文化祭が始まる01

 

 ——文化祭当日、全校朝礼にて


 薄暗い体育館でステージだけがライトアップされる。

 体育館中の生徒が、文化祭の開幕を心待ちにしている。


「実行委員長、よろしくお願いします」


 2日間で行われる虹校文化祭。

 伝統の文化祭は、長年生徒会が主導となっていたのですが、今年は違うですの。

 ステージに登壇してマイクの前に立つと、わたくしに視線が集まる。


 この日のために全てを捧げて来た。

 昨年、玉木若葉に負けてからというもの、わたくしがここに立つことは無かった。

 選挙で負けたあの日から、廊下を歩いているだけで侮辱されたこともあった。

 だから今日こそ、雪辱を果たす。


「ただ今より、文化祭を開催致しますの」


 万雷の拍手が起こり、生徒たちが歓声を上げる。

 わたくしは高揚感を味わいながら降壇し、全校朝礼が終わるとすぐに実行委員会のメンバーが待つ会議室へ戻った。


 既に席に座っていたのはわたくしが直々にスカウトした精鋭たち。

 全員にメガネをかけさせ、常に実行委員会の腕章を巻いて行動するよう命じた。


「あなたたち、しっかり見回りをすること。違反行為を見つけたら罰すること」

「「はいっ!!」」

「さぁ、お行きなさい!」


 実行委員会の面々が会議室から飛び出す。

 わたくしは優雅にお紅茶を嗜みながら、窓の外に目を移す。


「フリーハグだなんだとふざけた事をしているあの連中が自爆すれば、その時点でわたくしの勝ち。玉木若葉と戦わずして、勝てる」


 我ながら完璧な戦略。

 神宮寺家の女には生まれつき豪運が備わっている。

 1年前は玉木若葉の前に屈したものの、こんな形であの女をブチのめす機会が得られるとは、まさに僥倖。


「あらわたくしったら、ぶちのめすなんてはしたない言葉を使ってしまいました。おほほ」


 美しさも可憐さも、わたくしの方が上。

 玉木若葉は卒業する前に捻り潰す。


 憎悪なんて生やさしい言葉では言い表せないこの怒り。

 今度はあなたに味わわせてあげますの。


「いっ! 委員長大変です!」


 実行委員会副委員長のメガネ男子田中が会議室に戻ってきた。

 息を切らした田中が駆け寄ってくる。


「ど、どうしましたの?」

「あ、ああ、あの連中が!」

「落ち着きなさい。ほらお紅茶ですの」


 近くにあったカップにお紅茶を淹れて飲ませると、落ち着いた田中が話し始める。


「あの、玉木若葉の陣営が!」

「どうしましたの?」

「あいつら! 校舎前でフリーハグではなくビラ配りをしています!」

「び、ビラ配り?」

「全くフリーハグをする様子もなく、配ってるビラも1年B組のチラシみたいで」


 フリーハグをしていないってことはつまり……勝負を諦めた?


「くっ、くくく……っ」


 こんなことが、あっていいのかしら。


「く、くっははははっ! 滑稽ですの! わたくしは、あの玉木若葉に勝った! 最高の場所、最高の条件を与えてあげたのに、開始20分ですでにこのザマ! わたくしの完全勝利ぃぃぃいいい! うりぃぃぃいいいっ」


 玉木若葉は問題児佐野孔太に抱かれ、言いなりになったただの毒婦!

 所詮不良はただの不良! 生徒会長の器ではない!


「あの女は、見かけだけのザコだったのよ! あははッ!」


「あ……あのぉ、喜んでいらっしゃるところで申し上げにくいのですが」


 田中は今にもお花摘みをしたそうな顔でモジモジしている。


「どうしたのかしら? わたくしたちは圧勝したのよ?」

「ひ、一つだけ懸念的がありまして」

「懸念? 何を懸念することがあるのかしら? 相手は無抵抗に白旗を振ってるのよ?」

「……そ、そのー」

「?」


「じ、実は……そのチラシを配っているのが、玉木若葉なんです」


「……は?」


 玉木、若葉が1年B組のチラシを、配っている?


「なぜ玉木若葉が⁈」

「分からないんです! でも校舎前でフリーハグはしていないし、アイツらは負けを認めているのだと思っていたのですが」


 ……違う。玉木若葉は何か企んでいる。

 1年前。わたくしが負けた生徒会長選挙でも、1年生のあの子に2年生の票が流れた。


 きっとあの女は、まだ何か。


 ✳︎✳︎

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