15日目

第58話 冒険者復帰

 エリックはカノンのお陰で、無事に特別経営相談役に復帰した。

 まだ文句がある冒険者は、外にいるパトラッシュさんが前足のお手で殴ってくれる。


「商売に邪魔者が入るのは、いつものことだ。さて、ディラン君。今日の仕事は何があるのかな?」


 カウンターの椅子に堂々と座るエリックが、部下のディランに聞いた。

 エリックは新入りだから、仕事内容はまったく知らない。

 そんな使えない新入りに、ディランが教えてあげた。


「配達と護衛の仕事は昨日のうちに全部、担当の冒険者が付きました。素材採取もほとんど終わっています。緊急性のある仕事は現在ありません」


 カノン一人に仕事させるわけにはいかない。

 冒険者達に公平に仕事は分けられた後だ。


「なるほど。私を追い出している間に仕事を全部奪ったわけか。ふんっ。男のやることじゃないな」

「はい、ですから相談役には営業をお願いしたいと思います。商会を回って、依頼がないか聞いてみてください」


 ギルド職員の仕事はあるが、エリックに出来る仕事はない。

 遠回しに邪魔だから消えてほしい、とエリックはお願いした。


「やはり知名度が低いと仕事からは来ないか。仕方ない。仕事を探しに行くとするか」

「よろしくお願いします、特別経営相談役」

「うむ。私が帰るのを楽しみに待っていなさい」


 エリックが椅子から立ち上がると、娘に作ってもらった高級な焦げ茶の上着(スーツ)を着た。

 やる気十分で営業に行って来るようだ。娘の優秀さを宣伝するだけの楽な仕事だ。


「……チッ。娘の七光り野朗め。あー、仕事辞めてくれないかな」


 椅子に消毒液を振りかけて、ディランが布で丁寧に拭いている。

 邪魔者が消えたから、やっと本格的に仕事が出来る。

 だけど邪魔者は一人じゃない。今度は娘の方が現れた。


「あれ? お父、エリックさんはどこですか?」

「急用で外出している。今日は戻って来ない」

「そうなんですか。仕事を貰いに来たんですけど……」


 ディランの希望だから、すぐに戻って来る可能性も高いが、パトラッシュがいる。

 猛獣を連れた男に仕事が欲しいと頼まれたら、簡単には断れない。命と店は大切だ。

 大量の仕事依頼と一緒に戻って来る可能性も高い。


「金と乗り物があるなら、自分で商売するんだな。そもそも冒険者は金を稼ぐ為に仕事している。女子供の遊び場じゃない。お前の子供仲間と一緒に遊んでろ」

「あっ! そういえば二人のこと忘れていました!」


 父親と同じ手で、ディランは仕事が無いと言って、カノンを手で追い払った。

 カノンは失礼な態度には気付かずに、放置したルセフ兄妹を思い出した。


 現在のルセフ兄妹は、庭で日向ぼっこしている。

 リーダーが一時解雇されたから、兄妹も一緒に解雇された。

 そして配達から帰って来たルセフに、強力武器と飛行船は没収された。

 自宅で外出禁止の罰を受けている。


「うーん、困りました。配達の仕事がないなら、ダンジョンで増やせそうな魔物でも集めますか」


 カノンは少し頭を使うと、新しいスライムかフライムを捕まえることにした。

 海中で見つけたサメの形に改良した、青く輝くサメ型飛行船でルセフ兄妹の家に向かった。


 ♢


「あっ、リーダーだ」


 兄妹は金色の飛行船には驚いたが、上空にサメ型飛行船が現れても驚かなかった。

 誰が乗っているのか、ひと目見ただけですぐに分かった。

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