第6話 冒険者登録

「はぁー、お腹空きました」


 武器屋から出たカノンは、冒険者ギルドに向かってフラフラ歩いていく。

 お腹がグゥグゥ鳴いているけど、残りの所持金はたったの500ギルド。

 野宿と食事のどちらか、選ばないといけない。


 でも冒険者ギルドは満室で、普通の宿屋に泊まるにはお金が足りない。

 相部屋なら優しい冒険者のお兄さん達が、タダで泊めてくれるけど貞操の危機だ。

 普通に考えれば、壊れた短剣を修理して、高値で売るしかない。


「きっとパトラッシュもお腹空いています。水ならタダで飲めるから頑張らないと!」


 だけど、カノンにはそれが分からない。

 弱音を吐かずに気合いを入れると、冒険者ギルドにフラフラ向かった。


「すみません。冒険者登録できますか?」


 冒険者ギルドのカウンターに行くと、さっき話した失礼な男職員がいた。


「ああ、さっきのか……武器は手に入れたのか?」

「はい、あります。これ——」

「別に見せなくてもいい。名前と年齢を教えろ。あとはこっちで記入する」


 別に興味がないと、職員はカノンの言葉を遮った。

 パパッと書類を用意して、名前と年齢を聞くと、勝手にカノンの特徴を書いていく。

 顎まで金髪、左右紫目、155センチ前後、50キロ以下、そこそこ美人、一般常識なし、戦闘能力なし、金なし、宿なし——

 本人には見せられない酷い内容だ。


「ほら、仮登録だ。失くすなよ」


 職員は蓋付きの小さな木箱から、番号が書かれた茶色い木板を取り出した。

 そしてそれを感じの悪い態度でカノンに渡した。


「はい、ありがとうございます——これで訓練所は使えますか?」


 お礼を言って木板を受け取ると、カノンは職員に聞いた。

 訓練所でレベル上げをするつもりだ。


「ああ、使える。隣の建物にスライムを放し飼いしている。好きなだけ倒せ。ははっ。倒せるのか?」

「はい、これで倒します」

「はんっ。何だ、それは? 怪我するなよ」


 職員は場所を教えると、小馬鹿にした感じに笑って倒せるか聞いた。

 カノンが修復前の疾風ダガーを見せると、職員は鼻で笑って呆れた。

 ただの小石ではスライムも倒せない。


「お待たせ、パトラッシュ。訓練所に付いて来て」

「クゥーン……」


 冒険者ギルドの酒場で水を貰うと、カノンは馬小屋に向かった。

 お腹が空いているパトラッシュは元気がない。

 夜までにカノンが来なければ、草と馬のどちらを食べるか選んでいた。


「出来ましたぁ~!」


 訓練所の中で疾風ダガーを修復して、カノンは銀色の片刃短剣を手に入れた。

 刀身の長さは18センチ。柄は濃い銅色で、持ち手を守る為にT字の形をしている。

 消費したMPは10と、残りMPにはまだまだ余裕がある。


「使用ルールですか……?」


 使用ルール1=倒したスライムはアイテムポーチに入れる。スライムもアイテムポーチも持ち帰り禁止。

 使用ルール2=スライムを建物の外に逃さない。逃した場合はすぐに冒険者ギルドに報告する。


 赤茶の頑丈な煉瓦で作られた訓練所の壁に、ルールが書かれた張り紙が何枚もある。

 壁に刺さった金属の棒に、ショルダーバッグ型の緑色のアイテムポーチがぶら下がっている。

 アイテムポーチは魔法の鞄で、鞄の容量よりも多くの物を入れることが出来る便利な道具だ。


「なるほど。あの大きなボールを逃したらダメなんですね」


 二重の鉄格子の向こう側の広い部屋には、青色の丸いスライムが沢山いる。

 あれを倒せば経験値が手に入る。

 カノンは張り紙の内容を理解すると、アイテムポーチを左肩に真っ直ぐかけた。

 

「さあ、パトラッシュ。二人で頑張りましょう!」

「ワン!」


 カノンは鉄格子を開けると、パトラッシュと一緒にスライムに挑戦した。

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