第8話 小銅貨進化

「動く肉は切りにくいですね」

「ぎゃああああ~‼︎ 堪忍してスラッ~‼︎」


 カノンは左手でスライムを押さえ付けて、右手の短剣でスッーと切った。

 テーブルマナーはしっかり教育されている。

 ステーキを切るように、スライムの身体を綺麗に切って倒した。


「これで終わりですか?」


 もう倒せるスライムがいない。

 訓練所は一階建てで四部屋(一部屋はアイテムポーチ置き場)しかない。

 カノンは最後の部屋のスライムを倒して、もうやることがない。


 でもスライムを60匹倒して、小銅貨は進化できる状態になっている。

 小銅貨が入った布袋に触れて、カノンは小銅貨を進化させた。


「わぁ⁉︎ 凄い! やっぱりこれで良かったんですね!」


 床に置いた布袋の中には、大量の大銅貨が入っている。

 小銅貨を1枚進化させるはずが、500枚も進化している。

 しかも消費MPはたったの10だ。

 スキルの効果は単体ではなく、全体だった。


 パトラッシュを馬小屋に置くと、カノンは冒険者ギルドに向かった。

 スライムを全部倒したから、追加のスライムを職員にお願いする。

 カウンターに行くと、失礼な男職員がいた。


「はぁ? 全部倒したから、新しいスライムだと」

「はい。よろしくお願いします」


 職員は眉間に皺を寄せて、信じられない顔をしている。

 そんな職員に、カノンは笑顔でもう一度頼んだ。


「ふんっ。まあまあやるみたいだな。スライムなら街の下水道で汚物の掃除をしている。6匹捕まえて、一部屋に2匹ずつ放せ。5時間もすれば、30匹まで増える」

「そうなんですね」


 職員はカノンの実力を少し認めたようだ。スライムの増やし方を教えている。

 そして地図と鍵を見せて、下水道の入り口を教えると、自分で捕まえるように言った。

 スライムを捕まえに行くのが面倒くさいから、カノンに押し付けた。

 

「今度からは6匹だけ残せよ。ほら、さっさと捕まえて来い」

「すみません。すぐに捕まえて来ます」


 職員が不機嫌そうに鍵と大きな麻袋2枚を、カウンターの上に置いた。

 職員に謝罪すると、鍵と麻袋を持って、カノンは冒険者ギルドを出た。


「あっ。先に両替しておきましょう。下水道でスライムを倒すかもしれないです」


 カノンは馬小屋に行く前に、近くの店で大銅貨500枚を小銅貨5000枚に両替してもらった。

 重さが5キロもあるので、お店の人に4000枚だけ預かってもらった。


「あれ? 意外と臭くないんですね」


 カノンは下水道の鉄扉を開けて、地下へと続く階段を下りていく。

 パトラッシュも気にならないほど、下水道の匂いは臭くなかった。

 階段を下りると、アーチ型の通路に到着した。

 点検用の明かりが、壁のところどころに設置されている。


「う~ん、これは迷子になりそうです」


 下水道の通路には横穴が沢山見える。

 通路の両端には高さのある、歩ける通路がある。

 通路の真ん中には、水深30センチの水が流れている。

 一応壁に矢印があるから、簡単には迷子にならない。


「あっ。そういえばアイテムポーチがないです。これだとスライムを倒せないです」


 カノンは沢山倒すつもりでやって来たのに、倒せそうになかった。

 勝手に倒すと、また職員に怒られそうだ。

 言われた通りに、スライムを探して捕まえることにした。


 近くの通れる横穴の一つを進んでいく。

 丸い小さな部屋に12匹のスライムを見つけた。


「何だ、テメェースラ! ブチ殺すスラッ!」

「わぁー。いっぱいいるんですね」


 天井近くの壁に、小さな穴が複数空いている。

 その穴から残飯や汚物が落ちて来て、スライムがそれを食べる。

 そして栄養満点のスライムを倒して、畑の肥料にする。

 それが一般的なスライムの使い道だ。


「助けてスラ~ッ‼︎ 命だけは勘弁してスラ~ッ‼︎」

「これで6匹と。さあ、帰りましょう」


 だけど、そんな一般常識をカノンは知らない。

 2枚の麻袋にスライムを3匹ずつ詰め込んで、パトラッシュの背中に横向きに乗せた。


「ク、クゥーン~」


 重いから自分で持つつもりはなかった。

 空腹のパトラッシュがフラフラしながらも、何とか訓練所まで運びきった。

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