第7話 訓練所スライム

「何勝手に入って来てんだスラ! ぶっ殺すぞスラッ!」

「やんのかワン! 食い殺すぞワンッ!」

「かかって来いスラ!」

「かかって来いワン!」


 カノンには分からないが、スライムとパトラッシュの激しい睨み合いが始まった。

 両者一歩も引かずに、青い身体と茶色い頭を擦り付けている。

 空腹を我慢できずに、パトラッシュがスライムの身体に噛み付いた。


「フガァッ!」

「ぎゃああああ~‼︎ 助けてスラ~ッ‼︎ 殺されるスラ~ッ‼︎」


 パトラッシュが首を振り回して、スライムを振り回す。

 スライムが部屋にいる29匹の仲間に泣き叫んで助けを求めた。

 相手は大型犬だ。小型犬のスライム1匹では勝てない。


「ぺぇっ……不味すぎワン」


 味のない鳥肉の皮だけ食感のスライム肉を、パトラッシュは床に吐き出した。

 歯型の形に青い身体を噛み千切られたスライムが、床に倒れて死んだ。

 怒りに燃える沢山のスライムが、パトラッシュを取り囲んだ。


「仲間の仇スラ。ブッ殺すスラーッ‼︎」

「「「スラッーッ‼︎」」」


 殺された仲間の為に怒れるスライムが吠えた。

 パトラッシュに向かって、一斉に襲いかかった。


「面白いワン。全員返り討ちにしてやるワンッ‼︎」


 ちなみにスライムの移動速度は、人間がゆっくり歩くのと一緒だ。

 パトラッシュは体当たりでスライムを弾き飛ばして、噛み付いては投げ飛ばす。

 あっという間にスライムの死体の山が完成した。


「ぺぇっ。口程にもないワン」


【名前=パトラッシュ 種族=犬(オス) 損傷率=3%

 レベル=3(必要経験値0/30) 進化レベル=15 HP=75/120 MP=31/45

 力=23 体力=23 知性=15 精神=15 器用さ=15 素早さ=18】


 スライムの経験値は1匹1だ。

 活躍したパトラッシュは、レベル1→3にレベルアップした。

 カノンの所有物なので道具扱いになる。

 そして見ていただけのカノンも、レベル3にレベルアップした。


「わぁ~♪ こんなに簡単にレベルが上がるんですね!」


 カノンは自分と茶色の半袖シャツを調べて喜んだ。

 レベルが上がると、HPとMPの最大値で上がる。

 空腹でグゥグゥ鳴いていた腹が、レベルアップで少し静かになった。


「進化させると、どうなるんでしょうか?」

 

 スライムの死体をアイテムポーチに入れると、カノンは考えている。

 シャツ、ズボン、靴の三つを進化させることが出来る。

 一つぐらいならMPも大丈夫だろうと、シャツを進化させた。


【名前=厚布シャツ(長袖茶色) 種類=防具(服) 

 レベル=3(必要経験値0/30) 進化レベル=7 損傷率=0% 

 防御力=5 魔法防御力=3】


「わぁ~♪ 長袖になりましたぁ~!」


 二の腕までの半袖シャツが、肘から先の長袖シャツに進化した。

 薄い布生地も、少し厚くなって、茶色も濃い色に変わった。

 しかも消費MPはたったの10だ。

 カノンは喜んで、残り二つも進化させた。


「う~ん、他の持ち物はお金しかないです」


 服、短剣、革鞘以外に、何か進化させる物がないかと、カノンは探した。

 ポケットから見つかったのは、10ギルド大銅貨と100ギルド小銀貨だった。


【名前=10ギルド大銅貨 種類=貨幣 

 レベル=3(必要経験値0/30) 進化レベル=10 損傷率=0%】


【名前=100ギルド小銀貨 種類=貨幣 

 レベル=3(必要経験値0/30) 進化レベル=15 損傷率=0%】


「小さい貨幣の方が、進化レベルが低いんですね」


 二種類の貨幣を調べると、カノンは訓練所を出た。

 そして近場の店で、大銅貨を1ギルド小銅貨に交換してもらった。


【名前=1ギルド小銅貨 種類=貨幣 

 レベル=1(必要経験値0/10) 進化レベル=4 損傷率=0%】


 カノンの予想通り、進化に必要なレベルが下がった。


「なるほど。小銅貨を大銅貨に進化させて、お金を増やすんですね。仕事って大変なんですね」


 小銅貨を調べて、カノンは勘違いした。そんな仕事はない。

 持っている貨幣を全て小銅貨に交換してもらって、訓練所に向かった。

 貨幣を進化させて、お金を増やすつもりだ。

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