが条件もあります。それはSです」


 Sクラスは他クラスとは違い、クラス内で順位付けがされている。この順位は成績や学内行事の結果によって変動するシステムらしい。

 順位の変動は毎週末に行われ、最下位である十五位を四週間連続で維持してしまうと強制的にAクラスへ降格となってしまう。


「へぇ、随分と変わってんな」


 腕を組み、珍しく真剣に話を聞いていたリョウタが何やら隣で呟いている。


「現在リョウタ様はSクラス二位ですので、あまり心配はないと存じます」

「そりゃ結構。話は聞き飽きた、部屋の鍵をくれ」


 それを聞いた寮長が部屋の鍵をリョウタに手渡し、ついでにと言わんばかりに僕らにも鍵が渡される。

 僕の部屋は『301』のようだ。リョウタとフクシアにフランは連番の『302』と『303』に『304』。友人が近くの部屋というのは、些細なことではあるのだが嬉しい。


「では最後に、新入生の皆さんは明日に予定されています入学式に遅れないようお願いします」

「わかりました。ありがとうございます、寮長さん」


 寮長は軽くこちらに会釈し、元の作業に戻る。ひとまず僕らは自分たちの部屋に行くのが先だろう。


「俺らは先に行ってるからな。野次馬の目線も鬱陶しいからさ」

「では、トモキさんとフクシアさん。また後ほど」


 そう言ってリョウタとフランは早足でその場を去った。先ほどのリョウタの言葉の意味を確かめるように、僕は辺りを見渡す。

 すると、遠巻きであるが人集りが出来ており、僕らのことをジロジロと見ており面白おかしく話しているのが耳に入ってきた。


「見ろよあれがスプラウトの一位だぞ。あの変な魔法使ってた奴」

「吸血鬼の腕輪を外しても魔力が切れないって噂は本当なのか?」

「俺が見たんだから本当だって!」


 奇異の目で見られているのはあまり気持ちいいものではない。

 隣で何か言いたげなフクシアの肩をそっと叩く。


「僕らも行こっか、フクシアちゃん」

「……はい。そうですね」


 ジロジロと見られる視線を掻い潜り、自室がある三階へと向かった。



「えっと、この本は結構読むからこの棚で……」


 一通りの整理を終わらせ、今は私物の整理中。室内はそこそこの広さで、ワンルームマンションくらいの大きさはあるだろう。

 内装は簡素だが、ベッドと机、それに本棚が一つだけ置かれている。お風呂は残念ながら大浴場しかないが、当然ながら非常に大きく生徒たちの交流の場としても使われているようだ。


「よし! これでお終いだ」


 持ってきた荷物が少ないのもあって比較的短時間で片付いた。後は明日に備えて休むだけ……だったのだが、鳴り響く部屋をノックする音がそれを許してはくれない。


「はい…… どなたですか?」


 ドアを開けると、そこにはフクシアとリョウタの姿が。ただフランの姿だけは見えなかった。


「トモキさん! 晩御飯食べに行きましょうよ!」


 いつも通り気怠げなリョウタに代わり、いつも以上に笑顔のフクシアがそう言った。しかし、リョウタといつも一緒にいるフランが居ない事が気にかかる。


「それはいいけど、フランちゃんは?」

「人混みが苦手なんだ。後で軽食でも持っていくから気にしないでやってくれ」


 確かに人混みが苦手だと食堂やレストランでの大人数が行き交う場所での食事はあまり喉が通らないだろう。こればかりは無理強い出来ない。


「早く食堂に行こうぜ。朝食べたきりで腹減ってるんだ」

「それもそうだね。行こうか」



 食堂に入ると高級レストランを彷彿とさせる内装とテーブルの配置。それと不釣り合いにも見える食堂の配膳窓口がある。

 そしてメニューのメインディッシュは日替わりらしく、本日は魚のムニエルとステーキの選択だ。ここにサラダにパン、白米等を自由に付け足していく形のようだ。


「日替わりってのは学食を思い出すなぁ」


 珍しく昔を懐かしんでいる様子のリョウタが口を開いた。寡黙で感情を表に出さない彼の、意外な一面を見たような気分になる。


「懐かしいよ。僕もよく生徒と混じって一緒に食べてたっけ」

「ははは、あん時のトモキ食べるの凄い早かったよな」


 メニューを見て懐かしい話題に浸っていると、後ろに並んでいるフクシアが大きく手を挙げながら話に入ってきた。


「はいはい! 私ステーキ食べたいです!」

「俺も肉食いてぇな。米もあるし」

「じゃあ僕は魚にしようかな」


 どれを選ぶか迷っているとやはり気になるのは視線だ。どうやら僕らが来ていることに気づいた生徒がチラホラいるようだ。


「けっ、変なモン見るような目でこっち見やがって」


 後ろをチラリと見ながら、リョウタが毒づく。


「まぁまぁ、それだけ期待されてるってことじゃないの?」

「……だといいけどな」


 僕らは入学試験の際、相当派手に本気で闘った。その上リョウタは学園教員であるゼノの息子だ。視線が集まっていくのも半ば仕方ないだろう。

 ひとまず、各々目当ての品を取り揃える。僕は魚のムニエルとパン、そして芋のポタージュを注文した。


「おぉ! 作り置きじゃなくて、注文してから作ってくれるんですね!」

「まだ十歳そこらの俺らには豪勢すぎるくらいの料理だな。少なくともこの世界の食堂で出される物じゃねぇよ」


 リョウタの言う通りだ。素人の僕が見ても一流のシェフが調理してくれているのがわかる、それにこんな高級な食事は前世を含めても食べたことがない。

 関心している僕らを他所に、完成した料理が順々に並んでいく。香ばしいバターの匂いと、風味付けで使われているであろうワインの香りがまた食欲を食欲を唆った。


「いい匂いだ。肉の質も良さそうだし、中々食べ応えもありそう」

「魚も中々美味しそうだよ、早く座って食べない?」

「私もお腹ぺこぺこですよ〜」



 食事を済ませ、リョウタやフクシアと部屋の前で別れる。夕食の出来は正に満足の出来だった、一日の疲れが吹っ飛ぶようだ。

 一息つきたい所だが、明日の入学式の為にも汗を流しに大浴場に向かう準備を始めようと思ったその矢先。


「よぉ、久しぶりだな」


 背後から聞こえた声に思わず身構える、窓もドアも締め切っているのにどうやって入ったのだこの男は。

 だけど、どこかで見たことがある風貌だ。ボロボロのローブと目が隠れる程に深く被られたフードがとても印象的だ。


「五年ぶりってところかな? トモキ」

「もしかして、本の中に居た人!?」


 その言葉に大きく頷いた。この人は僕に古代武装の力を与えた張本人だ、彼が現れたということは『進むべき道』に向かっているということなのか。


「どうやら、最初の仲間に会ったみたいだな?」

「仲間ってリョウタ君のこと?」

「そうか…… リョウタって言うのかアイツは、中々にパワフルな野郎だったな」


 いったい何処から見ていたのか、ローブの男はどうやら実技試験の内容を把握しているようだった。


「はは、だが大きな一歩だ。勇者としての道のな」

「ずっと気になってたんだけど、それってどういうことなの?」


 男は俯き、少し考えてから口を開いた。


「まだその時じゃない。だが、ヒントはやろう」


 男は両手を大きく広げ、指を二本閉じてこちらに見せつける。


と出会え。お前を合わせたが、この世界の鍵なんだ」


 彼の言葉に僕は大きな衝撃を受ける。

 出会うべき十三人とは転生者の総人数なのだろうか、それとも魔王を倒しうる力を持った人数なのだろうか。

 どの道、十三という数は僕が想像していた人数よりもずっと多い。


「……十三人、それが異世界から転生してきた人間の数なの?」

「そうとは限らないが、いずれ必ず全員と出会う。だが一つだけルールがある、。それが決まりだ」


 彼の言葉に僕は首を傾げる。何故そんなことが条件なんだろうか。本来であれば、情報共有くらいはしたいものだが。


さ、守れるよな?」

「……わかった。いいよ」


 僕は渋々とルールとやらを受け入れた。


「結構。代わりと言ってはなんだが、一つ挨拶を」


 彼はそう言うと、今まで深く被っていたフードを脱いだ。

 その素顔は、金色の髪と色白の端正な顔立ちをした青年だった。


「俺は『ペトロ』。アヴァロンに封印されていた俺を解放してくれたのは、本当に感謝してる。こうやって面白い世界を見れるんだからな」


 彼はそう言うと、こちらに手を指し伸ばしてくる。


「……僕も古代武装アーティファクトの力を貰ったことには感謝してる。これのお陰で今の僕があるから」


 僕もそう返してくる。しかし、彼の手を取ることはなかった。


「中々感動的なことを言ってくれるじゃないの。嫌いじゃないぜ、そういうの」


 彼は、それだけを言い残すと忽然と姿を消した。なんの前触れもなく、突然に。


「なんなんだ…… あの人」


 敵でないことだけは確かだが、毎度突然現れては一方的に要件を言ってまた消える。ペトロ名乗る男について未だに掴めてこない。


「まぁ、今はいいか。早く汗でも流して明日に備えないと」


 今は明日の入学式に備えるが先だろう。もどかしい気持ちを一度押さえつけて、大浴場へと向かった。

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