第8話

 時は流れて、王都でレインと別れて5年後。

 

 俺は冒険者ギルドで相変わらずくすぶっていた。パーティーを組み他国にもいったりもしたが俺はまだ村近くのこの街で冒険者を続けていた。


「ロイ、最悪だ。やはり非常招集がかかった」


 ギルドの酒場でくだをまいていると、ギルド窓口で話を聞いてきた顔なじみの冒険者が慌てていってきた。

 俺はその言葉にしかめっ面をしたが、周りのやつらも同じような顔をしている。

 

 冒険者の税はかなり優遇されている。魔物を狩って手に入れた金はギルドの手数料を除けばすべて自分のものだ。

 そのかわり国からの強制依頼を必ず受けなくてはならない。拒否すればギルド追放だ。

 

 通常であれば大規模山狩りあたりに招集されるくらいだが今回は、魔物の森の間引きへ動員されるらしい。


 通常は国の兵士たちが砦に駐留し、魔物が森から溢れることがないよう間引きを繰り返している。

 それを冒険者まで動員しようとしているのはなにかあったのだろう。

 

 いや間違いなくろくでもないことがあったに違いない。

 

 周りのやつらも暗い顔をしている。逃げ出すべきか、ちらりとそんな考えが浮かぶ。冒険者廃業になるがは命あればこそだ、他国へいけばまた冒険者になることもできるだろう。

 

 しかし故郷の村を見捨てることはできない。魔物の森から魔物があふれだせば村まで魔物に飲み込まれかねない。


「…仕方ない。俺は参加するよ。他はどうする?」


 俺のセリフにほかのやつらは顔を見合わせる。

 

 結局半数ほどが参加しもう半数は他国に流れることを選択した。参加したものは俺と同じく近くに村があるものばかりだ、この分では他の街の状況も似たようなものだろう、誰だって魔物の森になんぞ入りたくはない。


 人類領土の最前線、魔物の森と接しているこの国の宿命でもある。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 俺たちが砦にきて10日余り。

 

 魔物が森からあふれ出した。この砦の陥落は時間の問題だ。遠目にみても話だけしか聞いたことのないような凶悪な魔物たちが台地を闊歩し川をこえ王国領土に侵入している。

 

 このままでは王国全土の陥落もあり得る。


 まさか砦にきてすぐこんな状況になるとは思いもしなかった。


 俺は砦の城門の上にたち、眼下の魔物の森を見渡していた。同じようにとなりにたつ冒険者は弓で空を飛ぶ魔物に狙いをつけている。

 城壁の下をのぞき込むと、壁にへばりつくようにして登ってこようとしてういる魔物がいたので手近な石を投げつけてやる。石が頭に当たった魔物は哀れな悲鳴上げて下に落ちていく。

 

 こんな状況が城壁のあちらこちらで見られていた。

 幸いなことに森からあふれ出した魔物たちの大半は、砦を避けるように王国領土に侵入している。

 

 はぐれた魔物のいくらかが砦に迫っている程度だから砦は守れているが、標的が砦に変わればあっというまに砦は陥落し生き延びたものも蹂躙されるだろう。

 

 こうなっては魔物たちの気が変わらないよう神に祈るしかない。砦から出ることは禁止され中にいるものたちは息を殺して魔物たちが通り過ぎるのを待っている。

 

 砦は川べりの高台にあり3方を川で守られていて、残り1方は城門で守りを固めていて難攻不落の砦を誇っているがそれも増援があればの話だ。砦に籠って守っていてもいずれ限界がくる。

 

 村は無事だろうか? もし王都まで陥落することになったら王国はもうだめだ、村人全員をつれ他国へ逃げ延びるしかない。

 

 砦にきた当初から状況は悪かった。

 森に入れば大量の魔物が待ち構えるようにしており、こちらの人員に被害が続出した。

 砦に来た時から兵の少なさに不安を感じていたがこれが理由だった。けが人続出で王国兵だけでは対処ができなくなり冒険者を大量導入したというのが真相だろう。

 

 魔物があふれる危険性は日増しに高くなり、王都に再三人員の増員と砦から退避する準備を依頼してたようだが、王都から返答はなしのつぶてだった。逆に魔物があふれる危険性があるから王都の守りを固めたようにも見える。

 

 その結果のこの惨状である。魔物は森からあふれ川をわたり王国へ侵入している。早い段階で魔物があふれたことに気が付き逃げ延びることができれば良いが、そうでなければ王都までの村々は全滅するだろう。この数では王都すら陥落の可能性がある。

 

 周りのやつらの顔を見てもあきらめと絶望の顔しかしていない。

 ここで俺たちは全滅するのが運命なのか。


 交代で城門の防衛をしているが、みな疲労している。交代で休んでもいつ城門を突破され魔物に襲われるか気が気ではないため常に気を張っている状態だそんな状態ではゆっくり休むことなどできはしない。

 

 

 ここにいたって砦の指揮官は砦の放棄を選択した。

 

 孤立した砦に籠っていてもじり貧である。まだ余力のあるうちに脱出するのだ、王都までの道は困難であろうがここで死を待つよりよほどよい。

 

 問題は残った人員の半数以上が冒険者で構成されていることだ。兵士上りの冒険者もいるだろうが大半の冒険者は集団での行軍などしたことはない。我先に進み隊列をくずしバラバラになるのがおちだ。

 

 そのため砦の指揮官は冒険者をまとめることをあきらめた。各自自由に砦を脱出せよと、冒険者たちは臨時の小規模パーティを組み砦を脱出していくこととなった。

 

 兵士たちは集団を組み隊列を整え移動する。

 

 つまりは冒険者を囮としてつかって自分たちの安全を確保しようという腹だ。

 不愉快だが仕方がない、この期に及んで砦の指揮官たちの命令に従うのは馬鹿らしい。冒険者が自由に動くことを認めたのだがらそれを十分に生かすだけだ。


 ただ気になるのはレインがどうしているかだ。

 

 レインは聖女として前線の士気を上げるためにこの砦にきている。演説するレインを遠目にみただけだが元気そうだった。

 無事に脱出してくれれば良いが。聖女なのだから最優先で守られているとは思うが、念のため探してみたほうがよいだろう。


 レインに迷惑だと切り捨てられるだけだとしてもだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る