3日目

第15話 冒険者ルセフ

「うーん、今日は何をしましょう?」


 午前6時。宿屋のベッドから起きると、カノンは今日の予定を考え始めた。

 このままではスライムを倒して、大金貨を増やすだけの生活になる。

 退屈な人生なのは間違いない。


「そうです。ルセフさんに相談しましょう」


 カノンは考えた結果、退屈で困っていると相談することにした。

 殴られそうな相談内容だが、困っているのは本当だ。


 前は社交界の準備で忙しかったり、適当に相槌を打う話し相手の使用人がいた。

 馬小屋のパトラッシュは、馬達と飼い主の愚痴で盛り上がっている。

 一人寂しいのはカノンだけだ。


 カノンは宿屋から出ると、馬小屋のパトラッシュを連れて訓練所に向かった。

 訓練所でスライムを倒して、冒険者ギルドの酒場で食事した。

 そして馬小屋で大金貨をハサミで切りながら、ルセフが来るのを待った。

 昼までに来なければ、住所の家を探しに行こうと決めている。


「やっぱりか……」


 ギルドの馬小屋の前で待っていると、ルセフがやって来た。

 ルセフの顔は心配で見に来て、正解だったという顔をしている。


「あっ、おはようございます! ルセフさんに相談したいことがあるんです!」


 カノンはルセフに気づくと、馬小屋の藁草の地面から立ち上がった。


「だろうな。その服はどうしたんだ? 総額で120万ぐらいはするだろう。誘拐されたいのか?」


 冒険者をやっているルセフは装備品に詳しい。

 カノンの全身装備をパッと見ただけで、大体の値段が分かってしまう。

 昨日の注意が無駄だと分かって、もう注意するのは諦めた。


「これは道具屋のおじ様にタダで貰いました。それよりも退屈で困っているんです。どうしたらいいですか?」

「ほぉー、羨ましい悩みだな。殴ってもいいか?」

「がぁーん‼︎ だ、駄目です!」


 悩みを相談されて、ルセフは青筋を立てて、拳をゴキゴキ鳴らして怒っている。

 当たり前の反応だが、カノンには予想外の反応だった。

 ショックを受けると、慌てて両手を振って暴力反対を訴えている。


「はぁー、昨日も言っただろう。普通の人間はそんなにホイホイ稼げないんだよ。俺なんかはダンジョンで魔物を倒して、それを家で解体して、素材を店に売っているんだ。かなり忙しいんだからな」

「あっ、解体ならハサミがあるから出来ますよ。お手伝いしましょうか?」

「要らねえよ。それにこれから仲間とダンジョンに行くんだ。暇なら街でも散歩してろ」


 ルセフにとってカノンは、金持っているだけの大人子供だ。

 暇な金持ちの子供と遊んでいる暇はない。

 冒険者ギルドで待ち合わせている、仲間のもとに行こうとした。


「だったら私もダンジョンに行きます。スライムも一人で倒せますよ」


 でもカノンが素早く移動して、ルセフの前に立ち塞がった。

 一緒に連れて行ってくれるように頼んでいる。


「はぁー、スライムは誰でも倒せるんだよ。紙にお前のステータスを書いてみろ。それで決めてやる」

「はい。分かりました」


 ルセフは無茶だと呆れながらも、思った以上のカノンの素早い動きが気になった。

 赤いアイテムポーチから、メモ帳とペンを取り出して、カノンに渡した。

 カノンがスラスラと書いていく。


【名前=カノン・ネロエスト 種族=人間(女) 

 レベル=7(必要経験値90/100) HP=288/288 MP=128/128

 力=10 体力=10 知性=11 精神=13 器用さ=8 素早さ=8】


「ヤバイな……」


 返ってきたメモ帳を見て、ルセフは思わず言ってしまった。

 もちろん良い意味でのヤバイではなく、悪い意味でのヤバイだ。

 ルセフのステータスはこんな感じだ。


【名前=ルセフ・ラシュリー 種族=人間(男) 

 レベル=30(最大レベル) HP=1472/1472 MP=367/367

 力=60 体力=60 知性=56 精神=60 器用さ=60 素早さ=52】


 カノンはルセフの六分の一程度の強さしか持っていない。

 連れて行っても、足手まといになりそうだ。

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