第12話 修復スキル応用

「お前、自分のスキルをロクに調べてないだろ?」


 気分が落ち着いたのか、青年がカノンに質問した。

 カノンのスキルはレアスキルではなく、超レアスキルだった。


「え? どういうことですか?」

「はぁー、仕方ないから教えてやるよ。お前のスキルはヤバイんだよ」

「そうなんですか?」


 嫉妬するほどの羨ましいスキルなのに、本人にその自覚がない。

 無自覚なカノンに呆れながらも、青年はアイテムポーチから、小銅貨を1枚取り出した。


「危ないから離れていろよ」


 青年は小銅貨を硬い岩の地面に置くと、手斧を取り出して、小銅貨に振り下ろした。

 ——ガン、ガン、ガン!

 何度も振り下ろして、小銅貨を半分に割って壊した。


「これでいいな。いいか、半分をアイテムポーチに入れる。もう半分を修復してみろ」

「は、はい……」


 カノンは意味が分からないまま、青年に言われた通りに、地面の壊れた小銅貨を修復した。

 半分に割れた小銅貨が、元通り以上に綺麗になった。


「出来ました。これでいいんですか?」

「ああ、これでいい。次はこっちを修復してみろ」

「はい?」


 地面の綺麗な小銅貨に満足すると、青年はアイテムポーチから、半分に割れた小銅貨を取り出した。

 それを地面に置くと、カノンにまた修復するように言った。

 カノンはまったく意味が分からないまま、また小銅貨を修復した。

 地面の上には2枚の小銅貨が並んでいる。


「あのぉ……さっきから何をやっているんですか?」


 意味も分からずに貴重なMPを20も消費してしまった。

 青年の意味不明な指示に、カノンの頭の中は混乱している。


「見て分かるだろ、スキルの実験だ。お前はこれを見ても何も思わないのか?」

「う~ん、2枚あります」

「お前は素直馬鹿か。いや、ただの馬鹿だな」

「がぁーん‼︎」


 青年の馬鹿でも分かる実験でも、カノンは何も気づかなかった。

 青年が呆れるのをやめて、むしろ感心しているぐらいだ。


「いいか、1枚が2枚に増えるんだ。これは修復じゃなくて、複製——同じ物を作ったと言ってもいい。もしも小銅貨が大金貨だったら、毎日1枚複製を作るだけで、一生金には困らない。それぐらい凄いスキルなんだ」


 修復スキルを応用すれば、複製品を作ることが出来ると、青年はカノンに丁寧に教えた。

 それでやっとカノンは理解した。


「はっ! そうだったんですね! 私、間違っていたんですね! は、恥ずかしいですぅ~!」


 カノンは馬鹿な自分に気づいて、慌てて両手で顔を隠すと、恥ずかしそうにショックを受けている。

 だけどお金の稼ぎ方を間違えて恥ずかしいだけで、青年が伝えたいことは、少しも伝わっていない。

 

「分かればいいんだよ。無闇にスキルを人に見せたり、教えたりするなよ。そういう凄いスキルを悪用しようとする連中もいるんだ。下手したら誘拐されるからな」

「はい、気をつけます。教えてくれてありがとうございます」

「別にいいよ。あと修復する職人の前では絶対に修復は使うなよ。めちゃくちゃ傷付くからな」

「はい、気をつけます」


 馬鹿な子供だと思って、世話好き青年はカノンに色々注意する。

 カノンはお礼を言って素直に聞いているけど、三分の一も伝わっていない。

 頭の中では、手斧で大金貨を叩いている。


「はぁー、まったく心配な奴だ。ほら修復代だ。何か困ったことがあれば、この住所に来いよ。俺はルセフ・ラシュリー。有料なら護衛してやるよ」

「ありがとうございます。あっ! 私、カノン・ネロエストです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく……は、あまりしたくないな」


 青年は道具の修復代に大銀貨で5000ギルド渡すと、ついでにメモに住所を書いて渡した。

 少女を放っておくと、誘拐されるか馬小屋で暮らし始めそうだった。

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