第13話 武器屋ルーンハサミ
ルセフがいなくなると、カノンは武器屋に向かった。
よく切れる手斧を買って、スライムが増えるまでの内職をするつもりだ。
「おはようございます、おじ様」
「ああ、お嬢ちゃんか。また買いに来たのか?」
「はい。よく切れる手斧を買いに来ました」
武器屋に入ると、カノンは筋肉質な男店主に挨拶した。
昨日来た変な客を、当然武器屋の店主も覚えていた。
「ははっ。もう修理は諦めたみたいだな。手斧かぁ……誰が使うんだ?」
「私です。金貨がよく切れる手斧が欲しいんです」
「お嬢ちゃんか……うーん、力はなさそうだし、金貨ぐらいの薄い金属加工なら、手斧よりはハサミの方が良いだろうな。よし、ちょっと待ってろよ」
カノンは正直に話しているが、店主は金属板で何かを作ると勘違いしている。
この少女に何が一番良いかと色々考えて、店の奥から二つのハサミを持って来た。
「待たせたな、嬢ちゃん。どっちも魔法金属を使ったハサミだ。青白いのがミスリル製、黄緑色がルーン製だ。切れ味が良いのは、こっちのルーン製だ」
「わぁ~! よく切れそうなハサミですね!」
カウンターに置いた二つのハサミを指差して、店主はカノンに説明する。
店に他の客はいなく、普段は野朗ばかりなので、若い女性客と話すとウキウキする。
特に相手が熱心な場合は嬉しい。
綺麗で高そうなハサミを見て、カノンは瞳を輝かせている。
「おいおい、お嬢ちゃん。見た目で判断するのはまだ早いぜ。この折れた剣をハサミで切ってやるよ」
カノンの反応で気分が良くなった店主はニッと笑うと、鍛治屋で溶かすだけだった鉄剣を取り出した。
そしてその鉄剣の刀身を、ミスリルとルーンのハサミを使って切り始めた。
「凄いです! 普通のハサミだと、こんなの切れないです!」
「まあな。職人用の特別製だ。一般には流通していない品物だ」
ミスリルの方は分厚い本を切るように、ちょっと苦戦している。
ルーンの方は驚くほどの切れ味で、硬めの食パンを切っているようだ。
「おじ様、黄緑色のハサミをください!」
元貴族令嬢だから、二番には興味がない。
カノンは迷わずにルーンハサミを選んだ。
「ははっ。商売だからタダではあげられないな。ミスリルが7万ギルド、ルーンは15万ギルドだ」
「あうっ~。2万2000ギルドしかないです」
良いハサミは当然高い。店主も最初から買えると思っていない。
若い女性客を揶揄って遊んでいただけだ。
「ははっ。さすがに13万ギルドはマケられねえな。お金を貯めて買いに来るんだな」
「はい。お昼過ぎにまた来ます」
「ははっ。それは楽しみだ。売らずに取っておくよ」
店主は冗談だと思って笑っている。
購入を諦めた少女が店から出て行くのを、笑って見送った。
♢
「おじ様、買いに来ました」
「お、おお、そうか……」
午後2時過ぎに店に少女がやって来て、店主は少し驚いた。
こんなに早くやって来るとは思っていなかった。
「確かに15万ギルドだな。お父さんが出してくれたのか?」
15枚の1万ギルド小金貨を数えると、店主はカノンに聞いた。
「いえ、お父様は逃げました。自分で稼ぎました」
「まあ、確かに高いからな。お嬢ちゃんはキチンと仕事して貯金してたんだな。偉いぞ」
「はい、頑張りました」
店主の頭の中では、半年以上も働いて貯めたお金で、買いに来ていると思っている。
でも本当は2日しか働いていない。まったく苦労していない。
「危ないから、指を切り落とさないように注意するんだぞ。ルーン製の手袋もあるが、8万だしな……」
店主が店の奥から、ケースに入ったルーンハサミを持って来た。
凄い切れ味のハサミを、カノンに売るのを少し迷っている。
安全対策のルーン手袋もあるが、サービスに付けるには高額すぎた。
「手袋もあるなら、それも買います。ちょっとハサミを借りていいですか?」
「あ、ああ、気をつけるんだ……って、どこに行くだ?」
店主からハサミを受け取ると、カノンは店の外に出て行った。
不思議に思う店主だったが、カノンはすぐに戻って来た。
「おじ様、8万ギルド用意しました」
「なっ⁉︎」
驚く店主だが、カノンはハサミを使っただけだ。
手持ちの6枚の小金貨を半分に切って、12枚に増やした。
カノンは驚く店主から、無事にルーンハサミとルーン手袋を手に入れた。
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