第5話 地球より地球らしい星

「外に人が居るってのか?ここは地球じゃないんだぞ!」

【はい、人型です。カメラは破損していますので、映すことはできませんが、船体に穴がありますのでそこから見てはいかがでしょうか】

「なるほど、そうするか。……ん?」


 見えるということは、相手からも見えるということでもあるわけだ。

 というか、見える以上に聞こえる可能性もある。


「クレードル、以降の発言を命令あるまで禁止とする。今は緊急時以外しゃべるな」


それに対する返答は無かった。喋るなと言われて返事するのはギャグだからな。

しかし、感知がずいぶん遅いな。船体モニター機能を拡張して周辺スキャンをしているから、精々船の周り100mぐらいしかスキャンできていないって事だろう。


 コックピットから中央にあるリビングルームの間の通路、そこが損傷が大きいと分析されていたため向かう。通路はぐにゃりと曲がり、人の顔程の大きな穴が開いていた。

 シップにおいて穴が開くというのはそこから空気が流出してしまうため、通常は緊急事態だ。今回は外部にも大気があるから問題にはなっていないが、気密性というのは宇宙船の一番重要な部分だ。耐衝突のため貫通する穴が開かないよう5層の装甲板を使った丈夫なつくりになっており、データでは5mの小惑星とぶつかっても少しへこむ位のはず。それでも空いてしまったという事から衝撃の大きさがわかる。

 中から外を覗いてみると最初は木しか見えなかった。差し込む光は強く、どうやら昼間らしい。

 そのまま角度を変えてみてみると120㎝程度の10歳ほどの少女が立ちすくんで船をみているのが見えた。


(確かにあれは人間だ……)


 額は赤くなっている部分があるが、模様になっていることから化粧であることが見て取れる。

 どうみてもやはり人間としか言いようがなく、麻のような服を着ていることから発展した文化があることが見て取れる。


 何をするのかとしばらく見ていたが、あたりを見ていたり船に触ってみたりしているようだ。どうやら今のところこちらを害する意識は無い様だ。

 一度コックピットに戻りハンドターミナルを取り出すためにドライバーで倉庫の扉のこじ開けを再開する。


「クレードル、あの少女が何か現状とは違う船体を害する行動や内部に入ろうとする動きをとり始めた時のみ連絡しろ」


 いざ作業を始めてみると、先ほど3時間格闘した成果もあり開けることができた。

 そこにはタオルと宇宙服の緊急修復パッチなどが入っていたが、そこに長さ20㎝程のハンドターミナルがあった。

 これは本来惑星探査を行う際の調査用ツールが詰まっており、腕に装着して使う。他にも背中に背負うタイプの大型のツール群があるのだが、落ちた衝撃かいくつかパーツが壊れているようだ。後でクレードルにスキャンさせよう。

 ハンドターミナルは無事そうであったため、電源を入れる。……オペレーティングシステムの起動画面が出たから大丈夫そうだな。


「クレードル、ハンドターミナルが起動次第取得済みのデータをハンドターミナルのローカルに転送しろ。完了したら言うように」

【承知しました】


 ハンドターミナルは特になのだが、船のシステムも含めては敢えて少し旧型になっている。システムの性能よりもメンテナンス性を高いものを選んでいるためだ。

 そのせいもあって、ハンドターミナルの通信装置はかなり低速になっている。とはいえ、今回の事故を耐え抜いたんだ、メンテナンス性優先というのも伊達じゃないってことだ。


【少女が移動しています。船から離れるようです。】


「よし、タイミングいいな。後をつけようか」


 あとをつければ住処がわかるかもしれない。


【残念なお知らせがあります。外へつながる扉は歪んでしまっています。ですが開けられる可能性はあります】

「そりゃそうか……開ける方法ってのは?」

【爆破です】

「……型にはまらないというか……。AIってそういう提案できるんだなぁ」

【AIには自己保全が優先されていますが、この場合船は大幅な損壊が見られるためAIにおける自己の範囲外と定義しました】

「うーん、そういう話じゃないんだけど、今はいいや。その爆発ってのは音は大きいのか?」

【少女が気付く可能性はあります。過電流によってドア近辺にある回路を焼き切る際に、半導体の出火および近辺のコンデンサが爆発します。電気容量から現在の損傷したドアであれば開封可能な状態までむかえられる可能性が83%あります】

「微妙な割合だな」

【コンデンサの爆発の仕方で変わります。また、スキャンが詳細に可能な場合より正確な確率を割り出すことが可能です】

「まぁ、仕方が無いか。……念のため消火器持っていこう」


 コックピットにつけられている小型消火器を持って外へのドアまで向かう。

 その途中で船の中央のリビングルームを改めて少し見ていく。拡張空間が無くなっているためすごく狭い。現在の部屋の中はコフィンが二つあるだけで部屋の圧迫感が強い。コフィンは今耐衝撃装置が作動したままになっており、現在はコフィン自体を見ることすらできない。

 ティニーを置いていくことに対して一抹の不安と罪悪感を抱えながら、そのまま扉に向かった。

 先ほどの通路ほどではないが、確かに少しゆがみがある。


「よし、やってくれ」

【カウントダウン10から開始します。10、9、8……】


 カウントダウンが終了すると壁の中で爆発音がする。そういや人体への影響を聞いていなかったが、これぐらいなら確かに大丈夫そうだ。だが…。


「思ったより爆発音が大きいじゃないか」

【扉を壊すにはこの程度は必要不可欠です。後は扉を押せば扉近辺の装甲ごと外れます】

「さて、それじゃあ出ますか」


 そう言って扉を押したが扉はかなり重く、扉が倒れるまで5分ほどかかったのだった。


「重すぎだっての……はぁ……はぁ……」

【私は扉を開けることは可能とお伝えしたまでです。それでは船との通信自体は可能ですので、こちらからサポートを行います】

「おまえはクールだな……」

【AIですから、私は常にクールです】


 ハンドターミナルからイヤホンを取り出し右耳だけにつける。これはあくまで本来は惑星探査の補助用であり、作りが荒い。そのうち耳痛くなりそうだ。


 ハンドターミナルとイヤホンの疎通も取れたので、船の外に出る。

 外に出るとそこはうっそうとした森だった。日が暮れかけているからか少し暗い。ここが地球じゃないというのに、まるで地球の風景と変わりがない。いや、地球以上に地球をしているというか、こういった緑は地球ではほとんど失われてしまっている。

 だというのに、ここは現代の地球の植物などとあまりにも同じだ。こんなに似通ることがあるのだろうか?仮にこれが地球と同じような環境であるということから収斂進化だとしても、無理がある。

 そもそも植物があるというのもおかしい話なのだが、人間が居る事よりははるかにマシだ。


「クレードル、少女はどちらの方に向かった?」

【現在の体の方向から11時の方向です】

「OK、それじゃ少女のストーキングを開始するか!」








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収斂進化

しゅうれんしんか。異なる種類の生物が同じ環境で進化を続けることで同じような進化を遂げることをいう。

例えばイルカとサメは哺乳類と魚類だが、似通った形状をしている。これは海という環境に適用する為に流線型の体や手足の形状、黒い背中と白い腹を獲得したもの。




ハンドターミナル

※オリジナル設定

惑星開拓の際、船外活動用に通信機器や調査装置がコンパクトにまとめられた端末。

しかし、宇宙船【テトラ】によるバックアップを前提としているため、現在は機能の半分以上が使用不可。

主要な現在の使用可能な機能・装置はカメラとマイクを含む通信装備、100m程度の簡易スキャン、採集装置、翻訳装置、高周波ナイフ、ドライバー等がある。


ハイパースペース

※オリジナル設定

虚数空間内に擬似的な実数空間を定義したもの。

拡張虚数空間とは違い空間の位置を少しずつ変更していくことで、物理空間との関係性を変更していく事によって物理的な空間ではなく虚数空間を移動することが可能。虚数空間と物理空間の関係性が強い地点で実数空間に定義を移行することをスペースアウトと呼ぶ。


反物質

元素は原子核と負の電荷を帯びた電子で構成され、原子核は基本的に陽子と中性子から構成されている。

中性子は陽子と電子と反電子(ニュートリノ)で構成されている。

これらはすべて素粒子と呼ばれているが、素粒子の逆の性質を持つ反粒子によって構成されるものが反物質である。

物質と反物質が衝突すると対消滅という現象を起こし、質量のほぼすべてがエネルギーとして放出される。

非常に不安定であり、通常では安定して存在できない上、生成するためにはより大きなエネルギーを要求する。

※オリジナル設定

反物質を比較的安定化させる手段が発見されたがその維持にも多大なエネルギーと専用の設備を要することから

反物質を有効活用する手段は見つからないままとなり、現在はほぼ使用されていない。


反物質エンジン

※オリジナル設定

理論的にはあったが、実現しなかったエンジン。

反物質の対消滅を利用してエネルギーを発生し、それを元に出力を得るエンジン。

巨大なエネルギーを得ることができたものの、対消滅は一瞬で起きるためにコントロールしきれず、

実用的なレベルまでの設計が行えず相転移エンジンへ移行していった。

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