第3話 かーなーしーみーのー……。

 ――文化祭の日の夕方。例の事件が起こったあの時……。



 「……俺! 好きだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! あいして……(以下略)」




 この時、神谷葵の心の中で彗星激突並みの衝撃が走った事は記憶に新しい。(ていうか、2日前)だが、実はこの日にもう一つ彗星爆発並みの大事件があった事を私達はまだ知らない……。










 沈む夕日と太陽の最後の輝きが重なり合う陰と陽の狭間時……。二つの影は1つになろうとしていた。



「……はっ、はい! よっ、喜んで…………」



 少女の声が木霊した時、世界は新たな光を放ちだす。……恋人達は、今世界の中心の学校の裏で誓いの言葉を交わし合い、身を寄せ合う。……ここに、現世と冥界は結ばれ、点と線は交わり合い、末法の世は終わりを告げる。新時代の始まりだ。











 まぁ、それは……また別の末宝の世が到来するという事を意味するわけだが……。





「……どうして……? どうして……でしょうに……」



 葵が隠れていた場所とは反対の所から1人の女の瞳が浮かび上がる。その女は、2人がくっついた後もあまりに気になってしまって離れようにも離れられず……で、結局彼らがいなくなるその時までその全てを見て行ってしまった……。


 外はもう暗い。陰だけの世界。そんな世界を、一人の女は歩いていた。





「……私は、可愛いって言われた。可愛いって言われた。可愛いって言われた。可愛いはず。可愛いはずなの。可愛いはずなのに……可愛いのに……あれは、全て嘘だというのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」






 これだけ聞くと、ただの勘違い女である。






 女は、暗い夜道を歩きながらぶつぶつと独り言を言い続けていた。暗い夜道――といってもそこは、ただ何もない夜道というわけではなかった。むしろ明るい。自分の事を頭から照らす街灯の数々。……自分の事を横から照らす車の明かりとお店の明かり。……更に彼女の横を通り過ぎて行くカップルの数々……。


 彼女は、過ぎゆく2人達をじーっと見つめながらあの時、自分が見た悪夢ナイトメアを思い浮かべていた。






「……誕生日おめでとう。これ、プレゼントだよ」



「えぇ~、う~れ~しい~!」






 ――フフッ。無様ね。メスの顔をさらけ出しちゃって……。






 無様なのは、どちらであろうか……。彼女は、まるでゾンビ映画のゾンビのように意志をなくした屍のようにゆら~ゆら~ゆら~りと歩きながら死んだ魚のような瞳で町を歩いていた。――そう、光の少ない住宅街を目指して……。





「……なぁ、覚えてるか? 俺達、今日で付き合ってから2年経つんだぜ……」



「わぁ! 素敵!」







 ――フッ! たかが2年! 2年如きで……発情するなんて、猿ね! 猿!





 ※彼女は、そもそも付き合った事がありません。




 彼女は、そのまま暗い住宅街へ突入していった。そして、そのまま真っ直ぐと自分の家へと帰っていく……。









 「六条」と書かれた家の中へと彼女はのそりのそり……と入って行った。


「……あら。ただいま美也みや。今日は、楽しかった?」


 うちに帰るとすぐ、玄関に母がいた。母は、娘が重たそうにドアを開ける事を見つつも嬉しそうな顔で迎え入れた。

 しかし、娘はそんな母の嬉しそうな顔を無視するかの如く、下を向いて言うのだった。



「……はい」



 かつ……かつ…………と美也は、家の階段をゆっくり駆け上がっていく。



「……えーっと、その……ご飯は?」




「……必要ございません」



「……あっ、うん」



 母は、不自然すぎる娘の喋りに動揺しつつも彼女の事をそっとしておく事にするのだった。





 階段は、普段よりも長く感じた。自分の部屋は、すぐそこなはずなのに彼女は自分がまるで永遠に階段を上っているように感じた。



 ふっ、ふふっ! これが……天国。



 すると、彼女はぼそぼそと独り言を喋り出す。



「……螺旋階段、カブトムシ、廃墟の町、イチジクのタルト……カブトムシ、ドロローサへの道……」




 母は、娘の事をそっとできなかった。



「……みっ、美也? 大丈夫?」


 だが、娘は何も言わない。ただ、14の言葉と呪文を言うだけだった。――そうして、彼女が最後に「秘密の皇帝」と言い終わる頃になってようやく自分の部屋へと入って行った。



「大丈夫かしら……。何かあったのかしら…………。明日にでも悩みを聞いてあげましょうかしらね」



 母は、そう言うと無言でキッチンへと戻って行く。そして、フライパンに火をつけようとしたその時だった。……突如として、この家の全土に長江音波が発せられる。














「……あんなに私にだけ優しくしてくれたじゃないィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」







「……どうしたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

















 訂正しよう。ただの勘違い女だった……。

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