文化祭デートα 01
ゆのたちが他のテーブルへ接客しに行ったので、その仕事っぷりをおかずにしながらオムライスを食べる俺と先生。
メイドを見ながら食べるメシ、うんメェぇぇ。
先生も「眼福ですねぇ」とニンマリしながら、あくせく働くメイドたちを舐めるような目で見ていた。
「先生ってやけにメイド喫茶に詳しいですけど、もしかして行ったことあるんすか?」
「もちろんです! 大学生の頃は、喋り相手欲しさにアパートの近くにあったコンカフェに通ってましたから。ほら、これがその時の写真です」
先生は懐から一枚の写真を取り出した。
メイド服姿の女の子と、大学生時代の先生と思わしき人物(メガネに無地の白Tを着たロリ)が写っていた。
コスプレの女の子が先生の身長に合わせてしゃがんでおり、先生は手でハートを作ろうとしていたが、その子はガン無視で親指を突き立てグッドをしている。(なんだこの見覚えのある黄金比は)
「この子、私の最推しなんです。はぁ、かのんちゃん。今、どうしてるのかなぁ」
「(うわキモいなぁ安西先生)この写真って、先生が大学生の時っすか?」
「そーです! ん? 今喋る前に変なこと考えてなかったですか?」
「悔しいけど、20の頃の先生って、それなりに可愛いかったんすね」
「あったりまえで…………は? 私まだ20代ですけど!」
「…………」
「何ですかその目は! 嘘じゃないです!」
エリ先がハバ卒を詐称しているように、安西先生も実は30代だったりしないか?
「まさかこの私が30代に見えるんですか⁈」
「見えるというか……先生っておっさんくさいところあるから。特に酒とか、酒とか」
「もー! そうやってすぐ私を酒狂いみたいに」
「酒狂いでしょ」
「ムキーっ! こうなったら佐野くんに良からぬ噂を流して仕返ししてやります」
「仕返しって一体何を」
先生は手元のスプーンを握り直し、自分のオムライスを掬うとそれを俺の方に差し出す。
「さぁさぁ、私のあーんオムライスを食べるのです。これで私と佐野くんがラブラブという噂が流れれば、あなたのモテ期とやらも崩壊……!」
「はむっ」
「…………え」
俺は軽く身を乗り出し、先生が差し出したスプーンのオムライスを食す。
「さ、さ、さ、佐野くん⁈ こ、これじゃ、間接キ、き、きき」
「いやいや、先生にはゲロぶち撒けられたことあるんで、今更気にしてないっすよ」
トマトケチャップと同じくらい顔を真っ赤に染めながら過呼吸になる先生。
「あれ? 仕返しするんじゃなかったんすか?」
「も、もういいです!」
ふっ、先生もまだ青いな。
モテ期で調子の良い、この俺を転がせるのは玉木先輩ただ一人なんだ。
ひとしきり先生で遊んで、心もお腹も満たした俺は、会計を済ませると教室を出た。
メイド喫茶、最高だったぜ。
「この後どこ行きます? 個人的には科学部がやってるスライム作りに行きたいのですが」
「はいはい、もうメシ食ったんだから屋上に戻りますよ、先生」
「えー! スライムほしぃですー!」
「子どもかッ!」
地団駄を踏むガキ(26歳)を誰かこのアラサーを保護してくれ。(切実)
「フリーハグ、あと数人やったら終わりにするんでそれまで我慢してくださいよ」
「むぅ……嘘つき」
「う、嘘?」
「フリーハグが終わったら、南雲さんとデートに行くくせにっ」
「ちょ、それ、なんで知って」
「その後は生徒会長とデートするくせに」
「ちょ、誰が俺の個人情報お漏らししてんだよ!」
先生はツーンと鼻を曲げてしまう。
ったく、面倒な大人だ。
「先生、もしかしてまた嫉妬すか?」
「…………」
「否定はしないんすね」
先生は唇をムッとさせながら、そっぽを向く。
「……佐野くんは分からないかもしれないですが、友達が別の友達と楽しそうにしてたら、なんか嫌な気持ちになるじゃないですか」
「あぁ……なんとなく理解できるな」
「多分それなんです」
「それを嫉妬って言うんだが……」
国語の担当教員なんだからそれくらい分かってくれ。
「……私も、佐野くんと遊びたいです」
ったく、先生も俺のこと好きすぎだろ。
俺は頭を掻きながら、呆れ顔で先生の顔を覗き込んだ。
「あーもう分かりましたよ。科学室行ってスライム貰ったら屋上に戻りますからね」
「やったー」
はぁ……。またこの人を甘やかしてしまった。
✳︎✳︎
《次回、新キャラ登場》
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