陰キャ、即日バイト始める01
作戦は決まった。
同時に、活動費の7割を俺が出すことも決まった。(マジふざけんな)
「で、具体的に何円出せばいいんだよ」
「ゴニョゴニョ」
ゆのは耳打ちで値段を教えてくれた。
「——は⁈ 7割でその値段なのかよ!」
「うん。わたしたちはただの同好会だし、交渉するからこれくらいは……」
「おいおい、俺はこのサ●ーンのせいでそんなに出せる経済力はねーぞ」
「そ、そんなぁ……そんなに孔太くんが困窮してるだなんて知らなかったの。孔太くんはわたしの財布なのに(ボソッ)」
「おめぇーの財布に成り下がった覚えはねぇっ!」
とは言ったものの思い当たる節が何個かあるような……。誕プレとかホワイトデーとかクリスマスとか正月とか。
「うー、こうなったら」
「はっ! もしかして身体を売るとか言うんじゃないんだろうな? 抱かれちまうのか、俺以外のヤツに」
「そんなことしないし孔太くんに抱かれる予定は未来永劫ないから」
ゆのはマジレスをかまして俺の前に一枚の紙を差し出した。
「孔太くん、わたしもマジ金欠だから、生み出すしかないの」
「まさか……」
——日曜日。
「らっしゃいませー、試食いかがっすかー」
「いかがですかー?」
赤の三角巾に緑のエプロン。
マスクを付けながら、ソーセージを焼く。
店内放送が流れるスーパーのホットプレートの前に、ゆのと2人で並んで立っていた。
「即日バイトあってよかったねー」
「……もうなんでもいい」
ソーセージの油が跳ねて顔にエメラルドスプラッシュしたが、俺は動じない。
「俺が今から長時間労働しても1銭も俺の元に入ってこないならやる気出るわけねーだろ」
「もーっ、アルバイトなんてやりがいを感じるための時間なんだから当たり前だよ!」
「出たなパワハラ上司」
「やりがいあればなんでもできる!」
「やりがい搾取なら間に合ってんだよ」
ゆのと駄弁っていたら、黒髪メガネ女子大生の金原さん(ゆの並みにデカい何がとは言わんが)がこちらにやってきた。
「二人ともっ、喋ってると社員さんに怒られるよ」
「そうだぞゆの。ほら謝るんだ」
「あなたにも言ってるんだけど!」
金原さんは持ち場(陳列)に戻って行った。
「あぁ〜やる気出ねぇよゆのー」
「そんな孔太くんに朗報——さっき野生の委員長を見かけました」
「ダニィッ⁈」
休日にスーパーで買い物をする委員長か。
うん、最高だぜ。(理解不能)
「待てゆの! 委員長がこっちに来たら俺の(焼いた)ウインナーを委員長が食べることになるんだよな!」
「そうだよ。孔太くんの(今日)初めて(焼いた試食用ウインナー)を委員長が舌で転がすんだよ?」
い、委員長が、俺の……アアァァッ////
「佐野くん?」
「……へ? い、いいい委員長ッ!」
目の前にカートを押しながら来た委員長の姿があった。
休日の委員長は、いつもの黒髪ロングではなく、三つ編みで肩に垂らしていた。
私服姿も白のノースリーブトップスに水色と白のストライプスカート、さらにカジュアルな黒サンダルから見える爪のマニキュアが最高にえっちすぎる。
この前のお弁当といい、お淑やかキャラとのギャップが堪らんのやが。
「委員長のギャップ気持ち良すぎだろ!」
「……え?」
「孔太くん出てる! 声に出てるから」
「やっべ。ごめん委員長。私服が可愛すぎて悶絶しちゃって」
「か、可愛っ⁈」
「ん?」
「その、急に褒められても……困るから」
委員長はお約束みたいに頬を赤らめて、目を泳がせる。
——計画通りッ。
「孔太くん、鈍感系主人公ぶるのはキモいから辞めて」
「ぶってねーし!」
「き、桔川さんも……こんにちは」
「うん、こんにちは花香ちゃん。私服可愛いね」
は、花香、ちゃんだとッ⁈
「あ、ありがとう……」
「ってかさ、花香ちゃんノースリーブT似合うー! わたしだったら二の腕やばいから無理〜」
「そんなこと、ないです。桔川さんはその……大きな武器があるし」
「もー! 花香ちゃんったらー」
ゆののヤツ、俺の委員長と仲良く話しやがって。(一方的な独占欲)
しかし宗教上の理由で俺は百合の間に挟まることができない。(戒め)
「委員長。俺のソーセージ、食べてくれ」
「ソーセージ? いいの?」
「俺たち試食販売のバイト中なんだ、食べてくれ」
「……うん」
俺は爪楊枝に刺さったソーセージを委員長に差し出す。
委員長がソーセージを食した瞬間、
「……うん、普通に美味しいし、2人が売ってるなら買おうかしら」
「委員長、ご馳走様したっ!」
「ごちって……花香ちゃん、ありがとっ」
委員長はソーセージを2袋カゴに入れる。
「佐野くん……また、作りすぎたら、よろしく」
「もちろん、こちらこそよろしくおなしゃす!」
委員長との休日バッタリイベントが発生するとは、ゆの、やるじゃねーか。
俺が感謝の目配せをしたら「キモっ」と言われてカウンター目潰しを食らった。
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