第7話
王都はとてつもなく広く、人々も多く圧倒された。
村の先にある街に初めて入った時もこんな世界があるのかと思ったものだったが王都はさらに上を行く。
途切れない人々、正面の大通りに行きかう馬車。これほど広いにもかかわらずすべて石畳で覆われていて馬車が通っても土ぼこりを上げていない。通りは途切れることがなく商店が立ち並ぶ。
小高い丘の上にあるのは王城だろうか。きらびやかな旗が翻り、城門の上には兵士たちの姿が見える。
神殿は王城の隣あるひときわ高い建物らしい。
中には神官や巫女の住居もあり生活の場でもあるようだ、通りの屋台でいくつか買うと快く店の親父はそう教えてくれた。
世知辛く神殿の中に入るには喜捨名目のお金がいるが、用事のある場合は城門で取次ぎを頼めるらしい。
城門で神官様から預かった手紙を渡すと確認をとるといわれ半日以上待たされた。
やっと戻ってきた門衛は10日後にまたここに来いとだけ伝えてると、さっさと引っ込んでしまった。
その態度に怒りを覚えるが、ここで問題を起こしても仕方がない。相手にもされす門前払いもあり得たのだから十分だろう、神官様に手紙を頼んだのは正しかった。
10日後俺は再び城門へいき神殿内へ通され、レインと久しぶりに顔をあわせた。
レインはあいかわらす綺麗だった。
白い薄衣の高価そうな服を着て白銀の長い髪も綺麗にとかされて、正しく聖女という雰囲気だ、ただその顔は無表情だ。
久しぶりに顔を合わせたというのに、まるで路傍の石でも見ているがごとく感情がこもっていない。
俺はかなりショックを受けた。久しぶりに顔を合わせたのだ、懐かしい表情でもしてくれるかと思っていた。
どうやら俺は歓迎されていないらしい。
俺が王都に来るとは思っていなかったのだろう。10日ほど時間を開けたのはレインの心を落ち着かせるためだったのだろうか。
レインの後ろにはいいかにも腕に覚えがありそうな兵士が二人並んで立っている、俺を見つめる無表情の顔は俺がなにかレインにしたら問答無用で切り捨てかねないそんな印象だ。そしてそれは事実だろう。
「レインずいぶん久しぶり。元気そうだね」
「…ロイも元気そうで、うれしいわ」
お互い硬い声でよそよそしく挨拶をする。
正直これだけで俺はお互いの心が離れてしまっているのを感じた。
後ろに目を光らせている兵士がいるのが邪魔でしょうがない、彼らがいなければもっと違った言葉を選べた。
「婚約の話を聞いたんだ…今日はそれが事実か聞きに来た」
「事実よ、私はカイル王子と婚約したわ」
「どうしてだよ、レイン! 帰ってきたら結婚式をあげようと約束していたじゃないか…」
ダメだ落ち着こうと思っているのに、頭がぐるぐる回ってあらかじめ考えていたセリフがでてこない。
「ロイとは確かに結婚の約束していたけど、よくある子供のころの他愛のない遊びでしょ。まさかいまだにその約束が有効だと思っているほうがどうかしてる」
「レイン、確かに子供のころの約束だ、だけど俺はレインが好きた、愛しているんだ。
村へ戻って一緒に暮らさないか。
村での暮らしはそりゃあ王都の生活に比べるべくもないことはわかっている。だけどレインの両親もいるじゃないか、そこでのんびり一緒に暮らさないか」
俺はみっともなくすがりつくようにいう。
「ロイやめて。あなたの言葉に興味はないわ。幼なじみのよしみで面会したけどもう十分でしょ?」
「私の両親へは十分なお金を送っているわ。村に対しても村長さんに同じようにお金を送ってる。故郷にたいする義理は果たしたわ。村での日々はもう昔のことよ。
ロイと私ではもう生きていく世界がちがうのよ、ロイは村に帰り畑を耕して暮らせばいい。
私は王都で優雅に暮らすわ。
王都の生活は素晴らいしもの、日照りや長雨にやきもきさせられることはなく、食べ物だって困らない。
身を飾る衣装だって村での暮らしでは、粗末な衣装しかなかったけど、いまはこんな綺麗な衣装や宝石を身に着けられるわ。いまの私の立場で村に帰る方を選択するのはばかげている」
楽しそうに笑うレインに俺は再びショックを受けた。正直レインの婚約を取りやめにできるとは思っていない、しかし万に一つの可能性にかけてここに来たが、レインにこんな冷たい対応されるとは思っていなかった。
「…そうか」
力が抜けてよろよろと座り込みたくなるのをこらえて俺は一言だけいう。
「さようなら、ロイ。二度と会うことはないでしょう…」
レインは無表情で別れを告げる。
「おっと、待ってくれないか」
扉から一人の男が現れ、レインの横に立つ。
「会議が長引いて危うく間に合わないところだったな。
俺はカイル=ストラングレイ まぁこの国の第二王子だ」
レインの後に立っていた兵士たちが、位置を変え俺を両側から抑え込む移動する。
「俺は…ぐっ」
「口を開く前に殿下にひざまずかんか!」
言いかけたところで、両脇の兵士に強引にひざまずかさせられ、さらに頭を押しつけられ床にぶつけさせられる。
「…殿下、あまり乱暴なことはやめさせてください」
「もちろんだとも。ただ権威をなめられるわけにはいかないからね。必要なことだよ」
王子はなんでもないことのようにいい、俺を楽しそうに見下ろした。
「レインの幼なじみだそうだが、おまえがそうか?」
「殿下、彼との話は終わりました。彼にはもう興味もないのでもう下がらせてください」
「レイン、そう邪険にしなくても良いだろう。僕は今日会えるのを楽しみにしていたんだ。
レインの婚約者なのだから、昔の元婚約者に挨拶しなければと思っていたところさ」
王子は楽しくて楽しくてたまらないとばかりに笑いながらいう。
つまりはこの王子は俺を笑い者したいがためにこの場にわざわざ駆けつけたらしい。10日の猶予もこいつの都合を調整するためだろう。
この国王子は間違いなくクズだな。
おそらく何を言っても無駄だろうから俺は黙っていることにした。
「元婚約者としては僕になにかといいたいこともあるだろう。いいよ聞こうじゃないか、遠慮なくいうといい」
「…」
「なんだ、なにもいうことはないのかね」
「恐れ多いことです」
「ふむ。そうかね、レインはなにかいうことはないか」
王子は隣のレインの腰を引き寄せ、抱きつかせるようにしながら言う。
「あの殿下。このようなことはおやめください」
「彼にも僕たちの関係を見せつけて、きっぱりと諦めてもらわないといけないじゃないか。未練が残るようでは可哀そうだろう」
王子は引き寄せたレインをさらに抱きしめ大きく空いた足のスリットから手を入れレインの太ももを直になでながらいう。
「恥ずかしいです。お願いですからここではやめてください」
レインは懇願するようにいう。
「僕としてはこのまま、僕たち愛の営みをみてもらっても良いと思っていたのだが、残念だな。」
王子はレインの後ろにたつような位置にかわり左でスリットから太もも撫で、右は胸を見せつけるよにやわやわともみながら楽しそうにいう。
「…お願いです殿下」
「わかった、この後でたっぷりとかわいがってあげよう」
俺は歯を食いしばり、できるだけ二人を見ないように顔をふせたままにする。
レインがどんな表情をしているか知りたくなかった。うれしそうに王子にしなだれかかっていたりすれば俺は立ち直ることができない。
「ははっ さすがに戯れがすぎたが、レインの普段とは違う可愛い顔を見れたらよしとするか」
「ああ、お前はもう二度とレインと会うことは許さんからな、次はあの神官につなぎを頼んでも無駄だとしれ」
「これからレインと忙しいからな、もう下がってよいぞ。はははっ」
王子はレインの腰を抱いたまま仲良く二人連れ立って出ていく。
神官様の言う通りくるのではなかった。二人の姿を散々見せつけられた俺はふらふらとしながら、この後どうするか考える。
もう冒険者をやる意味はない。村に戻って畑を耕すか。それともこのまま他国へ流れ、すべてを忘れ全く新しい生活でもしようか。
俺は人でごったがいする王都の通りをぼんやり眺めながら考えていた。
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