第4話 墜落
正直なところ、不時着というのは俺の一番の得意分野だった。
子供のころ好きだった紙飛行機、あの着陸の姿をより綺麗にしようとしたらどうなるか、紙がゆがまない落ち方は?そう考えながら頭の中で紙飛行機をどうやってきれいに落とすかをイメージしながら操縦していたら、今回のメンバー全員の中で一番不時着が得意になった。
【不明な引力が消失しました】
「今更トラクタービームが無くなってもな!エンジン全機停止!」
手もとコンソールから着陸用パラシュートの展開を行う。少しは減速の助けになるはず…。パラシュートが展開されるとほぼ同時に体にかかるGが増す。大気圏突入よりはましだが、クレードルへ口で到底指示が出せそうもない。
【地表情報取得完了、手元コンソールに映します】
簡易的な赤外線探査だから地形の形はわかるが、詳細は分からない。だが本当に地球みたいな地表だ。酸素が多いが空気があって、重力も大差が無い。地表はこの辺りは小さな川に、ほとんどが森と思われる地表データだった。川幅が大きければ川にしたのだが、船体幅よりも小さそうだ。それならば木の丈が低そうなところに突っ込むしかない!
着陸寸前で耐衝撃用のエアボックスを展開した。エアボックスは私の視界をふさぐように展開され、モニターが見えなくなる。
覚悟を決めて俺は歯を食いしばっていると、何か爆発するような音を聞いた瞬間に意識を失ってしまった。
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【定期通知、クルーは意識が覚醒次第何かしらのリアクションを行ってください】
そんなうっすらとした声が聞こえる…とりあえず生きてるのか…?ゆっくりと目を開くと萎んだエアボックスが体に張り付いていた。
【定期通知、クルーは意識が覚醒次第何かしらのリアクションを行ってください】
「大丈夫だクレードル。とりあえず状況を教えてくれ」
体に張り付いたエアボックスをはがし、そのままシートベルトを外していく。
【船体の78%の機能が停止しております。また、レプリケーターが故障しているため、修理が行えません】
…これは極めて最悪に近いニュースだ。
レプリケータは原子や分子を分解、再構築することで部品を生成する装置だ。これが無いということは、船体を修復できなく、有機物の組み換えから食料を作成することもできない。本来はレプリケータは探査や生命維持のための必須品なのだが、その最重要のパーツが壊れてしまっては何もできない。
【また、虚数領域からエネルギーの回収ができていません。これに伴いエネルギーを確保できません】
「何!?コフィンはどうなっている!」
【コフィンは墜落前に耐衝撃装置をONにしているため、外傷はありません。また、領域崩壊は発生しておりません。しかし、コフィンの展開には修理が必要です】
ティニーが安全かどうかというのは、正直わからない。なにせ、コフィンの中身は確認できないものだからだ。領域崩壊はしていないから、内部では問題が無いと思う……いや、思いたい……。
【他に前面装甲部の大幅な損壊、および装甲内にあった装置がすべて破損しています。システムを挙げますと指向性探査機、虚数領域制御装置、レプリケータ、補助システム制御装置、補助核融合炉、コックピット制御があります】
着陸の際に森に突っ込んだんだ。当たり前だが木にぶつかって前面がボコボコになったんだろう。代わりに急速に減速ができているわけだが……トレードオフとはいかない。かなりの痛手だ。
【他に両翼部エンジンは全壊。発進時に使用する相転移エンジンも大きく損傷しています。幸いナノマシンは有効ですが、必要なエネルギーも材料もありません。】
ということは調査用スキャンが出来ず、エネルギーもなく、修理もできず、システム制御ができない、と。何ならできるんだ?
「つまるところ船はもうただの鉄の塊だな」
【否定します。クレードルは稼働しております】
「あー、そうだった。悪かったな。ほぼ鉄の塊だ」
【他に船体スキャンおよび惑星探査補助システム群はほとんど無事です】
「それは不幸中の幸い、といっていいのかわからないが…。そうだ、着陸時に映した惑星スキャン情報を出せるか?」
【データには存在します。ですが残念ながらその映像を映せるモニターがありません】
「そうか……」
どうしたものかな……こんな時にティニーが居ればな……。
そう思いゆっくりとコックピットから立ちあがり、コフィンの元へ向かう。しかし、耐衝撃装置によって囲まれており、コフィンすら見ることができなかった。
(死ななかっただけマシってもんさ!不時着対応No.1なんて馬鹿にされてたけど役に立ったじゃないか!)
きっとそう言うだろうな…。一人で不時着成功なんて、正直ここまでできるとは思わなかったぐらいだ。
……そうだ、せめてティニーのコフィンを解凍しなければ。これが最優先事項だ。
「クレードル、コフィンの解凍に最低限必要なものはなんだ?」
【まず、エネルギー資源が必要です。また、その上で虚数領域制御装置の稼働の為の部品が必要になるため、レプリケータが必要となります。レプリケータ修理については船体スキャンの結果、コアと回路の故障が見られます。】
「回路修復に必要な素材を教えてくれ」
【導電性の高い金属、および絶縁体、半導体ですがこれは他パーツから流用が可能です。コアについてはコバルト60が必要です】
「コバルト60か…これはかなり難しいな」
コバルト60は普通のコバルトに原子炉で中性子を充てる必要がある。当然ながら原子炉なんて用意はできるはずがない。
安全性の問題から船は原子炉じゃなく、核融合炉を使っているからな。こんなところで問題が発生するとは考えもよらなかった。そもそもコバルトの入手も簡単ではないが、原子炉から比べれは圧倒的に楽だ。
「もともとレプリケータに入っていたんだろう?それはどうしたんだ?」
【墜落の際にどこかに落ちたものと思われます】
「それならば放射線を発生しているはずだな。放射線から追うことが出来そうだ。ガイガーカウンターはコックピットにあるハンドターミナルの機能が使えるはずだ。出せるか?」
【コックピット内の簡易倉庫に設置してありますが、開封装置は故障しています】
「そりゃそうか……仕方ないか」
俺はその開封装置を頑張ってこじ開けることを選んだ。ペンチ、ドライバーを本来の使い方ではなくただ金属の棒として使い、倉庫の扉の隙間に突っ込んでは歪ませることを繰り返す。はるばるこんな星まで来てこんな原始的なことをするとは思いもよらなかった。
たっぷり3時間ほどをかけたがまだ空く様子はない。
「そういえば確認していなかったな。船の近辺は森林だったと思うが、様子はどうだ?」
【可燃性の燃料を使用していないため、火災は発生しておりません】
「それはいいんだが、この宇宙服外してもいいか?大気成分はおおむね問題ないと思うんだが」
【地球の大気と比較しますと酸素が多く、二酸化炭素が少なく検出されています。概ね問題ありませんが、少しずつ大気を取り入れることを推奨します。酸素中毒を発症する可能性があります】
「なるほどね。大気が無い前提でしか訓練していなかったからな。それじゃあ少しだけ開けようか」
宇宙服の中のエアーは有効にしたままで手の部分を取り外す。こんな力作業なら外した方が楽だ。大気も少しずつ入るだろうし、1時間後には足を外して背中のチャックを開けて……って背中に手が回らない問題があったのを忘れていた。普通宇宙服は2人で着脱するものだからな……。
そうやって悩んでいた時だった。
【船体外部に生命と思われる反応があり。人型をしています】
「……なんだって?」
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コフィン
※オリジナル設定
物質の変化を止めるための論理冷凍保存装置。正確には冷凍はしていなく、論理的にはコールドスリープとほぼ同じ挙動を行うために便宜上呼んでいる。
肉体を分解し虚数域にエネルギーを保存し、情報の定義を続けるあいだ、時間経過を希薄に定義することで保存が可能。
量子力学における猫箱状態になっており、観測することは主観的、原子的にも不可能である。
解凍時には希薄化した時間経過と現実のギャップを埋めるために大量のエネルギーを必要とするが、その反映を行われずデコヒーレンスを上手く止めてやる必要がある。
エネルギーを必要とする割にはそのエネルギーがそのまま吐き出されるため、基本的にはそのまま虚数域へ保存される。
冷凍式コールドスリープとの最大の違いは冷凍式は「殺して冷凍して蘇らせる」手法であるのに対して、論理的コールドスリープでは「生きたまま存在を消したあとに出現させる」手法となる。
デコヒーレンス
量子物理学における遷移確率の消失(つまり、シュレディンガーの猫における、猫箱を開ける行為)をデコヒーレンスと呼ぶ。
※オリジナル設定
コフィンを開ける際にはデコヒーレンスが行われ、事実が確定する。
レプリケイトシステム
※オリジナル設定
エネルギーを与えることで原子へ干渉を行い、物質を変化し元素を生成するシステム。
放射性物質が大量に出てしまうことがデメリットだが放射性物質の安定化エンジンを併用することによって
危険性を低く抑えることに成功している。
相転移エンジン
※オリジナル設定
相転移とは物質の状態が変わることである。(個体→液体など)
相転移によって発生するエネルギーを利用したエンジンのことを相転移エンジンと呼ぶ。
通常、相転移エンジンでは真空の相転移を利用したもの。
相転移のためにはVパレットと呼ばれる装置をエンジンに接続することで利用できる。
Vパレットは専用施設でのみ精製が可能。これはVパレットの生成に多大なエネルギーを用いるため。
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