文化祭デートγ 01


 玉木先輩は屋上の金網をネイルで弾きながら


「佐野くん。あんがとね、色々と」

「お礼を言うのはこっちの方です。全部、玉木先輩のおかげなんで」

「全部?」

「ビラを配ってくれたのもそうですし、今回の作戦だって、玉木先輩に買ってもらったあのゲームからゆのが着想を得たらしいし」

「……ふーん」

「もしかして先輩。全部分かった上で俺にゲームを渡して、ゆのが気づくようにしたんじゃ——」


 そう言うと玉木先輩は、俺のおでこにデコピンをして高らかに笑った。


「もー考えすぎ。たまたまだから」


 本当にそうだろうか。

 バイト終わりに公園で話した時、玉木先輩は俺たちが手のひらで踊らされていると言った。

 きっとこの人は未来さきが分かった上で、余裕の笑みを浮かべながら駒を進めているのだろう。まるで将棋だな。


「それよりおめでとう。これで心理学実験同好会は心理学実験部になれるよ」

「俺的にはどうでもいいんですが……まぁ、いいか。ありがとうございます」

「これで神宮寺もあたしにちょっかい出さないと思うし、生徒会長に2期連続当選も確実かなぁ」

「そりゃそうでしょ。玉木先輩以上のカリスマを持った生徒はいないですし」

「……」


 玉木先輩は急に真面目な顔をこちらに向ける。


「ね、今からちょっと変なこと言うけど、いい?」

「へ、変なこと? ……ってまさか! 俺とエッ」


「佐野くんを生徒会に入れてあげる」


 ……は? え? 生徒会?


「俺が、生徒会ですか?」

「嫌なら断って構わないけど、仮に断るならあたしと絶縁だから」

「いやいやいや。そんなの嫌ですよ!」

「嫌? どっちが?」

「玉木先輩と絶縁の方です!」

「ふーん……じゃあ、生徒会入るの?」

「……そ、その前に! 俺に生徒会の仕事が務まると思います?」

「務まるよ。だってキミは、あたしの隣に立っていても唯一チビらなかった男だもん」


 俺も毎晩違う意味で(自主規制)てるんだけどナ!


 ……先輩はああ言ってるけど、俺に生徒会なんて、本当に務まるのだろうか。(急に真面目)


「生徒会って言ってもあたしの隣にいるだけでいいし、文句言う奴がいたらあたしが消してあげる」

「はぁ……先輩は俺のこと買いかぶりすぎっすよ。俺は至って普通のオタク内弁慶陰キャ(なのにタラシの)男子高校生で」

「はいはい文句言うなら絶縁するよー」


 玉木先輩は絶縁を引き合いに出して俺を脅してくる。


「玉木先輩がやれと言うならやりますけど。その代わりどうなっても知らないですから」

「じゃあ決定で」


 玉木先輩がなぜ俺に拘るのか、なぜ俺をそんなに買ってくれているのか、理解できなかった。

 でも、前に一人が寂しいみたいなこと言ってたし、俺を生徒会に入れるのもそういうことなのだろう。


「やっぱり玉木先輩って寂しがり屋なんだ」

「は?」


 玉木先輩は舌打ちしながらその魅惑のふとももで俺の尻を蹴る。(ありがとうございます)


「もぉ〜、玉木先輩ったら素直じゃないんだからぁ」

「うっさい。あたしをそーゆうキャラにするのやめて」

「でも俺、玉木先輩のそういう所好きっすよ。強くてカッコよくてヤンギャルで……何より俺だけ特別扱いしてくれるし」

「……なんで特別扱いするか分かる?」

「そりゃあ……俺のことが好き、とか」

「調子乗んなっ」


 またしても玉木先輩の足が俺の尻を蹴り上げる。


「なっ! 絶対好きでしょ! いつも俺のことストーキングしてるし!」

「ストーキングじゃないから。あれは……キミを守ってあげてるの」

「本当かなぁ」

「佐野くんの方こそ、前にあたしのこと好きって言ってた割には、まほろちゃんとかお嬢と仲良くしてるよねー?」

「ほら、すぐそうやって嫉妬するし。好きじゃ無いなら別に気にならないっすよね!」

「は? 別に嫉妬とかしてない!」

「してますー」

「してないっ」


 睨み合う俺と玉木先輩。

 3秒くらい無言で睨み合っていたら、なんだか馬鹿らしくなってきて、笑みが溢れた。

 俺に釣られて、玉木先輩も吹き出して笑った。


「あははっ、なんかバカみたい」

「そっすね」


 のんびり話し込んでいたら、すっかり空の色も茜色に変わっていた。


「さ、行こうか佐野くん」


 玉木先輩は紫色の何かをこっちに向かって投げてくる。

 俺は反射的に両手を構えると、それを受け取った。


「これは……っ」

「虹村咲高校生徒会の腕章。さ、見回り行くよー」

「えぇー、デートって見回りなんすか?」

「文化祭と言えば不純異性交友だからね。自由な校風も大事だけど、風紀を乱しちゃダメなの」

「はぁ……」


 玉木先輩に上手いことコキ使われてる感が否めないが、まぁいいか。


「見回りが終わったら特別な場所に連れて行ってあげる」

「え、まさか俺と不純異性交友を」

「しないから。勘違いすんなっ」


 3度目の尻蹴りを食いながらも、俺は生徒会の腕章を腕に巻いて玉木先輩の後をついていくのだった。


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