#8 邂逅、転生者
「終了! ペンを置いて今すぐ立ち上がれ」
壇上から聞こえてきた声で目が覚めた。そういえばテスト中だった、あまりの疲れからか睡魔が襲ってきていたのだ。ひとまずは言われた通り立ち上がろう。
「ふむ…… 十五人か、今年は結構多いな」
辺りを見渡せば立ち上がっている生徒の数が十五人。つまりこれが筆記試験の合格者ということだろう、そして隣の彼女。
「頭くらくらするぅ〜」
フクシアも難なくとは言えないものの、無事に試験を終えることが出来ていたようだ。
ただ、一同あのペンの影響かふらついていたり頭を抱えている人間が多い。
「あの子、凄い普通だなぁ」
ふと辺りを見渡してみると、青いメッシュの入った黒髪が特徴的な少年に目が行った。特徴的な耳から察するに妖精族のようだ。
あの少年だけ、欠伸をしたりと余裕そうな表情が伺える。どの世界にも天才肌の人って居るんだなぁと感心した。
「では次の実技試験会場へ移動する。離れないようしっかりついて来い」
「頭まだくらくらするのに」
フクシアが片手を額に当てながら辛そうにしている。
「大丈夫? 手を貸してあげるから、頑張ろう?」
そう言ったが、フクシアは大丈夫と言って歩き出す。彼女もここまで残った一人なのだ、心配は野暮だろう。
◇
ゼノの後を追い、一同校舎から一度出て外へと向かう。
すると、様々な建物が並ぶ中、一つだけ異質な建物が見えてきた。
「絶対あれが会場でしょ……」
思わずそう呟いてしまうほどあからさまな建物。外観はまるで前の世界にもあった円形の闘技場、コロッセオにかなり酷似している見た目だ。
見取り図によればあの場所は競技場となっているが、闘技場と言う名の方が僕にとってはしっくり来てしまう。
「この中で実技試験を行う。競技場内では上級生も一部見学に来ている、お前たちの実力が遺憾無く発揮されることを期待している」
競技場の内部へと進みながらゼノは皆に、はきはきと伝えた。
「あ! おーい、こっちこっち!」
一同の少々重い空気を全く気にしていないのか、受付のような場所から先程の吸血鬼教師、ライザが大きくこちらに手を振っていた。ゼノとの温度差に驚くばかりだ。
僕らが彼女の前に並ぶと、何故か不服そうな顔をした。
「えー? これだけしかいないの?」
「昨年よりは多い。それに量より質だろう」
ライザの言葉にゼノが淡々と返す。
筆記試験の時はこれより倍以上いたことを考えればライザのこれだけというのにも納得がいく、だが昨年より多いというのには驚きだ。
「では、後は任せたぞ。マトモな試験であることを期待している」
ゼノは腕を組みながら皮肉っぽくそう言った。
「もー私に限っては大丈夫、大丈夫! ゼノの二十 倍は長生きだし!」
ゼノの背中をバシバシと叩くライザ、叩かれてる本人はかなり鬱陶しそうにその場を後にした。
そしてライザは生徒側へと向き直り、満面の笑みを浮かべた。
「ご苦労君たち! 次に君たちは実技試験をやってもらうよ。魔術や剣術に武術、『相手を殺さなかったら何をやってもいいよ』」
あまりに大雑把すぎるルールに拍子抜けし、思考より先に口が動く。
「あの、本当にそれだけですか?」
「オズワルドの息子! 勘が鋭いね、実はもう少しルールがあってね」
ライザはそう言いながら受付の女性から腕輪のような何かを受け取り、高らかに見せつけた。
「厳密なルールは二対二のチーム戦、同じチームの二人にはこの『
「どうせそれも普通の腕輪じゃないんでしょ! 私知ってます!」
今度は隣に居るフクシアが声を上げる。
「ご名答だ! これは『装着者の魔力を共有する』ちょっと変わった仕掛けのある腕輪で、魔力切れになると共倒れするから注意してね」
ライザも楽しそうに質問に答えた。
「あと、その腕輪外れたら強制的に魔力切れになるから。気をつけてね〜?」
ライザは不気味な笑みを浮かべて補足をする。ただ腕輪を外したら勝ちでは駄目なのだろうか。
しかし、なんとも悪趣味な道具だ。この学園の試験は長距離を歩かせたり魔力をインクに変えたりタチが悪い。説明してる本人も楽しそうに話してるあたり、悪気があるのでは、とすら思う。
「それで、チームはどうなるんですか?」
「私が独断と偏見で決めたよ。オズワルドの息子君は、そこの白髪の妖精とチームだ、仲良くするんだぞ?」
そう言いながらライザは僕とフクシアに腕輪を通した。着けた感想としてはイマイチ共有しているという実感がわかないが、ペアとなってるフクシアはどうなのだろううか。
「な、なにこれ!なんだか魔力で溢れてる感じがします! これ貴方の魔力ですよね!?」
横に視線を向けると、面白そうに腕を振り回しているフクシアが目に入る。どうやら想定外らしくライザは奇妙な顔をして僕を見つめる。
「あれ? 普通は体調崩したりするもんだけど…… ふーん、なるほどねぇ」
彼女はそう言うと中腰になり、自問自答の末に納得したのか、してないのか、はっきりしない態度で僕の体を舐めるように見回す。
「な、なんですか?」
「いいのいいの! 君たちの対戦相手を決めただけ!」
「誰とやるって言うんですか?」
すると、彼女は立ち上がり、僕の後ろを指さした。
「ゼノの息子、『リョウタ=モルガナイト』君よ」
◇
競技場の中心部へ移動し、対戦相手と相見える。当然だが、相手も腕輪を着けているようだ。
相手は筆記試験をかなり余裕を持って通過していたようだった黒髪に青いメッシュの少年。
予想通りと言えばそうだが、見た目に反して凄い威圧感があり、ペアの恐らく龍族の少女はこちらを睨むように見ている。
「トモキだな、話は母さんから聞いてるよ。俺はリョウタだ、よろしく」
「母さん?…… ま、まぁ僕はトモキ・ツワブキ。よろしくっ――!?」
求められた握手に応じたと同時に、身体中に電気が走り回ったような感覚に襲われ、思わず手を振り払い尻もちをついた。
それと同時にさっきまでなかった記憶が脳内で迸る。
「良太君……?」
「まさか、岡田先生!?」
目の前に居るのはかつての教え子『
なぜ『リョウタ』という名前を聞いても何とも思わなかったのだろう。
「なんで先生まで異世界に……?」
「それは僕のセリフ…… なんですが」
彼の手を借りて立ち上がる。そもそも僕以外が異世界に転生しているというのが不可思議な事だ。謎が謎を呼ぶ展開にお互い混乱している様子だ。
「……まぁ、その詳しい話は後にしませんか? 岡田先生、いや『トモキ』」
「え? それって」
「ひとまず、実技試験を終わらせてから詳しく話そうぜ。こんな大人数の前じゃ、話も出来ないだろ」
リョウタの言葉で辺りを見渡す、気づかなかったが多くの生徒や教師が僕らのことを見物に来ているようだ。確かにおちおち話をしていられる場所ではないだろう。
「それもそうだね、リョウタ君。僕も父さんの期待には応えたいからね」
「聞いてるよ、母さんは王立図書館で司書をやってるから色々とね。会ったことあるだろ?『カタリナ』って名前なんだけど」
「……あっ!」
モルガナイト、何処かで聞いたことがあると思ったらあの時の司書だ。元素の適性を見てもらってからよくお世話になっていたが、それにしても世間は狭いものだ。
「えっと、お母さんによろしく伝えといてよ」
「それ今言うのかよ?まぁ、それはトモキが直接言えよ。会うの面倒くさいから」
ぶっきらぼうに彼はそう言った。家族仲でも悪いのか? こちらも言葉を返そうとした時、競技場内へライザが降りてこちらに近づいてきた。
「はいはいアンタ達いつまで喋ってんの。一応試験なんだけど! 試験!」
「……吸血鬼か。割って入って来やがって」
リョウタが鬱陶しそうにライザを睨み、そうぼやいた。
「陰口聞こえてまーす。ほらほら、両者構えてね!」
ライザが半ば強引に僕たちを定位置に戻した。吸血鬼と言うこともあり、見た目に反してかなり力が強いようだ。
「それじゃ両者準備はいいね? それでは『Sクラス順位決定試験、実技部門』を始める、構え!」
リョウタが強くこちらを見つめてくる。
しかし妙だ。彼から漂う異質な雰囲気は明らかに普通じゃない。
「
合図と同時に、リョウタは凄まじいスピードでこちらに間合いを詰めてきた。
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