まほろ先生はベタベタしてくる03


 ゲーム屋で目的の品を見つけて、会計を済ませたらすぐに店から出る。


 財布のHPを確認して帰りの電車賃くらいしか無いことに苦笑いする。

 かなり痛い出費だった……でもこれは名誉のためだ。

 紙袋の中にある黒光した機械を見る。


 買ってやったぞサ●ーン。


 汚名返上・名誉挽回には練習するしかない!


「今時サ●ーンを中古で買うだなんて……佐野くん気は確かですか?」


 先生の重症患者を見ているかのような眼差し。


「失礼なことを言うな!」

「そんな急にキレなくても……。そもそもなんでサ●ーンを買ったんです?」

「俺はこのサ●ーンでゲーム練習して玉木先輩に褒めてもらったり〜撫で撫でしてもらったり〜玉木先輩とイチャイチャするんだ!」


 唖然とした顔をしながら若干引き気味の先生。


「自分からモテ期とか言ってる割に必死過ぎませんか。そもそも玉木生徒会長があなたみたいな問題児を男として見てるわけないでしょ」

「見てるんだよなぁ、それが」

「あれだけ男子から人気があって、遊んでそうな見た目なのに、彼氏がいないわけないです」

「か、彼っ?」

「当たり前でしょ。昨年だって3年の男子生徒と噂が流れてましたし」


 玉木、先輩に……彼氏?

 玉木先輩に……彼氏、か。

 玉木先輩に彼氏……ねぇ。


 昨年3年ってことは、今は大学生……。


 玉木先輩に大学生の彼氏……。


 あ、あああわあわ……っ!


「玉木先輩彼氏玉木先輩彼氏玉木先輩彼氏玉木先輩彼氏玉木先輩彼氏玉木先輩彼氏」


「こ、怖っ。落ち着いてくださいよ。玉木生徒会長に彼氏がいるかどうかなんて、私には分からないですからっ」


 突然の発作で震える俺を、先生が背中を撫でて宥めてくれる。


「そんな……ウソダドンドコドンッッ! 俺の中の玉木先輩はヤンキーなのに実は経験無い系のうぶギャルのイメージなんだ! 大学生彼氏とかいたら、俺、死ぬかもしれない!」

「そんな乱心しなくても」


 先生は背中を甘撫でしながら呆れていた。


「佐野くんは玉木生徒会長のことが好きなんですね」

「好き、というか……玉木先輩に転がされると性的に興奮するというか」

「うわぁ、相変わらずのキモさ……。ち、ちなみに私のことはどう思ってるんです? ……まさか! 私のこともえっちな目で!」


「…………」


「露骨に嫌そうな顔しない!」


 嫌そうな顔をしたら怒られた。

 先生はエッな目で見たら負けのような気がしてならない。


 キレ散らかす先生の機嫌を取りながら電車に乗って帰路へ戻るのだった。


 ✳︎✳︎


 コーポに到着したら、穴の空いてない傘を探し出して先生に貸してあげた。


「わざわざありがとうございます」

「もう小雨だけど、気をつけて帰ってくださいね。寄り道しないこと、それと大きなお友達について行かないこと、あとは——」

「だから子ども扱いしないでください!」


 先生は俺の部屋の前で怒りの舞を披露する。


「踊ってないで早く帰った方がいいすよ」

「踊ってないです! 怒ってるんです!」


 先生はため息をついて踵を返す。


「とにかく、今日はあなたが成人指定の場所に行かなくて安心しました」

「行っても良かったんすけど……俺より先に先生が摘み出されると思ったんで」

「されませんから!」


 最後まで膨れっ面の先生だったが、去り際はスッキリとした笑顔を見せた。


「今日の佐野くんは……ほんのちょっとだけカッコよかったですよ。傘入れてくれたり、電車の時とか……色々」


 笑っているのに、どこか照れ臭そうで。

 その時の先生はほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。


「え、俺のこと好き?」

「言ってません! その自意識過剰ウザすぎるんでやめた方がいいですよっ」

「酷いなぁ」


 先生を見送ってから部屋に戻り、ゆのが帰ってくるまでゲームをするのだった。


 ✳︎✳︎

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