第2話 完璧でした。はい……。
神谷葵の朝は早…………かった。うん。
――毎朝、5時に目覚めて軽い朝食をとる。キッチンに着くといつもこの時間は、スーツを着たパパがいる。そこで軽いお話をしながら私はパパの作ってくれた目玉焼きを食べる。
「おぉ、葵。今日も早いなぁ」
「パパ~、おはよ!」
「おはよう」
そして、軽いランニングをしてから家に戻り、今日の授業の予習を始める。
1日の始まりを背中で感じながら私は走り、そして勉学に励む。ある程度済むと葵は、母親が起き上がる前に洗濯機を回し、そして身支度を始める。
「……ママ、おはよう~。洗濯機回しておいたよ~」
「あら。ありがとう~」
それから彼女は、自分の部屋に戻って鞄を取り出し、母へと告げた。
「……じゃあね! ママ~。行ってきます!」
「え~。いってらっしゃーい。気をつけて行ってきなさいね~」
家を出て、通学している途中で彼女はいつも寄っているコンビニに顔を出す。
「おっ、葵ちゃん! おはよう!」
「……あら、店員のお兄さん。おはようございます」
「……今日もサラダチキンと緑茶か……。健康的だねぇ」
「エへへ~。いやぁ、そんな~」
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「はい! 毎度あり~」
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学校へ近づくと私は、沢山の人に声をかけて貰える。
「葵さん。おはようございます!」
「おはよう!」
「皆、おはよう!」
いつも通りの完璧な笑顔で男女問わず、性格も見た目も年齢も問わず、彼女は常に笑顔を振りまく。
――授業だって……。
「……はい。この計算が分かる奴いるか~」
「「…………」」
静まり返るクラス。この時にはもう既に視線は1つに集まりつつあった。――あいつしかいない。そんな願望が視線の先から感じられる。
――しかし、私は自分の名前が呼ばれるその時まで優雅に待ち続けるの。周りが私を……あぁ、我ら救いのジャンヌ・ダルク~となってくれるその時まで。私は、膝に手を置いて、おしとやかに待っているの。
教師の方もそろそろ限界だった。職業上、より多くの生徒に解かせたい。しかし、時間もあまりない。この状況で、教師は仕方なく彼女の名を呼んだ。
「……仕方ない。じゃあ、神谷。解いてくれ」
「……かしこまりました」
そして、彼女は完璧な式の羅列と美しい文字で黒板を白く彩って、生徒も教師も驚かせる。
「……さすが神谷だ」
「いえ、この位の事でそんな……」
「……お前らも神谷を見習うんだぞ!」
「「は~い」」
葵は、教卓を背にゆっくり席へ戻って行く。
「……ケッ。貧乏人のくせに。生意気ですわね…………」
変な声も聞こえては来るけど、彼女はそんな事を気にしない。全く興味なさそうに振り向きもせず、ただ授業に集中する。
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――放課後。私の部活は、自転車競技部でした。
葵は、エースだった。2年ながら先輩達からの信頼は熱く。次期キャプテンとまで言われていた。同じチームの男子にもひけをとらないスピードは、まさに全国レベル。
「……ふぅ。走った走った」
「葵さんお疲れ〜」
彼女が、水を飲んでいると可愛い後輩達がやって来て目をキラキラさせる。
「……先輩凄いです! ビュン!って感じで、ドジューン!ってしてて、それでそれで!」
「……えっえぇ。ありがとう……」
すると、葵の元に男性の声が聞こえてくる。
「……葵! 練習の続きだぁ!」
「あっ、はい!」
──私は、ここでも救いの主ジャンヌだった。
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そんな葵にも1つだけ憧れがあった。それが、恋だった。
葵は、昔から恋愛小説や恋愛漫画が大好きでしょうがなかった。今でもそういう本は、学校帰りなどにこっそり買って読んでいる程だ。
「はぁ! 素敵。アタシも一度こういう恋をしてみたいわぁ〜」
──今思えば、夢は夢のままの方が良かったのかもしれない。よくあるだろう。俳優を目指して努力して芸能界に入ったらダメだったという話は……。アタシも、そうなのだ。
現在
──チーン。
「仏説摩訶般若波羅蜜多心経……」
──チーン。
「……どうして今日に限って学校の近くからお経が聞こえてくるのよ……」
その理由は、この教室にいる誰しもが理解できない事だった。しかし、圧倒的失恋を経験した今の葵にとってこの般若心境は、心にくるものがあった。
「……この問題わかる人いるかー?」
「「……」」
そんな時、周りでは既に新たな動きがあった。教師は今日も難しい問題を誰かに解かせねばと教室中をジロジロ見渡し、しかし誰1人として自信を持って手を挙げるものなどいない。教室中の人々が救いのジャンヌに視線を向ける。
「……仕方ない。神谷! 頼んだぞ!」
そしていつも通り結局彼は、葵の名を呼ぶ。普段ならそこですかせず彼女が優雅に立ち上がってくるはずだったが……この日は違う。
「……かっ、神谷?」
教師は思わず彼女の名を呼ぶ。すると……。
「……うっ、うぅ……。うぅぅぅぅぅぅぅ! うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう……。南無阿弥陀仏ぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜」
葵は、とうとう泣き出していたのだった。教師や周りにいた生徒達は驚いた顔で彼女を見ていた。
「すっ、すぐに保健室へ連れて行けぇぇぇぇぇ!」
「葵ちゃん大丈夫!? さぁ行こう!」
すぐに近くの席の女子生徒に彼女は連れてかれた。
葵は、連れて行かれている間中もずっと泣き続けた。
──完璧だったのに……。今まで完璧だったのにぃぃぃぃぃいぃぃぃ!
保健室にて、葵は養護教諭に告げられた。「寝不足」まさにその通りだ。葵はこの日、寝ていない。この前のショックのあまり精神が不安定なまま寝ることはできず、結局今日までぼーっとしただけで生きていたのだった。目はそれまでの救いのジャンヌ像とかけ離れた。まるで復活の悪魔──ジルドレだった。
葵は、その後保健室で眠ったまま1日を終え、その日の部活も休む事にした。
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そして、放課後。彼女が教室に戻るとそこは地獄だった。
「……ゆっ、紫! その……一緒に帰ろう!」
「……光、君……」
「ヒィ!」
葵は、教室の中に生息する2人の知的生命体の声明反応をキャッチし、すぐさまドアを開けるのをやめた。
とうとう、下級生は私達の学ぶこの教室にまで侵略しに来てしまったのだ……。
──やめて! 更に、追い討ち攻撃だぁ! が許されるのはゲームの中だけよ! やめて!
葵は必死に思った。……しかし、もう遅かった。
「うん。帰ろ……」
「……はうぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅ!!!」
葵は、チラリズムしてしまった。2つの知的生命体が手と手を触れ合わせる瞬間を……。
彼女の頭の中で、◯.T. ずっと…一緒……。の名言が出現する。しかし残念な事に、今目の前では指と指どころか手のひらと手のひらが重なり合っていた。
「いやあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁhdjdkfdjxlfpfkどfkどdjdっkdjflckcbfbふぃをおっくぃjdkふぉdkfっkふぉふぉflふぉcおkfkdkskwvjぢぢs!!!」
彼女の心は、再びビッグバンを起こしてその場に倒れてしまう。
「……え? なっ、なんだ!?」
その声が廊下を歩いていた他の生徒に聞こえていたらしく、彼女はまた起きるまでの間保健室で眠っていた。
──かくして、一階からの後輩Yの侵略の魔の手によって、再び葵の心は傷ついてしまうのであった。
ちなみに葵が保健室のベッドから目を覚ましたのは、部活も終わった後の20時になった時の事だった……。
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