#10 教え子、改め、学友
「よっこいしょ!」
医務室のベッドにリョウタたちを運び、やっとの思いで寝かせる。まだ十歳の子供とは言え自分も同じ年齢、かなりの労力を使う。
「うひぃ、女の子でも結構重いんですね。本当に疲れちゃいました」
「フクシアちゃん、お疲れ様。助かったよ本当、色々と」
しかし、僕がそう言うと彼女は大きく首を振る。龍族の少女を疲労困憊の状態でここまで運んで来た事と言い、今日は彼女に助けられっぱなしだったのだが。
「いえ! こんなの、トモキさんに頂いた恩に比べたら全然足りないくらいです!」
「え? 君と僕って初対面だよね?」
僕が不思議そうに答えると、彼女は落胆したような表情になった。
「お、覚えてないんですか!? あの時、私の事助けてくれたじゃないですか!」
僕は少しの間記憶を巡らせたが、思い出すことができなかった。第一、こんな美少女を助けたのなら嫌でも覚えているはずだ。
「ごめん、本当に覚えてないんだ」
「むむむ…… 五年前、飛竜種に襲われてた私たちを助けてくれたんですよ。覚えてないでしょうけど」
彼女の言葉で、五年前のあの日を思い出す。
「……あっ、あの時の女の子!?」
五年前、初めて古代武装を使った練習をしている最中にやってきた飛竜種。それに襲われていたのがフクシアだったというのだ。
「ってことは、君はギルドマスターの娘さん!?」
「そうですよ! 今頃気づいたんですか!」
フクシアは僕の肩をポカポカと叩きながら怒っている。気づかなかったのは申し訳ないが、五年も前だと記憶から薄れてしまうのも無理はないと思えなくもない。
その会話がうるさかったのか、傍で眠っていたリョウタが不機嫌そうに目を覚ます。
「痛ったた、うるせぇな。おちおち寝れもしねぇぞ」
「リョウタ君! 良かった、目覚めたんですね」
「別に致命傷だった訳でもないからな。頭痛が半端ないくらいだ」
リョウタは頭を抑えながら身体を起こす。魔力が底を尽きれば本来は丸一日寝ててもおかしくないらしいのだが、彼はものの数十分で目を覚ました。彼が別世界からやって来た人間というのも関係があるのだろう。
「丁度良かった。トモキとはまだ色々と話したいことがあったからな」
「僕もだよ、お互い見た目はかなり変わってしまいまったけど」
それを聞いたリョウタは面白そうに大きく笑い、そして頷く。そして転生するまでの経緯を語り始めた。
「前世って言っていいか、あの日いつも通り『
「僕はトラックに轢かれちゃって……」
「ということは産まれた日も種族が違うことも、それに関係があるってことだな」
リョウタは医務室の机から紙とペンを取り、二つの棒人間を描き始めた。
「まず、俺ら二人。異世界からやってきた人間、『
「でも僕らは生徒と教師の関係。一概に規則性がないとも言えないんじゃないかな?」
「……それもそうだな。だが、一つ言えるのは俺ら以外にも転生者がいる可能性が高くなったという訳だ」
そう言ってリョウタは更に二つの棒人間を書き加える。
「予想だと『ライザの弟』、あの言い方だと俺と張り合えるレベルなんだろうし転生者の可能性も高い」
「あと一人は?」
「親父から聞いた話だが、受験者に一人『奇妙な魔法を使う女』が居たらしい。恐らく異能力だ…… まぁSクラスにはいないみたいだがな」
ペンをクルクルと回しながらリョウタはそう言う。僕は扱えないが、きっと他の人は異能力を使えると思うと自分が使えないのがちょっと残念に思える。
「やっぱ他の人もリョウタ君みたいに異能力持ってるのかなぁ」
「あの力だって、無条件で発現してるわけじゃないんだよ。『俺のストレスを利用』して働いてるんだから」
「……え?」
ストレス?何を言ってるんだ、確かに感情等は魔法の善し悪しを決める重要な物。しかしストレスは魔法に一切関係ない、それをリョウタに言うと自分の能力について語り出す。
「俺は『ストレスの量によって身体能力が強化』されるっていう異能力だ。ただし、異能力を使った行動を行えばストレスが発散されてストレスの量が減る。そうなれば能力の出力も――」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ストレスってどうして分かるの?」
「夢で言われたんだよ。能力の事とか使命だとか、色々な」
「それって……」
「悪い、これは今話せない。そういうもんだと思ってくれ俺の能力は」
少しバツが悪そうにリョウタは口ごもった。何か事情がある以上詮索は出来ない、彼にも彼なりの事情があるのだろう。
「つまり、トモキさんとリョウタさんは前世の記憶があるとーっても凄い人ってことですね!」
いままで一切口を開かなかったフクシアが確かめるように問いかけ、リョウタも軽く頷く。
「要約しすぎだが、そういう事だ」
「やっぱりトモキさんは最高ですね〜! 私、本当に貴方に憧れて魔法を勉強したかいがありました! こうして肩を並べて戦場に立ち、共に同じ教室で学ぶことが許されたということですもんね! リョウタさんも再び教師であるトモキさんに会え――」
まさにマシンガンのごとく喋り続けるフクシアの口を、リョウタが強引に閉ざす。
「わかった、わかったから! 少し口を閉じてろ。……すげぇ女だな。コイツ」
「僕も今日初めて会話したものだから……ごめん」
口を塞がれても尚喋ろうとするフクシアだが、ここまで僕に対して憧れ?を持ってくれたのは嬉しいが……少し暑苦しい。
「ひとまず、丁度よく同じクラスになれたんだ。これからの目的は『他の転生者を探す』。これに向かって協力し合おうぜ。トモキ」
「こちらこそ、心強いよ」
僕の返事を聞き、リョウタは頷いた。続けて彼は学校のパンフレットを取り出す。
「なら、次の狙い目は来月に控えてる『クラス対抗戦』だな」
「クラス対抗戦?」
「各クラス合同で行われる戦闘訓練だ。詳しいルールは毎年違うようだから、全員と顔合わせが出来ると断言は出来ないがな」
「その中でめぼしい人と握手か何かすれば、お互いが転生者かどうか判断できますね」
リョウタも頷いて同意してくれる。どういう理屈か不明だが、転生者同士が何かしらのアクションを起こすと互いのことを理解できるようで、他にも色々と条件がありそうだが今はこれがわかっていれば十分だろう。
「そうだ、一応俺の連れも紹介しとくよ。フラン!」
「はい。リョウタ様」
リョウタが呼ぶと気絶していたはずの龍族の少女が目を覚ます。思わず驚きで後ろに引いてしまう、フクシアに至っては驚きで声すら出ていないが文句でも言っているのだろう。
「『フラン・γ=スクプトリス』です。以後、お見知り置きを」
両手でスカートの端を持ち、軽く膝を持ちお辞儀をする。これがカーテシーという挨拶のやり方か、初めて見るが、彼女の育ちの良さが垣間見えた。
呆気に取られてるフクシアを肘でつつきながら伝える。
「よ、よろしく……フクシアちゃんも挨拶した方がいいんじゃないの?」
「え!? そ、そうですね。フクシア=トルマリンです、趣味は読書と草むしりです!」
草むしりが趣味なのは衝撃的だが一旦置いて、ひとまず僕らの挨拶は済んだ。これからの学園生活を共にする仲間が増えた、これ以上に心強いことは無い。
「あっ! 思い出しました!」
すると突然フクシアが何かを思い出したようで。
「フランちゃんって『スクプトリス王朝』の第二皇女ですよね! 『龍族のお姫様』ってライザ先生が言ってたんで気になってたんですよ〜」
「はい。フクシアさんの仰る通りです、ですが学園では皇女ということを捨てたつもりで来ております」
「だとしたらリョウタ君とはどういう関係……?」
「幼馴染だ。親の付き合いでな、遡ると長いんだが――」
リョウタが話し始めると医務室の扉が勢いよく音を立てながら開く。見れば両脇に生徒を抱えたライザの姿があった。十歳程度とは言えよく両脇に二人ずつ担いで来れるなこの人。
「おや? 君たち元気なら運ぶの手伝ってよね」
「吸血鬼の先生か、めんどくせぇな」
「あれあれ? 吸血鬼は嫌いか、残念だなぁ」
そう言いながらベッドに生徒を放り込む。一応生徒だし丁重に扱ったほうがいいんじゃないか?
「それはさておき、 無事に実技試験を終えた君たちは晴れて我が校のSクラス生徒として学園生活を送ってもらうよ」
「ということは、寮とかってもう入れるんですか?」
「勿論! 話はもう通ってるはずだから、Sクラス専用の寮に今から行って荷物整理とかしてね。じゃ、私はまだまだ他の生徒見ないといけないから」
「ちょっと待て吸血鬼、一ついいか」
医務室を後にしようとしたライザをリョウタが呼び止める。
「『アンタの弟』と『奇妙な魔法を使う女』が居たはずだ、そいつらは何クラスだ?」
「……君たちには関係のない話だけど?」
「知る権利はある」
「ふーん、強気だね」
二人の異様な空気感が辺りを漂う。ただ睨み合ってるだけなのに、一触即発で爆発しかねない雰囲気だ。
だが、その空気の中で先に折れたライザは大きなため息をつきながら。
「はぁ、ゼノに文句言われても敵わないし。『私の弟』と『ナデシコ博士』の娘はCクラスだよ、これで文句ないでしょ」
「名前は?」
「それこそ個人情報だから教えてあげなーい」
リョウタは軽く舌打ちしながらもそれ以上の追求はしなかった。今はどのクラスに居るかだけでも情報が掴めただけでも大きい。
「そういうことで、私は戻るから。またね!」
さっきまで睨みつけていた鋭い表情から一転、朗らかで優しい顔つきになり笑顔で手を振りながらその場を去った。
「っち、面倒くさい女だ。厄介極まりねぇ」
「まぁまぁ。ひとまず僕らは寮に向かおうよ、クラスの情報が掴めただけで御の字だ」
「……まぁ、それもそうだな」
リョウタはベッドを降り、一足先に医務室を後にする。それにフランも続いた。
「僕らも行こうか、フクシアちゃん」
「はい! トモキさん」
僕らもリョウタに続くようにその場を後にする。これからついに学園生活が幕を開ける。
だけどきっとこれは、今日の始まりは。複数の世界を巻き込んだ始まりにすぎないのかもしれない。
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