第16話 冒険者ウェイン

「やっぱり駄目だな。弱すぎて連れて行けない」

「パトラッシュもいるから大丈夫です! 護衛料も払います!」

「スライムでも倒して、限界までレベルを上げるんだな」


 ルセフは当たり前のように、カノンを置いて行くことにした。

 カノンがしつこくお願いしているが、まったく聞く耳を持っていない。

 冒険者ギルドの建物に入って、仲間を探している。


「ウェイン、行くぞ」

「ん? あぁ……隣のは誰だ?」


 ルセフは黒髪の色白青年を見つけると、左手を軽く上げて名前を呼んだ。

 名前を呼ばれた青年が気づくと、ルセフを見てから、隣にいるカノンを見て聞いた。


「こいつは——」

「はじめまして。カノン・ネロエストです。ルセフさんの友人です。今日はダンジョンの護衛をよろしくお願いします」


 ルセフが何か言う前に、カノンはウェインに駆け寄ると、両手で握手して自己紹介した。

 ルセフは図々しい女だと思って、カノンを見ている。


「ああ、よろしく。ルセフ、そうなのか? 聞いてないぞ」

「その女が勝手に言っているだけだ。装備は凄いが、スライム並みの雑魚だ。連れて行ったら、マジ死ぬぞ」

「お金あります!」

「おお! 大金貨かよ! なあ、連れて行こうぜ」


 ルセフは連れて行くつもりがない。ウェインに反対される前に、カノンは動いた。

 アイテムポーチから素早く、10万ギルド大金貨を1枚出して、ウェインに見せた。

 ピカピカの大金貨を見て、ウェインは喜んで、カノンの味方になった。

 

「駄目だ。二日前まで、ジョブなしのレベル7だ。死んだら責任取れるのか?」

「だって10万だぞ。月45万の稼ぎなのに断るなんて勿体ない。それに俺達が断っても、別の奴が引き受ける。見てみろよ、もう狙われている」

「…………」


 お金に釣られないルセフを、ウェインはカノンを連れて行こうと説得する。

 そして自分達が断っても、他の冒険者がカノンを護衛すると言っている。

 実際酒場の冒険者達は聞き耳を立てて、三人の話が終わるのを待っている。


「チッ。分かったよ。危ないと思ったら、すぐに帰るからな」

「はい! よろしくお願いします!」


 ルセフは軽く舌打ちすると、仕方なく賛成した。

 置いて行ったら、冒険者達に身包み剥がされている姿しか想像できなかった。


「じゃあ、馬を借りて行くけど、カノンちゃんは……乗れないよね」

「はい、乗れません」

「ははっ。だよね。うーん、だったら俺の馬に乗るしかないか」


 冒険者ギルドから出て、街の外のダンジョンに向かう為、馬小屋に向かった。

 ウェインがカノンを見てから聞こうとしたけど、答えは聞かなくても分かっていた。

 軽く笑うと、自分の馬に乗せることにした。


「クゥーン、クゥーン」

「あっ、パトラッシュを忘れていました」


 普通に三人が馬を引いて行こうとしたから、パトラッシュが鳴いて存在を主張した。

 このままだと昼ご飯抜きは確実だった。


「どうする? 空気を詰め込んだ樽に入れれば、死なないらしいぞ」

「それは魚の話だろ。それに中で暴れられるとアイテムポーチが壊れる。犬なら走らせればいいだろ。さっさと行くぞ」

「クゥーン⁉︎」


 ウェインとルセフの話し合いの結果、パトラッシュには走ってもらうことになった。

 もちろんパトラッシュは大反対だ。ルセフの馬の背中にジャンプして乗った。


「おい、邪魔だ。降りろ」

「ク、クゥーン!」


 ルセフが背中から降ろそうとするけど、パトラッシュは首を振って嫌がっている。

 絶対に降りないと決めている。


「可哀想だろ。ご主人様と離れたくないんだよ。連れて行ってやろうぜ」

「くっ、落ちても知らないからな」


 ルセフが降ろすのを諦めると、やっとダンジョンに出発した。

 飼い主と同じ図々しい犬だと、パトラッシュはルセフに思われた。

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