第17話 遺跡ダンジョン

 馬に揺られながら、三人と一匹は森の中の遺跡にたどり着いた。

 ダンジョンには狩猟期間があり、その期間だけ増えすぎた魔物を倒すことが出来る。


 一般的な冒険者は倒した魔物を、アイテムポーチに詰め込めるだけ詰め込んで、家で解体作業する。

 実力があれば若者でも、月40~50万ギルドも稼げる高収入の仕事だ。


「パトラッシュ、ご主人様はお前が守るんだぞぉ~」

「クゥ~ン」


 ウェインがパトラッシュの頭を撫でて、カノンの護衛を任せた。

 天井に照明器具が付けられた、整備された薄茶色の煉瓦で作られた遺跡を進んでいく。

 三人と一匹の武器は、ルセフは剣、ウェインは弓と剣、カノンは短剣、パトラッシュは牙だ。


「いいか、カノン。魔物が出たら、お前がトドメを刺せ。経験値を貰って、レベルアップしてもらわないと困るからな」


 先頭を進むルセフは厳しい口調だが、死亡率を少しでも下げるには必要なことだった。

 経験値は魔物を倒した人にしか入らない。接待ダンジョンじゃないんだから、甘やかさない。


「それなら大丈夫です。パトラッシュが倒しても、私に経験値が入りますから」

「何だ、それは? まあいい。じゃあ、パトラッシュ。お前がトドメを刺せ」

「クゥーン‼︎」


 ルセフはペットが魔物を倒して、飼い主に経験値が入るという話を聞いたことがない。

 でも経験値が入るなら、どっちでもよかった。

 パトラッシュが聞いてないよぉー、という顔をしているけど、トドメ担当になった。


「止まれ。魔物がいた」


 小声でルセフが教えると、カノンを呼んで魔物の説明を始めた。


「あれは氷フライムだ。地面を歩くのがスライム、空中を浮くのがフライムだ。アイツは魔法で氷の砲弾を三連続で撃ってくる。身体が光ったら気をつけろよ」

「はい、分かりました」


 空中を球体にカットされた、青白く輝く宝石が浮かんでいる。

 大きさはスライムよりも少し大きく、通路の真ん中を上下に波打つように進んでいる。


「よし、ここにいろよ。倒すまで絶対に来るなよ。絶対だからな」

「むぅー! 一度言えば分かりますよ」


 馬鹿な子供に言うように、ルセフはカノンに何度も注意して、パトラッシュと一緒に突撃した。

 氷フライムの氷の砲弾を右に左に避けて、剣で素早く身体を三回斬った。

 ——ガン、ガン、ガン!

 激しい剣撃に、氷フライムの氷の身体にひび割れが発生した。


「こ、壊れるフラ~ッ!」

「パトラッシュ、トドメだ!」

「もうやるしかないワン!」


 ルセフの攻撃命令で、パトラッシュは氷フライムに噛み付いた。

 右前足に剛力リストバンド(レベル4)を付けているから、力が24も上がっている。

 噛み付いたまま、壁に氷フライムを何度も叩きつけて倒した。


「飼い主と違って、お前はやるみたいだな。その調子で頑張れよ」

「クゥーン」


 パトラッシュは褒められて嬉しいけど、口の中が少し凍っている。

 出来れば噛んでも大丈夫な魔物が良かった。


 遺跡の中には、鉄ハンマーを持ったミノタウロス、子供サイズのインプと呼ばれる小悪魔がいる。

 どれを倒しても経験値が1匹30も入るから、頑張ればレベル15ぐらいには簡単になれる。

 だけどレベル30相当の魔物達を、運動不足の飼い犬が楽に倒せるわけなかった。


「舐めるなミノ‼︎」

「キャウン!」


 筋骨隆々の牛男——ミノタウロスの左腕に噛み付いたパトラッシュが、壁に叩きつけられた。

 背骨が折れる重傷だ。左腕から離れて、床にグッタリと倒れた。


「この牛野朗!」

「ぐぅがああああ! こ、これで勝ったと思うなミノ……」


 パトラッシュがやられて、怒ったルセフがミノタウロスを剣で両断して倒した。


「おい、しっかりしろ! すぐに助けてやるからな!」

「も、もうダメ、ワン……」


 急いでパトラッシュに駆け寄ると、赤いアイテムポーチから回復薬を取り出した。

 回復薬は飲めば、HPが150回復する薬だ。

 即死していなければ、これで助けることが出来る。


「あっ、大丈夫ですよ。すぐに直しますから」

「はぁ?」


 だけど回復薬を飲まそうとするルセフを、カノンが止めた。

 パトラッシュは生き物で、カノンの所有物だ。

 修復スキルを使って、元通りに修復した。

 パトラッシュは不死身だった。

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