#5 使命と、始動
眩い光が辺りを包み込み、周りが一切見えなくなる。何が起きているのかさっぱりだ。
気づけば上も下も、周り全てが真っ白い空間に佇んでいた。
「この本の封印を解除したのは君か」
突如背後から聞こえた男性の声。振り返るとそこにはぼろぼろのローブを着て、顔が完全に見えないほど深くフードを被った男が一人立っていた。
「あ、貴方は……?」
「質問に答えてくれ。この本の封印を解除したのは君か?」
ローブの男は高圧的な態度でそう問いかけてくる。
「封印とか分かんないけど、本に書かれた魔法陣を触ったのは僕だよ」
それを聞くと男性はなるほどと頷いた。
そもそもこの場所は何なんだろうか、それに封印されてたって事は危ない人なのか、そもそも彼は人なのだろうか……。
「今名乗るほどじゃないが、一つよろしくな」
「は、はい。僕はトモキです。よろしくお願いします」
そう言い、手を差し出してくる彼に流されるまま握手を交わす。
「この本の封印を解いたということは、君はどうやらこの世界の人間じゃないみたいだ」
「どうして、そう思うんですか?」
「昔この封印を解除できるのは異なる世界から来た存在だけと俺は聞いていたからな」
相変わらず表情が読めないが、そう言っている彼は笑みを浮かべているように思えた。
「それに俺も昔、異なる世界から来た奴と旅をしていたからな。そいつと君の雰囲気が似ているというのもある」
そう続けた。驚いた、この人は五百年前の勇者と共に魔王を封印した仲間だったのか。
でも何でそんな人が本の中に封印されていたのだろう。
「まぁ、そいつからここ『アヴァロン』に封印されたんだけどな。ハハハ」
「アヴァロン? それに封印なんて、なんでそんなこと」
「然るべき時に、この本は必ず必要とされるんだそうだ。そして、俺が――」
会話を進ませていた時、辺り一面で突然大きな音を立てながら凄まじい揺れが起こり始めた。あまりの衝撃で立つことができず、両膝をつく。
「……どうやら、あまり時間がないようだ。君ともう少し話たかったのだが、仕方がない。また今度にしよう」
「ど、どういうことですか!?」
「君は『あの勇者と同じ資格』があるようだ、俺の力『
凄まじい地響きの音で何を言っているのか、上手く聞き取れない。だが、彼は僕に向かって光る何かを飛ばす。その光は僕を包み込むと、身体がふっと空へ浮かび上がった。
「安心しろ、いずれまたアヴァロンへの道は開く。君の使命を進むならば俺もいずれ君と――」
彼の言葉を聞き取る前に、再び眩い光が辺りを包み込んだ。
◇
「……モキ! トモキ!」
父親の声でハッとなり顔を上げた。辺りは元の世界、図書館の一室に戻っていた。
「お父さん?」
「おぉ、良かった! 本が突然光出した時は本当に驚いたが、無事で何よりだ」
「う、うん……ありがとう」
あの謎の男が言っていた僕の使命、それを果たせばいずれまたアヴァロンへと行けるようだ。
謎が多い人物には違いないが、彼からはまだ聞きたいことが山ほどある。
「しかし、まさか本のページが一気に消滅するとは困ったものだ。これじゃトモキが見れるところも少ないんじゃないか?」
「本当だ…… 白紙になってる」
父が捲る本を覗くと、殆どのページが白紙になっていた。きっとあの魔法陣に触れたことによるものだとは思うが、色々と引っかかるところもある。
「本が丸々全て白紙になっている。あの光の影響か?」
最後にあの男が力を託すと言っていたが、自分に力を託した影響で白紙になったのだろうか。
だとしても、使い方がわからない以上どうしようもないだろう。全部白紙にされては困る。
「トモキ、本当に大丈夫か? さっき本が光った時、妙な魔力を感じたんだが……」
「うん、なんともないよ!」
僕を見る父は凄く心配そうな顔をしている。
「そうか、もし何かあったらすぐに父さんに言うんだぞ」
いろいろ考えても仕方がないと思ったのだろうか、父は本をそっと閉じた。
「今日はもうこの辺にしておこう。朝からいっぱい動いてたからトモキも疲れてるだろ!」
「そうだね。今日はこれくらいにしようか」
あの光の中であったことをすべて説明してしまえば、僕が異世界から来た人間だとバレるのは明白だ。父も僕が『何か』に巻き込まれている事に勘づいているのかもしれない。
「ま、その本は持ち出し厳禁の奴だからここに置いていかないとな。いや待てよ、白紙だと意味ないか!ガッハッハ!」
僕も元とは言え教育者だ。生徒の細かい変化にも気づいていた自信がある。
ならば、同じ教育者だった父が僕の変化に気づかないはずがない。
父なりに何かを感じ、恐らく僕を助けてくれようとしているのだろうが、その気持ちを僕は裏切っているのだ。
いつかこの事を打ち明けれるときが来たら、ちゃんと謝ろう。
そう思う事しか今の僕にはできなかった。
◇
その日の夜。自分の部屋でいつも通りの眠りにつく時間……なのだが、今日は妙に寝付けなかった。
今日一日を通しての刺激というか、不安というか、そういった物が頭に引っかかって離れないのだ。
「はぁ、僕は一体どうなるんだろう」
最初は単に人生をやり直すチャンスくらいにしか思っていなかったのだが、どうにも雲行きが怪しくなってきた。
僕は五百年前の勇者と同じ資格がある、とあの男が言っていたが真偽はわからない。
「あーあ。もう一度話す機会があればなぁ」
「あるぞ、話す機会」
突然の声に叫びそうになったが、謎の手によって口を塞がれた。
「暴れるな。俺だ」
「アヴァロンの人!?」
声の主のほうを見上げると、そこにはアヴァロンに居たローブの男が佇んでいた。
「静かにしろ。俺の声は他の人間には聞こえていないから、声を抑えろ」
ひとまずローブの男に従う。しかしどういうことだ、本の中に封印されていたんじゃなかったのか。
「封印されてたんじゃ……」
「今現在も俺はアヴァロンにいる。君に与えた魔術を通してこうやって会話している」
「す、凄いですね。魔術って」
そう言うと彼は嬉しそうに頷いた。しかしこうやって自分の部屋まで来てくれたのだ、聞きたいことは山ほどある。
「あの、聞きたいことが――」
「悪いがこの通信はあまり長くは持たない。要件だけ話す、君の質問にはまたの機会に答えよう」
彼は僕の言葉を遮ってスッパリと言い切る。少々残念ではある。
「じゃあ要件って?」
「君に与えた魔術だ。
「でも、使い方がわかんないですよ」
「単純さ。『
詳しい説明によると、番号に指定されている武器を使い切りで召喚する、これが
いたって大真面目に彼は説明しているが、魔法で形作った武器を振り回して戦ったり等、魔法のルールから外れているとしか思えない。
魔法の発動条件も三句制御による魔力の操作を必要とせず、短い宣言と魔力を流すだけで使えるのはおかしすぎる。
「今は一から四までしか君は使えないが、いずれ五から十も見つけられるはずだ」
「見つける? どうやって」
「『俺たち』を封印している物がこの世界に散らばっている。それを見つけるんだ、きっと君の助けになってくれるはずだ」
彼は続けて僕の肩を両手で掴み。
「まだ君は幼い、だからこそ多くを学べ。本から自然から人から。そして『魔王を何としてでも封印』して欲しい」
「……わかった」
「時間だ。残念だが、今はここまでだ」
最後にそう言い残し、男は再び何事も無かったかのようにその場から消滅した。
「はぁ、僕には荷が重いな……」
本当に、僕にできるのだろうか。
◇
「トモキー? 起きてるー?」
「起きてるよ母さん!」
そして、あの本の男と出会ってから二年近くが経ち、僕も今日で五歳の朝を迎えた。
僕はこの日を待ち望んでいた。両親との約束で五歳からは図書館と母の診療所なら一人でも行って良いという事になったのだ。
あれから両親から様々な魔法を教えて貰い、出された課題は全て達成してきた。その甲斐あって今日の約束に漕ぎ着けたという訳だ。
「早くしないとご飯冷めてしまうわよ!」
母の声が扉の奥から聞こえる。いそいで身支度を済ませなければ。
そして、着替えを済ませ部屋から出る。
今日からまた新しい一年が始まる。
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