13日目

第53話 伝説の実採取

 カノンは旅行の準備を済ませて、泥酔した父親を引き摺ってベッドに寝かせた。

 魔物がいる可能性があるので、戦力にパトラッシュを連れていく。


「まずは海を目指しますよ」

「ワン!」


 誰もいない家でのお留守番は暇だった。

 久し振りの散歩にパトラッシュは喜んでいる。

 元気に森のクリスタル飛行船まで、カノンを背中に乗せて走った。

 飛行船に乗り込むと、次は海に向かって真っ直ぐ飛んでいく。


 海と言っても広い。

 万能伝説図鑑を頼りに飛行船を飛ばして、最初の目的地に到着した。

 飛行船を下降させて、海面に船を着陸させた。


「うーん、パトラッシュはここまでですね。船の見張りをお願いします」

「ワァーン‼︎」


 久し振りの散歩が終わってしまった。

 ここからは改良した小型飛行船で海中洞窟を捜索する。

 大きな犬は小さな船に連れて行けない。だったら家に置いて来てほしかった。

 だけど、今日のパトラッシュは簡単には諦めない。


「クゥ~ン、クゥ~ン」

「え? パトラッシュも行くんですか? 動いたらアイテムポーチが壊れるんですよ」

「…………」


 カノンのアイテムポーチを前足で触って、連れて行ってくれるように頼んでいる。

 動いたら駄目だと言われて、急いで死んだフリをして動かなくなった。


「死ぬ覚悟ありですか。分かりました。アイテムポーチの中に入れますよ。動いたら駄目ですよ」

「ワフゥ!」


 パトラッシュの希望通りに、アイテムポーチの中に入れられた。

 そして、そのアイテムポーチが別のアイテムポーチに入れられる。

 二度と出て来られないように、厳重に封印されているようだ。


「この辺でいいですね」


 15個のアイテムポーチにパトラッシュは封印された。

 満足したカノンは小型のクリスタル飛行船を取り出した。

 大きなクリスタル飛行船を解体して手に入れた、クリスタルを使って製造した。


「明かりがないと見えないですね」


 暗い海中に沈むと、カノンは海中船に変わった船の明かりをつけた。

 海中を青い光を放つ船が進んでいく。魚達が光る船の周りに集まり出した。

 巨大魚がやって来たら、一飲みで食べられてしまう。

 船はまったく武装していない。


「わぁ~! 食べられているみたいです!」


 万能伝説図鑑の地図には、海中船の位置が赤い小さな点で表示されている。

 その点を頼りに船を進ませて、海中に怪物が大きな口を開けたような洞窟を見つけた。

 洞窟の天井と床から伸びる、不揃いの細長い牙を避けながら船は進み続ける。


「意外と長いですね。空気は大丈夫でしょうか?」


 まだ息苦しさは感じないが、カノンは酸素量を心配している。

 窒息死しないように、危ない時は酸素を作って準備しないといけない。


「あっ、海面が少し光ってます!」


 天井に開いた大穴から白い光が見える。海中散歩は終わりのようだ。

 浮上して海面から出ると、そのまま白く光る洞窟の中を飛んでいく。

 洞窟の奥から強烈な光が溢れている。


「わぁ~♪ あれが伝説の実がなる伝説の木ですね!」


 カノンは真っ白に輝く一本の木に遭遇した。

 横と縦に伸びた三角形の木で、葉っぱも枝も全てが白い光で作られている。


「すぅー、はぁー」


 カノンは飛行船を着陸させると、少しだけ扉を開けて安全確認した。

 呼吸は問題なさそうだ。船から降りると光る木を調べた。


【名前=神樹の木 種類=神木 

 レベル=100(最大レベル) 損傷率=0%】


「あー、これ持ってます。伝説の木じゃないです」


 罰当たりな発言だが、カノンは神樹の枝を持っている。

 でも探しているのは木ではなく、実の方だ。

 グルグル木の周りを回って、実がないか探している。


「う~ん、ぶら下がってないですね。お祭りみたいに木の天辺にあるんでしょうか?」


 神樹の木は全部同じ色で光っている。実の形も大きさも分からない。

 カノンは頑張って探しているが見つからない。思いきって探す場所を変えてみた。

 

「あ! 星がありました!」


 五つの三角形の突起を持つ星型の実が、木の天辺に一つだけなっている。

 アイテムポーチからハサミを取り出して、船を近づけて、枝と一緒に実を収穫した。


【名前=神樹の星 種類=果物 

 レベル=100(最大レベル) 損傷率=0%

 その他の効果=レベル上限+1】


 神樹の実は食べた者のレベルの上限を1だけ上げる、世界に一つしかない不思議な実だ。

 だが、もう一つじゃない。手に入れた者が普通じゃない。


「やったぁ~! これをたくさん食べれば、腕相撲に勝てます!」


 カノンは伝説の実を手に入れて喜んでいる。

 切って修復して大量に作るつもりだ。

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