第5話 武器屋疾風ダガー

「大きなナイフがあるんですね」


 カノンは珍しそうに棚に並んでいる武器を見て回る。

 銅剣7000ギルド、銅短剣5000ギルド、木杖1000ギルド……。

 初心者向けの一番安い武器でも、貧乏人にはかなり高額だ。


 冒険者登録料は無料で、訓練所も無料だ。有料なのは宿泊費の500ギルドだけだ。

 手持ちのお金は1500ギルドだから、食費も計算すると、無駄使いは出来ない。

 店主に修復する物があるか聞いて、あったら交渉して修復して、修復代を貰うのが正解だ。


「すみません。安くて壊れた武器はないですか?」

「あん? そんな物買ってどうするんだ?」


 30代後半の筋肉質な男店主に、カノンは聞いた。でも逆に聞き返された。

 店主は壊れた武器の買取もしているが、ほとんど材料目的だ。

 鍛治屋に持って行けば、鉄ならば溶かして、新しい武器を作る材料になる。


「えーっと……修復してお金を稼ぎます」

「へぇー、そうかい。金はいくら持っているんだ?」


 商売人に儲け話はしない方がいいのに、カノンは素直に答えた。

 すぐに店主が興味あるのに、興味がないふうに手持ちの予算を聞いてきた。

 経験上、予算が高ければ本気で、低ければ遊びだ。

 

「1500ギルドあります」

「くっはははは! いいぜ。ちょうどゴミ、いや、良いのがあるから、1500ギルドで売ってやるよ」


 完全に遊びだと判断された。

 カノンが正直に答えると、店主はカウンターを叩いて大笑いした。

 しかも鍛治屋も買取らなかったゴミを売り付けて、儲けようとしている。


「本当ですか⁉︎ あっ、でも宿泊費に500ギルド残さないと……」

「お嬢ちゃんも商売人だなぁ~。よし、大マケにマケテやるよ。1000ギルドでいい」

「わぁー! おじ様凄い! ありがとうございます!」

「いいってことよ!」


 カノンは何とか宿泊費は思い出したのに、食費は思い出せなかった。

 店主の口車に乗せられて、喜んで1000ギルド支払ってしまった。


「さあ、この中から好きな物を一つ持って行きな」


 店主が木箱を持って来ると、床にドンと置いた。

 木箱の中には、刃が2センチしかない柄だけの短剣、槍先がない半分折れた槍柄、9センチの折れた刃先……。

 まさに壊れた玩具の玩具箱状態だ。

 普通の冒険者ならば騙されないが、世間知らずの素人は騙されてしまう。


「わぁ~! どれにしましょう!」


 瞳を輝かせて、カノンは刃で怪我しないように、壊れた武器を漁っている。


「じっくり選んでいいからな。へい。いらっしゃいませ!」


 そんなカノンを放置して、店主はカウンターにやって来た客を笑顔で対応した。


【名前=壊れた疾風ダガー(柄欠片) 種類=武器(短剣) 

 レベル=1(必要経験値0/10) 進化レベル=10 損傷率=96% 

 攻撃力=0(修理後11) 魔法攻撃力=0 ステータス効果=素早さ+0(修理後+10)】


「あっ、これが良さそうです」


 ほとんどガラクタしか入っていない木箱の中から、カノンは一番良い物を見つけた。

 壊れた柄の一部で、元が何なのかも判別できない、足の親指大の錆びた金属だ。

 成金貴族令嬢だから、金目の物には反応する。


「おじ様。この短剣貰いますね」

「ん? あー、いや、流石にそれはマズイ。この革鞘も持って行け」


 満面の笑みで銅色の小石みたいな物を見せてきたカノンに、店主の良心が僅かに動いた。

 紐で縛って大きさを調節できる、茶色の革鞘500ギルドをサービスで付けた。


「いいんですか⁉︎」

「ああ、遠慮しなくていいぞ」

「ありがとうございます! また買いに来ますね!」


 太っ腹な店主にカノンはお礼を言って、店から出て行った。


「ふぅー、良いことすると気分がいいぜ」


 カノンが店から出て行くと、店主は清々しい気持ちで一息ついた。

 だけど、疾風ダガーの修復後の価値は4万ギルドだ。

 そのことを店主は知らない。

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