第6話 ファーストコンタクト
ストーキングしようと思って装備のせいで早速躓いた。せめて宇宙服を脱がなきゃ追跡なんてやってられない。とはいえ、頭の部分だけ外すことにした。
そのため今は既に外している腕の部分と頭だけが露出している。
「正直足も外したかったんだけど、中は下着ぐらいしか着てないからな…」
靴は船の中にはあるが別な倉庫の中であり簡単には取り出せない。そのため脱いでしまった場合、太ももまで素足に素手に体にはゴツい宇宙服という見た目になってしまう。端から見たら変態にしか映らないだろう。それに最悪少女とファーストコンタクトをとる可能性もある。第一印象って大事だよな。
それに外の菌がどうなっているかはセンサーで測れるレベルを超えている。切り傷から菌が入って死ぬ、なんてこともあり得る。予防だな。
「これで大きく移動するのは訓練しててもつらいな…」
宇宙服はかなり改善されたとはいえ、重さはすべて合わせて20Kgはある。宇宙服の頭と腕を外してもなんとか15Kgを切るぐらいだろう。
そんなこんなで少女を急いで追いかけ始める。気温は20度ぐらいのなのだが、着こんでいるので非常に暑い。
【約100mほど前方に先ほどの人型生命体の存在が確認されました。他にも小型生命体が複数確認できます】
追いついたようだが、小型生命体が居る?また知ってる生き物が出てくるのか?そう思いながらその方角へ隠れながら向かう。
ウォンウォンウォン!
ゆっくりと近づいているとそんな声が聞こえる。目を凝らしてその方向を見ると少女が見えた。
少女の向いている方向を見ると…何だあれは?
四つ足で立っている恐らく60~80cm程度の毛むくじゃらの生き物であり、最初はイノシシかと思ったが、顔の部分に違和感がある。鼻が少し小さく、その代わりに頬がほとんどなく歯が見え隠れする。
頬は咀嚼する為の器官と聞いたことがある。頬が無いからこそ肉をしっかりと噛めるようにできる。つまりあれは恐らく肉食の生物だ。
先ほどよりも少し足早になりながら近寄っていくと、その仮称イノシシは少女を見つめながら後ろにゆっくりと下がる。あれは地球のイノシシと同じなら、突進する前兆だ。
どうする?少女を助けに入るか?自分自身が危険な目に会わないか?
そんなことを考えている一瞬の間にイノシシは突進を始める。
危ないと思ったとき、俺はいつの間にか走り始めていた。
「うぉらぁぁぁぁぁぁぁ!」
そうやって声を上げて突っ込んでいったのが功をなしたのか、生物は途中でこちらから逃げるように曲がり、少女に突進することはなかった。
イノシシはこちらを警戒するようににらんでいる。
その間に何とか少女と生物の間に入り込む。
「大丈夫か!?」
少女の方を軽く向き、話しかける。
「%&*+$%&!」
何か少女はこちらを見て声を上げているようだが…。
「ごめん!さっぱりわからん!」
【既知の言語と類似したものはありません。音韻および形態素、使用のされ方などから言語解析を開始します】
クレードルがそんなことを言っているが、今一番話しかけたいのはこのイノシシの方だ。帰ってほしい、それだけ伝えたいのだがそうもいかないようだ。息を切らしながら生物と対峙する。
後ろでは少女が木の裏に隠れたのが見える。突進をよける一番の方法だ。
ウォンウォン!
イノシシが叫ぶ。鳴き声からもやはりイノシシでは無い様だ。
しかし、なぜか頭痛がする……酸欠か?あまり思考がまとまらなくなってきた隙を見計らってかイノシシがまた後ろに下がり始める。
何か方法は無いか……!そうだ!
コンソールの端の方についている高周波ナイフを取り出し、映画のように前に構え、スイッチを入れる。高音でキーンという音がなり始めたかと思うとすぐにその音も聞こえなくなる。ナイフでの戦い方なんてわからないから見様見真似だがやれるだろうか。
5mほど後ろに下がったイノシシは駆け出し、まっすぐにこちらに突っ込んでくる。俺ができたのは突進してくるイノシシに向かってナイフを持ち、刺さるように待ち構えるだけだった。
強い衝撃を受けそのまま後ろに吹き飛ばされ、木に大きく背中をぶつける。
「くがっっっ!」
背中を強くぶつけたことで意図せず肺に圧力がかかり、空気が漏れ出ることで声が出てしまう。目がちかちかしてあたりを見ることもおぼつかない。いつの間にか高周波ナイフも落としてしまったようだ。
イノシシはどこにいったかと、10秒ほどしてあたりを見られるようになったところ、イノシシは自分の少し前に倒れていた。そのすぐ横には高周波ナイフが落ちていた。
どうやらイノシシの頭に高周波ナイフが刺さって絶命したようだ。しかし、その勢いは消えず、俺はもろに突進を食らったようだ。
立ち上がろうとしたが、腰が抜けたのか足が動かず立てない。
そうしていたところ、少女が後ろの木から出てきて何か声をかけてくれているようだ。
やっぱ何を言っているかさっぱりわからない。言葉なんだろう、ということぐらいと心配そうなその表情から労わる言葉をかけていることが想像できた。
「とりあえず……無事でよかった……」
俺は少し気が抜けたのかそのまま意識を失ってしまったのだった。
---------------------------------
気が付くと木の板が貼られた天井が見えた。
「あれ……?」
自分の状況を把握しきれず、あたりをきょろきょろと見回す。簡易的な木造の家のようだ。
そうすると少女が少し離れたところで何か棚のような木の台の中を整理しているような姿が見えた。ぼーっとその姿を見ていたところ、少女もこちらに気が付いたようで何かを話しかけてきた。
やはり何を言っているかはわからないが、何か気を使っているような表情をしている。やっぱりどう見ても人間だよな…。実はここは地球の未来で人間の文化が一度滅んだ世界とかじゃないだろうな。
そんなことを考えていると少女は何か色々言っていったあと、別の部屋に続くと思われる暖簾をくぐりどこかに行ってしまった。
【先ほどの小型生命体と対峙して気絶した後5時間が経過しています。】
そうか。俺が気絶していた間にもクレードルは起きていたのか。
状況を把握する為、クレードルに小声で話しかける。
「ここはどこだかわかるか?」
【あの後先ほどの人型生命体の別個体が3体現れあなたをこの村まで運んでいきました。最大幅100メートル程度の小規模な村であり、簡易スキャンで全体を現在もスキャンが行えています。この村の人型生命体の数は小型のものを含めて12となっています】
「なるほど、看病でもしてくれたんだろうか」
【はい、治療の為最初の雌の人型生命体が衣服を脱がそうとしていましたが、宇宙服の構造がわからず脱衣を諦めていました】
「そうか……」
【他にも多数報告があります。人型生命体の言語の分析が進展が見られます。文章の翻訳は難しいですが、一部の単語であれば翻訳可能です】
「それは助かる。あと理解しにくいから人型生命体を人間として認識してくれ」
【了解しました。緊急報告です。現在村の人間が槍のようなものを持ちこの部屋に集まっているようです】
そんなことになるかなとは思っていたんだが、本当になってしまうか……。
ここで起きるとしたら、よそ者に対する裁判だろうか。
槍を持っているのなら、少なくとも穏当とはいかないだろう。
【参考情報ですが、村に来た当初は村の人間に手足に縄をかけられていました。この部屋に来てから少女が縄を切断していましたが、村の人間の意図とは違うものと思われます】
「あー、なるほど。村の人間は好意的じゃないわけね。処刑されちゃうかも、ははは」
どうしようか……。
--------------------
テトラ
※オリジナル設定
トウヤ達が乗っていた宇宙船。
テトラとは4という意味があり、虚数エンジン、相転移エンジン、核融合エンジン、反物質エンジンを積んでいることからつけられた名前であったが、反物質エンジンは危険性が高いことから外されてしまった。
名前だけが結局残ってしまい、対外的には4つ目は人々の想いを載せていると公表されている。
なお、この公表の内容は船のクルー達からは「想いだけじゃなくて、実際に俺たちは船の歯車として載ってるんだよ」と不評である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます