第59話 石像遺跡

「配達の仕事が無いから、今日は魔物を倒しに行きます。倒した魔物は私がパパッと解体しますよ♪」


 サメ型飛行船に兄妹を乗せると、カノンは風フライムがいる石像遺跡を目指した。

 氷フライムと風フライムを一緒にすれば、分裂した時に氷風フライムが出来るかもしれない。

 ついでにレベル100の力を見せれば、兄妹に尊敬させることも出来る。


「うわぁー、石像遺跡かよ。推奨レベル14の初級ダンジョンじゃん。恥ずかしくて行けねえよ」

「仕方ないよぉ~。お姉ちゃんがザコザコなんだから、私達が合わせないと」

「こんなのがリーダーだと、俺達も雑魚扱いだよ。兄ちゃんのパーティに入りてぇー」

「真面目にやらないと駄目だよ。これは護衛依頼なんだよ。私達がお姉ちゃんを護衛しているんだよ」

「ちぇっ。護衛の練習だと思って、頑張るしかないか」

「…………」


 だが、安全なダンジョンを選んだ時点で、もう馬鹿にされ見下されている。

 勝手に護衛ごっこの頼りない商人Aの役をもらっている。

 尊敬されたいなら、今から氷フライム牧場に行って、ドラゴンと戦って倒すしかない。


「二人が見習いだから、弱いダンジョンに行くんです。上級冒険者の私一人なら、もの凄いダンジョンに行けるんですよ! 一昨日も伝説の実を手に入れたんですから!」


 もちろん、カノンにそんなつもりはない。

 最近行ったばかりの、伝説の海中洞窟の冒険話を始めた。

 海の怪物との戦闘が一回もなかった、安全すぎる冒険話だ。

 その辺の森に薬草採取に行ったのと、ほぼ変わらない。


「何だよ、それ! 自分ばっかり冒険してズルいぞ!」

「そうだ、そうだぁー! お土産くれないとイタズラするんだぞ!」

「わわわわわっ⁉︎ 落ちるからやめてください‼︎」


 兄妹は安全でツマラナイ冒険話には興味はない。

 でも、食べればレベルが上がる伝説の実には興味がある。

 二人でリーダーに襲いかかって、アイテムポーチから伝説の実を強奪しようとしている。

 カノンの利用価値はお金と道具の二つしかない。


「ヘッヘヘヘ♪ これで俺達もレベル100だぜぇ!」

「わぁーい! わぁーい! 上級冒険者だぁー!」

「くっすん。酷いです……」


 兄妹が大量の金色の実を持って喜んでいる。カノンは落ち込んでいるフリをしている。

 無理矢理に奪われる前に、自主的に伝説の実の身代わりを渡した。


「この実、金色だけど、桃みたいに甘くて美味しいね♪」

「これなら70個なんて余裕で食べられるぜ!」


 兄妹二人は金の桃を美味しそうに食べている。

 頑張って70個食べても、体重ぐらいしか上がらない。

 金の桃は奪えても、リーダーの座は簡単には奪えない。


 ♢


「はい、武器です。食べた分は働いてもらいますよ」


 石像遺跡と呼ばれるダンジョンに到着した。

 カノンは桃汁で口と手がベタベタの兄妹に武器を渡した。


「そうそう、これこれ! これがないとな!」

「今度はルセフお兄ちゃんに取られないように、隠さないとね」


 ジャンには魔法剣のクリスタルソード、シリカには神風の刃杖を渡した。

 どちらも500万ギルドを超える高性能な武器だ。


 石像遺跡は神聖な場所で、遺跡の中は神殿のような造りになっている。

 青黒い岩で造られた広すぎる通路が、一本道の迷路のように続いている。

 広い室内もあり、上や下に続く階段にも遭遇する。


 遺跡には風フライム以外にも、人型石像のゴーレム、鳥型石像のガーゴイルがいる。

 地中深くを流れる龍脈の影響で、岩に生命が宿って、魔物化してしまった。

 頑丈な石像は石材として、建築資材に重宝されている。


「禁猟期間は守れレムッ~‼︎」


 灰色ゴーレムの身体が中心から縦に、青く輝く魔法剣に切断された。

 普通の武器だと傷つけるのも大変な強敵だが、最強武器を持つ兄妹には関係ない。

 ゴーレムもガーゴイルも次々に倒されていく。


「しゃーあ! 俺の剣の前には空気と一緒だぜ!」

「お兄ちゃん、一人で倒し過ぎだよ。お兄ちゃんも切断するよ」


 一人で突撃して石像を倒すジャンに、シリカが怒った。

 石像の前に立たれたら、ジャンが邪魔で魔法が使えない。


「そんなことしたら、ハゲロングみたいにお前の髪を切ってやるよ」

「髪は女の子の命なんだよ! そんなことしたら、お兄ちゃんのちんちん切断するからね!」

「ひいいい⁉︎ や、やめろよぉー! 冗談でも言っていいことがあるんだぞ!」

「じゃあ、冗談じゃなかったら、言っていいんだよね‼︎」

 

 喧嘩する兄妹の後ろを歩くカノンは、アイテムポーチに倒された石像を回収している。

 完全に二人の荷物係みたいになっている。それでも最年長らしく注意した。


「お兄ちゃんをお姉ちゃんにしてもいいですけど、風フライムは絶対に倒したら駄目ですよ」

「何言ってんだよ⁉︎ お姉ちゃんにするのも絶対に駄目だよ‼︎」


 過激な喧嘩兄妹を止めるつもりはないようだ。

 大事な風フライムだけは切断しないように、しっかり注意した。

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