文化祭準備開始!03
なんか、今日はあちーな。
エアコン付けっぱで寝たはずなのに……。
「ん……なんだこれ?」
左手に何か柔らかい感触が。
ちょっとひんやりとした触り心地。
何度も揉みしだいていると、隣から変な声が聞こえる。
「むにゃっ、むにゃっ」
柔らかい、それにこの、真ん中にある小さな突起は……。
人差し指でその突起を弄ると「むにゅっ!」という声を出し、何かが反応する。
……この声とこの感触、まさかッ!
「せ、先生のお——」
「もー、しゃのくんったら〜、ほっぺ揉み揉みしないでくださいよー」
隣で寝ていたロリっ子(26)。
俺の目を覚まさせた左手は、先生の頬をひたすらぷにぷに触っており、疑惑の突起は頬の真ん中にある蚊に刺されだった。
……んだよ、興奮して損した。
まぁ? 安西先生のを揉んだところでこの俺が興奮するわけないが。(童貞)
「おはようございます、先生」
「おはようです〜」
なんだそのハ●ナンデスみたいな気の抜けた声は。
「眠気のせいで忘れてたが、まさかこのベッドで寝てたんすか?」
「そーですよー」
さっきからまだ半分寝ているのか安西先生の反応が頭のわるい人みたいになってる。
俺は身体を起こしてスマホの時計を確認すると、既に7時を回っていた。
「や、ヤバいっすよ先生!」
「なんですかー、もー」
「ゆののやつ、月曜日は珍しく早起きするんです!」
「早起きい?」
「朝メシに誘ってくるんです!」
言った瞬間、ドアをノックする音が部屋中に響き渡る。
「……孔太くーん、起きてるー? 今日は朝ご飯にうどんの豆腐和え作ったんだけどー」
またうどんかよっ! しかも豆腐和えって。
「白と白……いやいやツッコんでる余裕無いわ。先生、とりあえずタオルケットの中に隠れて」
「は、はいっ!」
俺は足元にあった先生の黒い手提げ鞄と、玄関にある靴を風呂場に放り投げて、自分もベッドに飛び込む。
「なんでベッドに戻って来るんですか!」
「どうやらゆののやつ、今、合鍵で入ろうとしてるみたいで。起きてたのにさっき応答しなかったから、怪しまれる」
「だ、だとしても、こっちに来ないでくださいよ!」
先生が身体を無理矢理縮めて隠れていたタオルケットに、俺は下半身をツッコむ。
「きゃっ、佐野くんの股間が私の手に」
「そんなの今はいいから」
——ガチャンっというドアノブを捻る音と同時に、一瞬、俺と先生の鼓動が止まる。
俺は咄嗟にタオルケットを広げ直し、自分の下半身と先生の身体を隠そうとする。
まだ先生の頭が俺の腹部から出ていたので俺は先生の頭を抱え込むようにして、横に寝転んだ。
「孔太くん? おーい、そろそろ朝ご飯食べないと」
ゆのが部屋に入ってきた。
よし、今起きたフリをすればなんとか。
「ん? ……この、オリエンタルフローラルの匂い……かなり高級な香水のような。この香り、確か、せん」
「ふぁぁーあっ。おー? ゆのじゃねーか」
俺は目を擦りながらゆっくりと身体を起こし、先生をタオルケットに隠してベッドから立ち上がる。
「今起きたの?」
「おう」
ゆのは懐疑的な目でこちらを睨んでくる。
「な、なんだよ」
「ううん。ちょっとね、変わった香水の匂いがするなって」
「……昨日さ、帰りに玉木先輩と女性モノの香水買いに行ったら、試供品こぼしちゃってよ、その香りだと思う」
——嘘である。
「……そ、とにかく朝ご飯食べに来てね。早くしないとわたしが全部食べちゃうよ?」
「おいおい炭水化物ばっかり食べてると、またその胸がデカくなっちまうぞ」
「うるさいですぅー。わたしのおっぱいは孔太くんに関係ないしっ。とにかく、はやく着替えて来てねっ」
ゆのはそう言い残して部屋から出ていく。
苦しい言い訳だったが、なんとかなったみたいだ。
汗を拭いながら、俺は先生のスーツを風呂場から持ってきてベッドの上に置いた。
「先生、もういいっすよ」
「ぷはあっ……。さ、さっき佐野くんのお●ん●んを思いっきり触ってしまいました。もうお嫁に行けない」
「行く気も無いくせに」
「何か言いました?」
「さっさとスーツ着たら登校してください」
「むぅ……私もうどんの豆腐和え食べたいです」
「食っとる場合かーッ!」
先生を着替えさせて、ドアスコープでゆのがいないことを確認すると、俺は先生を外に出す。
「じゃあ、また後で」
「分かりました。放課後フリーハグの時に会いましょう」
その時だった。
「あれれー、おっかしぃなぁ」
——これはゆのの、声っ。
いや待て、さっきいないことを確認したのにいるわけガッ⁈
ドアの影からゆのが姿を現した。
まるで電車からブチャラ●ィが現れたあのシーンみたいに。
「開いた時のドアの後ろなんて、ヤンデレADVやってる孔太くんなら気づくと思ったんだけど」
「しまっ!」
「やけに怪しいと思ったら一体誰を連れ込んで……って」
ゆのは先生の姿を確認すると、口をあんぐり開けて呆然と立ち尽くし、「ウギャーッ」と発狂した。
「な、なな、なんで! 孔太くんには島にいる時からロリにだけは手を出さないように洗脳と調教を繰り返してきたのにッ! ま、まさか、先生とヤッたの?」
「ヤッてない! これはマジで!(ん? 洗脳?)」
「どうなの、先生?」
「……ま、まぁ、そのー。どうでしょう?」
このメスガキッ!
この期に及んでまた思わせぶりなことを。
「大切な童貞が……」
「自分のものみたいに言うな」
「孔太くんだって、飼ってた昆虫が増殖してたらショックでしょ⁈」
「この前のよりグレードダウンしてるんだが。とにかく先生、いい加減誤解とかないとゲロのことクラスでネタにしますよ」
「ひ、ヒィぃぃぃ! それはダメです! き、桔川さん、意地悪言ってごめんなさいっ」
俺が脅したら、先生はあっさりお得意の土下座を披露してくれた。
「ど、どゆこと?」
「まぁゆの、落ち着いてくれ。実は——」
ゆのに昨日のことを説明する。
ちなみに、先生と良い感じの雰囲気になってたところだけは、忘却の彼方に葬り去った。
「こんだけ謝ってるし、許してあげようぜ。詫びの2万のうち1万は心理学実験同好会に入れるからさ」
「……先生、本当に孔太くんに手を出してないんですね?」
「も、もちろんです!」
「……分かった。じゃあ、みんなで朝ごはん食べよっか」
「私も、良いんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます。桔川部長」
なんだかんだでゆののやつ、先生には甘いんだよなぁ。
俺だったらコーポ出禁にするのに。
まぁ、何はともあれ、心理学実験同好会の3人で飯を食うのは新鮮だ。
うどんの豆腐和えが進まない俺とは対照的に、雑食の先生はウマウマと言いながらうどんを啜った。
「桔川部長は佐野くんのこと好きなんですね」
「す、好きとかじゃないですっ。あくまで管理してあげてるだけだから!」
「佐野くん、彼女はツンデレというやつなんですか?」
「まぁ、そんなところっすかね。俺のこと好きなくせに最近は反抗期なのか嫌いアピしてくるんすよ」
「してない! 本当に嫌いだし」
ゆのが俺の茶碗の中にうどんの豆腐和えを追加してくる。
……余計なこと言わなければ良かった。
「ちょうどこのメンバーが揃ってるし、今日から2日間で準備することを説明します!」
「おお、やっとだな」
「まず、わたしと孔太くんは——」
放課後にやることが割り振られ、俺たちはスタートラインを切った。
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