陰キャ、即日バイト始める02

 

 即日バイトはまだ続く。

 ソーセージ焼きまくったせいで、身体中がソーセージ臭くなってることを自覚しながらも真面目に働いた。


「労働、最高だな。やりがいこそ生きる喜びだぜ(洗脳済)」

「そだねー。ここのバイト結構楽だし今後も続けよっかなぁ」

「お前は毎月のように学術書を取り寄せるのを辞めれば少しは浮くだろ」

「やだもん! 心理学者には必要なものなんだもん!」


 勉強熱心なのが祟って、ゆのは俺以上に金銭感覚が終わってる。

 図書館にも無いような海外の学術書を買い漁っているせいで、毎月もやし生活をしているのだ。

 もやしばっか食ってるのにこの胸……けしからん。


「孔太くんもここのバイト続けてみない?」

「……そうだなぁ、食材買いに来た委員長に、俺のウインナーを毎日食べさせられるならアリだな」

「キンモッ」

「ゆのも俺のち……ウインナー食うか?」

「マジで●すよ?」


 ゆのはウインナーを切る小さめのナイフをこちらに向ける。


「出たな、オタク女子のキレ方」

「それ偏見だから」


 ゆのとダラダラ喋りながらウインナー売っていたらあっという間に時間が過ぎていった。


「委員長が来てから何のイベントも無し。はぁ……こんな時、玉木先輩が来てくれたらなぁ」


 そう呟きながら周りを見渡す。


「漫画じゃあるまいし、フラグを立てたからってそんな都合よく来るわけないでしょ」

「そんなぁー。玉木先輩の私服姿を写真に収めてぇよ。あわよくばバイトの後に夜デートして俺の部屋に呼びテェ」

「陰キャのくせに口だけは達者だね。あのヤンキー生徒会長が弱っちい孔太くんのことを男として見てるわけないじゃん」


 俺はショックで突然の発作が起きるのをグッと抑えた。


 た、たた、玉木先輩に彼氏がいるもんかっ。

 俺とあんな濃厚なデートをしたんだから少しは男として見てくれてるに違いないっ。


「大丈夫だ、問題ない。俺は先輩の名誉を守るために今もこうしてバイトもしてるんだ。先輩は俺のこと褒めてくれる」


「生徒会長には彼氏いるって噂だけどね」


「あ、あがが、あがががが」

「金髪ヤンキーだけど普通に美人だし、男子から人気あるし、孔太くんじゃあ、とても」

「あぶぶぶ」


 あが、あがががががが。

 あぶぶぶぶ。


「孔太くんを死体蹴りするの楽しー」

「そうだそうだもっとやれー」

「あはは……え?」


 ゆのの真横に立っていた人物。

 黒のオフショルダーに太もものラインが見えるデニムパンツ

 そして胸元にサングラスを掛けてる金髪の美少女。


「佐野くん、お疲れー」

「玉木先輩っ!」


 めちゃくちゃ大人びたスタイルに感動。いや、歓喜。

 休日の玉木先輩は自慢の金髪にカールがかかっていて、いつもの威圧感よりゆるふわ系の印象が強い。


「玉木センパーイ、ゆのがいじめる〜」

「バイト中なのに泣かないの。男の子でしょ?」

「ばぶー」


 バイト中だけど玉木先輩は俺の頭を撫でてくれる。


「孔太くんマジでキモいんですけど。生徒会長もこんなのを甘やかさないでくださいっ!」

「えーいいじゃん可愛いし」

「全然可愛くないし、ダメですっ」

「ゆのちゃん嫉妬深いなぁ」

「嫉妬なんてしてないですから!」


 ゆのはキレ気味で言い返す。

 ゆのと玉木先輩が俺を取り合って喧嘩を始めてしまった。

 俺も罪な男だぜ。


「あとどれくらいでバイト終わるの?」

「10分くらいです。あ、もしかしてバイト終わってから俺とデー」

「2人にジュースでも奢ってあげようかなって思っただけ。私はもう少し見て回って時間を潰すから。スーパーの前で待ってるねー」


 玉木先輩はそう言うと別のエリアに姿を消した。


「玉木先輩、やっぱ俺のこと好きだよなぁ」

「自惚れんなこの陰キャ童貞」


 ✳︎✳︎


 バイト後、しっかり給料を貰って、俺とゆのはスーパーを出た。


「お、お待たせしました!」

「大丈夫大丈夫」


 玉木先輩はスーパーの前でヤンキー座りしながら俺たちを待っていてくれた。

 やっぱ本物のヤンキー座りは貫禄あるぜ。

 俺たちが来たのと同時に、玉木先輩は買い物袋からジュースを2本を取り出す。


「はい。ゆのちゃんはミルクセーキで佐野くんはドク●」

「ありがとうございます玉木先輩っ! 初めてなんすよドク●っ……うわ、めっちゃ湿布」

「チョイスに悪意があるような気がするんですけど?」

「なにゆのちゃん? また胸揉まれたいって?」

「違います!」


 ゆのは胸元を必死に隠した。

 玉木先輩、揉めっ!! 揉めー!!


「話したいからさ、ちょっと移動しようか」


 玉木先輩に誘われ、俺たちはスーパーの前にある公園に場所を移した。

 夕方過ぎの公園は閑散としていて、誰一人として遊んでいない。

 公園に着いたら、すぐに玉木先輩はブランコに乗ってゆらゆらと揺られていた。

 ゆのもその隣のブランコに座って、ミルクセーキを口にしている。


「玉木先輩はなんでこのスーパーに?」

「お嬢からキミたちがバイトしてるって聞いて冷やかしに来たんだー。つーかなんでバイトしてんの?」

「わたしたち、文化祭の費用が無くて」

「あぁ。同好会は文化祭費無しって決まりだったっけ?」

「はい……」

「大変だなぁ。ま、廃部がかかってるもんね」


 玉木先輩は他人事のようにそう言って、ブランコを足で止めた。


「佐野くんとのフリーハグ、好きだったけどね、わたし」

「玉木、先輩……。お、俺も先輩とのフリーハグが、好きでした」


「なんで2人とも廃部前提なの! わたしたち文化祭で成功するんで! あなたの名誉も守ってあげますから!」


 ゆのはブランコから立ち上がって言い放つ。


「……ま、その様子だとキミたちも私の掌の上で踊ってるんだね」


 玉木先輩は妖麗な笑みを浮かべて、俺を手招きする。


「佐野くん、背中押して」

「はっはい!」


 ブランコに乗る先輩の背中を押すと、ゆらゆらとブランコが揺れ始めた。


「子どもの頃さ、よくこの公園来たんだ。このブランコもよく乗ったなぁ」

「昔話はまた今度にしてください」

「はいはい」

「どうしても生徒会長に聞きたいことがあります。質問に答えてもらっていいですか」

「いーよー」

「……生徒会長、あなたの目的はなんですか。わたしたちにこんなに良くしてくれて、何も無いわけないですよね」

「あたしがキミたちを支える目的は一つ」


 玉木先輩はブランコに揺られながら、話を続けた。


「この学校の叡智である桔川ゆの……あなたを神宮寺なんかに渡さないため」


 衝撃の告白に、俺とゆのは目をかっ開いた。

 ゆのを、渡さない、ため?


「わ、わたし?」

「うん。秋の生徒会選挙、神宮寺は昨年のリベンジに間違いなくあなたを選ぶと思ってた」


 確かにその読み通り、ゆのは神宮寺先輩からラブコールを受けていたな。

 これが玉木先輩の慧眼。


「実際、1年生で桔川ゆのの胸……じゃなくて頭脳明晰なあなたのことを知らない人はいない。人望もあり、キャラクターも人気。非の打ち所がないけど、その隣にはいつも問題児の佐野孔太がいる……」

「俺をお邪魔虫みたいに言わんでくださいよ玉木先輩」

「だって実際にお邪魔虫だし」

「そんなぁ」


 俺が谷みたいな顔をしながら頭を差し出すと、玉木先輩は肘置きにしながら俺の頭を撫でてくれる。


「最初は佐野孔太を生徒会に入れたらゆのちゃんもハッ●ーセットでお得に手に入ると思ってたんだけど……思いの外、佐野孔太を手に入れることのデメリットが大きくて」

「うほっ。もっと、もっと罵倒してください!」

「この駄犬……っ」

「うほぉぉぉー(絶頂)」

「とにかく、佐野孔太は個人的には欲しいけど生徒会にはいらない。だから桔川ゆのの同好会を支援することで、あなたに恩を売ろうと思ったわけ」

「……生徒会長も色々考えてるんですね。もっと短絡的な方かと思ってました」

「そりゃ、馬鹿が人の上に立てるほど人間って甘く無いからね。それより、頭良いならあたしが言いたいこと、分かるよね?」


 その直後、玉木先輩の野獣の眼光がゆのに襲い掛かる。

 ゆのも負けじと睨み返した。


 な、何が起こってるんだ?


 俺は頭悪いから、玉木先輩が何言いたいのか分からん!


「同好会結成、今回の文化祭、これまであなたのワガママに乗ってあげて全ての面倒を見てあげた。だからあたしが2期連続で当選した暁には、桔川ゆの、あなたは生徒会に入りなさい」

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