陰キャ、即日バイト始める03

 

 ゆのが……生徒会に?


「わたしが生徒会に入ったら心理学実験同好会は、孔太くんはどうなるんですか!」

「心理学実験同好会は好きにしたら? でもね」

「でも?」


「悪いけど、佐野孔太はあたしが貰う」


 玉木先輩が、俺を貰ってくれる……⁈

 玉木先輩とあんなプレイや、こんなプレイを……毎日、できる。


「ごくりっ。俺は一向にかまわ」

「ダメです! 孔太くんは心理学実験同好会の大切な部員で!」

「そんなの関係ないから。この子はあたしが貰う」

「やだ! 孔太くんはわたしのペット兼財布なんです!」

「は? 佐野くんはあたしの下僕兼舎弟なんだけど」


 おいおい、こんなところでヒロイン同士のバチバチイベント始まっちまったぞおい。

 俺はモテ期の男だし、仕方ないのだが…………てか二人とも俺のこと人間以下の扱いしやがって。(最高だぜ)


「まあまあ二人とも。俺を取り合って喧嘩すんなって」


「「黙ってろ下僕(財布)ッッ!」」


「く〜ん」


 俺が犬みたいな声を出しながら先輩の肘置きに戻ると、また話が進む。(俺は帰った方がいいのかもしれない)


「佐野くんなんかで見苦しいなぁ、ゆのちゃん」

「生徒会長こそ、孔太くんみたいなセクハラゴミクズ男子に拘る理由がわかりません!」


「…………」

「…………」


 玉木先輩のキレ具合も相当だが、それにビビらないゆのも凄いな。

 玉木先輩の黄金の覇気に対して、ゆのは白金の精神力で対峙する。

 凄い、二人の背後にスタ●ドが見えるぞ。

 やはりス●ンド使いはスタン●使いにひかれ合うってわけね。(適当)


「まぁまぁお二人とも。今後も俺は玉木先輩の下僕として忠誠を誓いますし、ゆのの財布としてしっかり貢ぐので、喧嘩はこれくらいに……」


 二人から怒気のオーラが消えていく。


「話したいことは全部話したから、あたしもう帰るね」

「生徒会長!」


 ゆのは玉木先輩を呼び止める。


「孔太くんの話は置いておいて。わたしは神宮寺先輩よりあなたに恩があるから、生徒会長が望むなら、わたしも生徒会に入ります」


「……ふーん。ゆのちゃんってあたしのこと好きなんだね」

「す! 好きとかじゃ」

「嘘だねー。揉まれた時にときめいちゃった?」

「違いますっ、わたしそっちの気はないんで!」


 百合が咲きます。大切にしましょう。


「さっ話すことは全部話したし、佐野くん行くよ」

「行く?」

「佐野くんは、こんな夜に女の子を一人で帰らせるのかな?」

「あぁ、そういう……⁈」


 これってつまり、玉木先輩とお家デート……⁈


「玉木先輩、俺、準備OKですから。とりあえずコンビニでアレを買いに」

「じゃあゆのちゃんを先に送って行こうか。君たちのコーポに着いたら佐野くんは連れてくね」

「分かりました。孔太くん、生徒会長と変なことしないでよ」

「……玉木先輩、しますよね」

「佐野くん次第かなぁ」

「ダメですから!」


 ✳︎✳︎


 先にゆのをコーポに送り届けてから、玉木先輩を送ることになった。


 真っ暗な夏の夜。

 街路灯の光と月明かりだけを頼りに人気の無い道を2人で歩く。


 玉木先輩と2人、ワンチャンあるだろこれ!

 やるしかない、今しか無いんだッ!


「玉木先輩! 俺を」

「部屋になら入れないよー」

「なんでそんな先読みするんすか!」

「佐野くんの言うことなんて、えっちなことか下心かの2択だし」


 さすが玉木先輩、よく分かっていらっしゃる。


「つーか佐野くんってさ、あたしのこと好きなの?」

「はい!(即答)」

「嘘つきっ」

「いてっ!」


 久しぶりに玉木先輩のデコピンを喰らった。


「た、玉木先輩の方こそ、彼氏いるくせに俺で遊んで! 性格悪いっすよ!」

「彼氏? いるわけないじゃん」

「……え? でも、ゆのと安西先生が玉木先輩には大学生彼氏がいるって」

「いないいない。だってあたしより強い男を見たこと無いし」

「強い、男?」


 俺が首を傾げていると玉木先輩が突然こっちを向いて拳で空を切った。

 時間差でシュパンッという音がして、拳と俺の直線上にあった木の枝が、折れて落ちていく。


 一体何が……起こったんだッ。


「あたしより弱い男に、あたしを守れると思う?」


 さっきまでの玉木先輩とは目の色が変わっており、完全にヤる時の目をしている。

 さっきのは物理的に無理があるだろッ!(マジレス)


「あたしは一人でいい。高校を制覇した時も、周辺の街を制覇した時も、全部一人だった。そして今も……生徒会で一人」


 玉木先輩の足が止まり、反射的に俺も足を止めていた。

 玉木先輩にしては珍しくどこか寂しげな顔をしていた。


「……お、俺はっ!」

「な、何? 急に大声」


「俺は! 喧嘩じゃ玉木先輩の足下にも及ばないけど……いつか玉木先輩を守れる男になりたい、です」


「……嘘」


 玉木先輩はまた俺のおでこにデコピンしようと手を伸ばす。

 こんな弱っちい俺じゃ、信じてもらえない……よな。

 覚悟して痛みを受け入れようとしたが——


「じゃないみたいだね」


 玉木先輩は手を下ろすとそのまま俺に抱きついてくる。


「休日だけどさ……フリーハグ、してよ」

「……は、はいっ?」

「いいから」


 誰もいない薄暗い夜道に街路灯の下で抱擁した。


「先輩は、ゆののことを評価して生徒会に迎え入れようとしてますけど、本当は寂しかっただけなんじゃないすか?」

「…………っ」

「俺たちに構ってくれるのも、いっつも俺と遊んでくれるのも、全部先輩が寂しいからなんじゃ」

「……黙って抱いてろ、ばか」


 少し涙声の玉木先輩が、俺の胸元にずっとおでこをなすりつけていた。

 俺がその金色の髪を優しく撫でても怒らない。

 いつもより強く抱きしめていても、何も言わなかった。


 ただその顔を見せることなく、ずっと俺の胸の中に顔を埋めたのだった。


 ✳︎✳︎


 玉木先輩の家は、高級住宅街にあるマンションの最上階らしい。


「でっか。絶対家賃何十万円もしますよね。ご家族で住んでるんすか?」

「ううん。あたし一人暮らしだから」


 一人暮らし、ねぇ。

 帰り道でしんみりムードになったことで、えっちなイベントスチルを回収できなくなったことを後悔しながら、俺はマンションのロビーまで玉木先輩を送って、またコーポへと向かう。


「悪いこと言っちゃったかな」


 玉木先輩はプライドの強いお方だ。

 寂しいとか思ってるわけないのに、俺があんな執拗に言ったばかりに変な空気に。


 でもこれって傷心ヒロイン慰めゴールインなのでは……?


「やっぱモテ期の俺、ツェェ」


 と調子に乗っていたら、俺の前に第3の刺客が現れる。

 先輩のマンションからコーポまでの間にあった飲み屋街。

 そこにいた、小さな悪魔。


「あれれー、しゃのくんざゃないですがー」


 第3の刺客、26歳独身ロリ。

 何故かいつものスーツ姿で現れた酔っぱらい教員こと安西まほろ。


「ちッ、なんで玉木先輩といい感じのラブコメした後にこの酔っ払いがエンカウントするんだよ」

「しゃのく……オぇっ」


「あ」


 虹のフィルターがかかったアレが俺に襲い掛かる。


【To Be Continued】

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